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080 閑話 その錬金術師は逃亡する(後日談)

 王都で起きた諸々の暴露編(?)です。


 城内を慌ただしく駆け回る侍女達に、一つ一つ部屋を確認して行く兵士と騎士達。

 何時になく忙しない中で、一つの部屋が勢いよく開かれた。

 それに咎める暇も無く、入ってくる人物から鋭い声が飛び出していく。


「何があったか、詳しくお聞かせ願いましょうか、陛下。」

「なんだ――?」


 颯爽として入ってきた人物は、この国の権力者の内の一人であり、政へ関わっている大臣だ。

 それに対して、室内で優雅にティータイムを楽しんでいた者達は、ソファーに身を沈めている。

 その内の一人が、殊更ゆっくりとした様子で、彼に言葉を返してみせた。


「一体、藪から棒に、どうした?」


 声を返すのは王だ。

 その顔に浮かんでいるのは、隠しようもない愉悦。

 あからさまに今の状況を楽しんでいる様子に、何かの予感が当たったらしく、大臣の眉がキリキリと吊り上がっていった。


「どうした、じゃありませぬっ。また彼が姿を消したのですぞ!」


 ヒステリックな様子で叫んだ大臣に、


「ああ、あの客人だな。」


 のんびりと答える王弟。

 そんな彼の側面へと、大臣がどっかりと座り込んだ。

 重厚なソファーが重みで軋んだ音を立てて、悲鳴を上げる。


「そうです!もう少し、危機感を抱いて下され!」


 自らの重みにソファーが悲鳴を上げたのも無視し、切実な叫びを上げた大臣だが、事の始まりは今朝からだった。

 朝に起こしに行った侍女へ、体調が優れないからと朝食も摂らずに部屋へと引き篭もった王の客人――ルーク。

 それに対して、昼食の誘いを兼ねて午後に様子を見に伺ったところ、既にそこはもぬけの殻だった。


 ベッドの上にあったのは、彼に充てがわれていたと思われる寝間着だけ。

 また誘拐か――と、そこから客人の大捜索が始まって、城内は慌ただしくなったのだ。


「で、それがどうしたのだ?」


 そんな大臣と城内の様子に対する王の言葉といえば、どこまでものんびりとしたもの。客人の安否を気遣う素振りすら、どこにも無い。

 王の住まう城内での二度目の誘拐騒ぎとなれば、確実に泥が塗られる事なのだが、普段よりも楽しんでいる様子を見せる一国の王には余裕すらあった。

 その様子に絶対何かあると見た大臣が、しかしそう簡単に口を割らない性格である事も知っている為に、ギリギリと歯ぎしりをして声を荒げる。


「どうした、じゃありませぬと申しておりましょう!またです。またなのですぞ!?隠し通路とやらも探させておりますが、影も形もございませぬ!何故です!?」

「ほう、そうかそうか。それは困ったなぁ。」


 紅茶を飲みながらも、ニヤニヤとして笑う国王。

 王弟はといえば「はて?それで何が問題なのでしょう?」と、すっとぼけて首を傾げて見せる。

 その様子に、苛々とした様子で大臣が口を開いた。

 

「全っ然、全く、これっぽっちも、困ってはおられませぬな!?微塵もそんな気配がありませぬぞ!?」

「いやいや、そんな事は無い。そんな事は無いぞ、うん。」


 ティータイムを楽しみつつ、ニヤニヤとして笑う二人は上機嫌だ。

 何も知らない大臣だけが、その場ではヒステリックなままだった。

 事情を知っているのか、一部の近衛騎士等は既に憐れみの視線を向けているが、感情が昂ぶった大臣は気付きもしない。


「お二方とも、むしろこの状況を面白がっておりますでしょう!?」


 そんな中で叫ぶ彼は、最早哀れ以外の何ものでもない。

 完全に、二人によって弄ばれてるようなものだ。

 実際、この叫びに対して王が発した言葉は、肯定でしかなかった。


「おや、バレたか。」


 そう言って、悪びれもせずに片眉を上げて見せる。

 あっさりと白状したこの国王に、大臣が内心で地団駄を踏みながら絶叫して悶えた。


(やっぱりぃ!)


