075 その錬金術師は待ち構える
「――クソもここまでくると、最悪だな。」
人攫い集団をぶっ飛ばした後に尋問してみて、何がムカついたかって、案内役をしてた元開拓民がその中に混ざっていた事が、一つの理由として上げられるだろう。
最初から罠だったという事なんだが、俺の方はおまけでしかなかった。
正直、当てが外れたのもあって、これに苛つくなって方が無理な話だと思う。
「おまけで裸にひん剝くなよ!?俺を変態に仕立てて、一体何がしたいんだよ!?」
そう思って聞けば、本来のターゲットよりも扱いやすそうだと思ったのだと言われて、思わず頭を抱えた。
女だった時はあるけど、一応俺、男なんですけど!?それなのに両足失った女性より扱いやすそうって、どんだけ下に見られてるんだよ!?
(しかも、既成事実作らせてやるなんて話にホイホイ乗る馬鹿が、その実行犯って何なんだよ、一体!?)
その馬鹿こそが、元開拓民で案内役を買って出ていた男である。あの、魔法で吹き飛ばされて恍惚とした表情を浮かべていた危ない奴だ。つまり、変態その人。
そんな変態相手に、しかも既成事実なんかを作られて、惚れ込む女がいるわけもない。
それなのに、何故、やろうと思ったんだコイツは……。
(どんだけ頭悪いんだよって話だよな?これ。)
というか、自分の恋路なのに他人の手を使うんじゃ無ぇっての。
しかもその手法が『攫ってきて無理矢理事に及ぶ』とかただの犯罪じゃねぇか!
「ああ、もういい。全員仲良く牢の中にでも入ってろ。それでお前ら、そのまま凍死でもしてしまえ!」
生きる価値も無いわ、こんなやつらっ。
おまけで攫われたり裸にされたりと腹が立つ事この上無い。しかも、手を貸した奴が完全にクズで馬鹿とか、救いようも無いだろう、これ。
全員仲良く氷の枷を嵌めて牢の中へと打ち込み、身体の一部に細工を施しておく。尚、細工=処理済みって意味だ。
そこまでして、ドッと疲れた息が出ていった。
(情けなさ過ぎる。男として、余りにも情けなさ過ぎる話だぞ、これ。しかも、そんな情けない野郎のせいで被害に遭うとか、サリナさんが不憫過ぎる。)
既成事実作ってもらえると思い込んだ馬鹿と、唆して手を組み俺を巻き込む人攫いの集団の、余りにも馬鹿過ぎた今回の騒動。
蓋を開けて見れば、俺全く関係無かったっていう。完全に巻き込まれじゃねぇか、チクショウ!
そんな奴らに気付いたサリナさんは抵抗した為に、逆上した連中にボコられて現在重症。
勿論、手当てが済んで今は眠りに就いているが、その様子は見るからに痛々しい有様だった。
(あー、やっぱ、股間潰しとくのは正解だったな。)
幸いながらも、顔から何から腫れ上がってるので、彼女は対象にはならなかったようだ。この辺りは、女と勘違いされた俺が捕まってたってのも理由なんだろう。
ただ、性犯罪者の多くは再犯しやすい。しかも、その再犯率は八割を超えるというのだから驚きだ。
故に、きっちりと締め上げて、二度とそんな事を考えられないようにと、その身体の一部はしっかりと潰しておいてやった。
尚、物理的か薬を用いたかは想像に任せるが、どっちにしろ男としてはもう機能しないとだけ述べておく。
(何だかなぁ――囮として捕まってやったってのに、どう考えてもこの状況は思った方向と違う方に転がってしまってるんだが、一体どうしてくれるんだ?)
同じ手は二度と使えないってのに、全く良い迷惑だぜ。
(さて、どうしてくれよう?)
若干、物騒な考えに走ってる俺は、何も間違ってはいないだろう、きっと。
何せこの後、奴らのお仲間である残党が戻ってくるのだ。しかも、違法奴隷に手を出してる奴隷商もセットで、である。
それを放置するとか、絶対有り得ない話だ。
(幸い、兵士達は包囲網を築