 それでも切り込もうとして、身を乗り出す。

 と、そこに「おや?」と、王弟が横から口を挟んできた。


「まさかそれは、賢者殿との盟約を反故ほごにするおつもりという事ですかな、陛下?」

「いや?それはないぞ?」

「では、何故?」


 首を傾げて見せた王弟に、


「少なくとも、今回の事態はほぼ彼の望み通りに事が動いたからな。反故にはならん。」

「成る程。」


 シレッと重要な事を王がのたまい、王弟はただ頷いて返すと沈黙した。

 そんな中で、一人、話の流れが見えなかったのか、大臣がしきりに目を瞬かせる。


「――は?」


 彼は知らなかったが、預かり知らぬところでは、既に事は着々と進んでいたのだ。

 だがしかし――目の前の二人の会話に気を取られてしまい、最早口を挟む余裕すら無い。

 淡々と、まるで決められた筋書きのようにして、話だけが進んでいった。


「“プライドばかりが高い貴族なら、その内ちょっかいを掛けてくる。敢えて仕掛けやすい環境を作っていれば、引っかかる馬鹿も出る”――だったな。」

「ええ、ええ。“少しは頭があるのなら、罠と警戒するくらいは出来るはず。それすら出来ない阿呆なら、最早貴族としても不要”でしたな。」

「うむ。同じ価値観を持つ市井の民が居てくれるのは、非常に喜ばしい事だ。」

「それがルーク殿であれば、心強くもありますなぁ。」

「全くだな。」


 二人の話に出てきたルークの中での貴族や王族といえば、あくまで民の取り纏め役、である。

 そこを履き違えない限りは、暮らしぶりがどれだけ贅沢だろうとも必要経費と割り切れるのが彼だった。


 なぜならそれは、弱味として付け込まれないようにする為の防壁であり鎧なのだ。


 貧乏な貴族等、下手をしなくても舐められる事くらいは、平民でも思いつくものである。

 それくらいには商人とは金にがめついものだし、貧乏なら取引相手としても相応しくないと見られ、呼びかけたとしても応じてはくれない。良くて、足元を見られるのがオチだろう。


「あやつは保護を必要としないどころか、城に閉じ込めても我々が保護されかねない状態だったからな。これでは最早本末転倒だ。なに、賢者殿も、きっと分かってくれるであろう。」


 王の言葉に、しきりに頷いて肯定マンと化す王弟。

 彼も追随して、賛同の意を全面的に表していく。


「やはり、何も問題は無いですな。彼が城を出ていくのも、彼の望みでしたから。」

「うむ。責任は全て私が取る。それで今後も問題は無かろう。」


 勝手に話を完結させた二人は、大臣そっちのけで再びお茶を楽しみ出した。やれ茶葉がどうだの、今日の焼き菓子がどうだの、女子会かと突っ込みたくなるような会話を繰り広げている。

 そんな中、てっきり囲い込んで飼い殺しにでもしておくものだと思っていたのか、大臣だけが間の抜けた表情を浮かべて、呆然としたまま固まってしまっていた。

 それに気付いた国王の目に、若干の憐れみの色が混ざって溶け込んでいく。


「何だ、まだ気付いていなかったのか?」

「はぁ。」


 それでも尚、呆けたままの大臣に、王はそっと嘆息してみせた。


「本当に気付いていなかったとは哀れな――あれの計画は最初こそ穴があったものの、そこさえ乗り越えてしまえば、後は幾らでも手直しが可能なものであったろうに。」

「然り、然り。当人の能力を鑑みれば、むしろ臨機応変に対応できる分、成果はより良いものが見込めましたしな。」

「うむ。中々良い腕をしておる。あれで生活に馴染めれば、最高だったのだがな。」

「そこまで望むのは、酷というものでしょう、陛下。」

「それもそうか。」

「――え?ええ?」


 一人分かっていない大臣だが、何も連れてきた客人が単に暗殺へと巻き込まれたのではない。

 今回の城で起こった事態は、実際には最初から、ある程度の決まった筋書きがあり、それに沿うように情報が規制されて、更にはその中で動いていた結果なのだ。

 故に、ただ巻き込まれたのではなく、仕掛けて来るのを待ち伏せして、巻き込まれに行ったという方が正しい話だった。


「油断してる相手は、なんとも囮に引っかかりやすいものだな。」


 それ故に、ルークに関しての情報は長らく規制されて、城では『王に呼ばれるだけの何かを成した平民』という情報だけが独り歩きしていった背景があった。

 それに引っかかったのが、まさかの王族だったのだが予想外の事で、この為に王もルークも予想外の事態へと突入して、頭を抱えたのである。


「おかげで、少し事が大きくなってしまいましたなぁ。」


 同じく、予想外だった為に若干遠い目をした王弟が語るのも、何も無理は無い話だろう。

 最初の計画よりも負担が大きくなってしまい、ルーク本人から直談判(物理的に)されたのだから、当然だ。

 凍える氷の化身とでも呼ぶべき麗人は、普段は温厚な人物だが、一度怒るととてつもなく怖い。なまじ、顔が整っているだけに尚更だ。

 その上、時には実力行使もいとわないタイプだと、後になって王弟は気付いたのだから、その時の恐怖や生半可なものではなかった。


 更に、その実力行使を受けたのは王弟だけではない。

 この国の王も同様で、取扱注意の札でも貼っておきたいくらいだと、脅しにあった国王が会談の後でぼやいていたのは、つい最近の事である。


「――しかしながら、正妃様には感謝せねばなりませぬな。」


 そんなルークの中での誤算と言えば、囮に引っかかったのが大物過ぎた事と、あとは話にも出始めた正妃に繰り上がった元第二王妃の弓の腕であろう。

 おかげで、王国側としてはそれ程脅威は無いと判断出来て、早い段階から警戒対象からは外す事が出来ていた。

 そんな背景があって、更には貴族達へは確りと彼の恐ろしさを刻み込めた為に、ルークが城を出ていくとほぼ同時に、肩の荷が降りたとばかりに会話に花を咲かせていた。


「うむ。あれを嫁にしたのは、やはり私の目に狂いは無かったな。」

「ええ、ええ、そうでしょうとも。」

「少なくとも、不貞を働くどこぞの令嬢だった者よりは、遥かに有益だな。」

「然り、然り。」


 王の惚気に、ここぞとばかりに肯定して見せる王弟。

 新しい嫁として、またどこぞの令嬢を押し付けられても困るのが二人である。王の好みから外れると、それだけで王の『あれ』が役立たずになってしまうので、男としてもそこは必死だった。


 それに、既に世継ぎは生まれている。

 この為に、今後は王が望まぬ限りは、しばらくは婚姻話を跳ね除けられるし、束の間でもこの平和を続けたい思いでいた。


「そ、それでは――。」


 そんな二人の様子を眺めていた大臣だが、ようやく正気に戻ったのか、口を開いて顔色を悪くしていく。


「初めから、全てが彼の計画通りという事ですか!?」

「今更何を言ってる。」

「とことん、鈍いですなぁ。」」


 これに、王と王弟が揃って溜息を吐いた。

 実際には、ルークの希望に合わせて、王が大まかな筋書きを考えて、その穴埋めを王弟とルークがしていった、というのが正しいのだが、関わって来なかった者に懇切丁寧に教えてやる程、二人もお人好しではない。

 故に、


「そうだぞ?城を出る許可も既に出してある。今後も、私の名の下に許可が降りるものが出てくるだろうな。」

「やはり本物の錬金術師ともなれば、その価値は計り知れませんからな。随時お出しになられるのがよろしいでしょう。」

「それに、流石にこれ以上我が城に留めるのは、本人としては不本意なようだしな。」

「ええ、ええ。また城を凍り付かされても堪りませんし、妥当でしょうな。」


 至極当然とばかりに曰う国の最高権力者と、それに追随する王弟に、一介の大臣が食ってかかるわけにもいかない。


「な、なんと、なんという……。」


 再び、呆然としだした彼だけが、魂の抜けた様子でソファーの上で崩れ落ちた。

 何かを企んでいたのかもしれないが、その計画が最初から頓挫した様子に、王も王弟も同情はしない。

 むしろ、下手に突いて藪から蛇を出すなと言わんばかりに、彼との接触をその場で禁じた程だ。


「あやつが成したのは、何も見えるところだけじゃない。優秀なのは認めるが、それを扱いきれるだけの頭が、この国ではおらぬよ。」

「それよりは好きにさせておいて、依頼として持ち込む方が得策でしょうに。籠の鳥を望まぬのに、飼い殺そうとするなど逆効果ですぞ?暴れられたらどうするおつもりか。」


 二人から矢継ぎ早に言われた言葉に、大臣としては何も返せない。

 まさに、ぐぅの音も出ない有様だった。


「分かったら、今一度、考えなおすのだな。」

「は、はは――。」


 ルークが成した事は、多岐に渡っている。

 つい最近ならば、金がかからない方法での炊き出しや、スラムの住民への職業の斡旋等が上げられるだろう。孤児院の建設も一つの成果だ。

 そこから続いて起きた事件で、違法奴隷を扱う奴隷商と、繋がりを持っていた犯罪者集団の誘き出しに一役買い、一斉検挙までの流れを作る立役者として動いている。


 城内ならば、賄賂を受け取っていた者や、各地の陳情や告発文等を揉み消していた者、窃盗や恐喝に、着服を行っていた者の暴露。

 貴族による侍女達へのセクハラや強制猥褻、一部の令嬢への性的暴行に至るまでもが暴かれており、腐る程にあったこの国の膿を叩き出してみせていた。


 勿論、一番の功績だった元第一王妃だった者の不貞を暴いて、元公爵家一派を排除した事は大きな手柄である。

 そこから更に王の血を引いていない王女とされた娘の始末を請け負う等、王への民の印象操作にも多大な配慮を見せていた。


 これらを成したのが、たったの一月半だというのだから、どれだけ多忙だった事か。

 それに伴ったルークの怒りは最もだったが、王と王弟も流石に自分達の命が危険に晒されれば手放すしかない。

 誰だって、自分の命を天秤にかけるつもりはさらさら無いのだ。それどころか、ルークの場合は分の悪い賭けというよりも、完全に自殺行為に成りかねない。


 一応、優秀だという評価は付けている二人である。

 だがしかし、それに目を付けて取り込もうとすれば、たちまち機嫌を損ねて敵に回りかねない性格だというのも身に沁みて味わっており、下手に内に抱え込みたくないというのが本音だった。


「まぁ、当人の自己防衛力も、問題無しと見なされたからな。」


 そんな裏話をする事もなく、二人は話を続けている。

 完全に蚊帳の外なのは、今ここにいる一人の大臣だけ。王の陣営である他の大臣や、近衛騎士と侍女、更には正妃に至るまで、実は知っている事だった。


「弓を扱う者は少ないですし、何より生半可な者では、あれには太刀打ち出来ますまい。」


 故に、会話は大臣そっちのけで続く。

 知らぬは恥、とばかりに語る二人は、正妃に擦り寄ろうとするこの大臣をとことんなまでに馬鹿にするつもりだった。


「しかもそれで戦闘が苦手等と、正直何の冗談だと言いたいものだな?」

「ええ、本当ですな?」


 チラリと大臣を伺いながらも、二人が今話しているのは、ルークとの会話だった。

 勿論、ルークとて自身が飛躍的に戦闘能力が向上している事には、気付いてはいる。

 しかし、だからと言って、好き好んで戦闘を行いたいわけでもないし、きちんとした訓練を積んできたわけでもない為に、決して得意とは言えないのが実情なのだ。


 何よりも魔法使いや魔術師は、魔力が切れたらそこで終わりというのがある。

 身体能力は一般人にすら劣るし、普段素早く動けるのですら、魔力によるブーストがあって初めて戦闘でも動けるのだ。それが無くなれば――後はお察しである。


「しかし、もったいなくはありませんか?あれ程強力な魔法使いですぞ?他の兵の二倍――いや、三倍の給料を出してでも――。」


 それでも食い下がってきた大臣は、目先の事にしか気付けていないのだろう。

 その発言だけで、最早二人の顔から完全に笑みが消えたにも関わらず、自身の意見を通そうとしたいた。


「だから、それを使いこなせる頭が居ないであろうに?」

「まさか、自分なら使いこなせるなんて思っておるのか?もしそうなら、思い通りも甚だしいぞ?」


 揃って返された言葉に「グッ」と詰まる大臣。

 大臣職にありながらも、城内で好き勝手していた元公爵家には手も足も出なかったのだ。それを排除出来たルークと、どちらが上か等分かりきった話である。

 そんな『言わなくても分かるだろう事』を二度も繰り返した大臣を放っておく事にしたらしい二人は、最早処置無しとでも言いたげに、窓の外へと視線を転じた。


「さて、最後の締めはそろそろか?」

「ええ、そろそろですな。」


 何かを待つようにして口を開いた二人とは別に、ついていけない様子の大臣だけが口をポカンとして開けている。

 そこに、ガシャガシャと騒々しい音を響かせて、ノックもそこそこに駆け込んできた人物達が、揃って口を開いた。


「――失礼します!」

「ほ、報告します――!」


 入ってきたのは二人の騎士だった。

 珍しくも騎士団の中にあって、まともだった者達だ。つまりは、膿として叩き出されなかった稀有な存在である。

 そんな彼等は、一呼吸で息を整えると、爆弾を投下した。


「前庭にて、行方不明者の者と思われる氷像を発見しました!」

「氷像は地面と一体化していて持ち運びが不可能だった為、現在解凍作業が続けられております!」

「――何?」


 それに、ピキリと、空気が固まる。

 大臣だけでなく、言われた内容に王と王弟すらその場で一瞬、硬直していた。


「――氷像?」


 ややしばらくして口にしたのは、疑問の言葉。

 それに「はい!」とやけに元気よく答えた片方の騎士に、王と王弟は顔を見合わせた。

 死人が出てるにしては、やけに明るすぎる、と。

 

「それは、氷の立て看板みたいなものではなくてか?」

「い、いえ、それもあるのですが。」

「氷像も一緒です!」

「馬鹿な。」


 大臣だけが真に受けたのか、騎士達の報告を遮って口を開いた。

 何やらショックを受けているが、件の人物なら自ら提案した内容に従って、今は森の中を彷徨っているか、あるいは街道を進んでいるはずである。

 それが、何故氷像に――?と訝しむ空気を出す中で、一人ショックを受けている大臣。

 それらを前にして、続く騎士の言葉が、そんな空気を全てぶち壊していく。


「尚、氷像の持つ氷の板には、次のように書かれておりました!」

「な、なんとだ?それは、なんと書いてあったのだ!?」


 一人真に受けた大臣だけが先を急かす。

 それに、悪戯が成功したとばかりに機嫌よく笑ってみせた騎士が、更なる爆弾を落としてみせた。


「“正妃様が怖いのでお家に帰ります”とだけ。」

「――は?」


 目を点にして固まる大臣。

 その横では、ジワジワとした笑いが浮かび上がり、ついには耐えきれなくなったのか、王と王弟が揃って吹き出してしまった。


「クッ。」

「プーッ。」


 そのままに笑い転げて、存分に大笑いする。

 それで意味を理解した他の面々も釣られて笑いだし、室内はしばし笑い声で満たされた。


「え?」


 分かっていないのは大臣だけ。

 そんな彼を無視して、王と王弟は目尻に浮かんだ涙を拭うと、お互いに顔を見合わせて頷く。

 ようやく、ルークの『一発』が決まった瞬間だった。


「これは、一本取られましたな!」

「ああ。全く、笑わせてくれる!」


 氷像が掲げる氷の板に書かれているのは、騎士が報告した通り。

 しかし、その氷像の下にあった氷の台座へは、発見した者への指示が刻み込まれてあった。


“これを見つけた者は、板に書かれた内容を伝える前に、わざと誤解するよう報告して王と王弟を驚かせる事。”


 ノリが良いのか、あるいは逆らって報復を恐れたのか、とにかく騎士二人はそれに従った。

 見た目そっくりに作られた氷像を『行方不明者のもの』と報告をし、その後で氷の板に書かれた『お家に帰る』という発言を持ってして、無事を知らしめたのだ。


 普通なら怒るところだろうが、そこにもフォローが入っている。『正妃様が怖いので』という部分だ。

 裏を返すと『正妃が居れば国の脅威に成り得ない』という意味であり、それは城を去るルークからの王に対する最後のフォローだった。

 ここまでされたら、怒るに怒れない。

 ましてやそれが、散々城内で氷像を作り出した人物の手口だったのだから、尚更である。



 なんか苦戦しました。主に眠気に負けそうになって。←

 頂いた案を入れたのですが、ちょっと気に入らない出来になったので、後日修正を加えます。※2018/10/31加えました。

 いつもの事だって?うん、いつもの事だわー。

 ネタ提供して下さった蠅叩き様、ありがとうございました!


 2018/10/31 加筆修正を加えました。結果、無駄に騎士が二名に増えました(謎)←


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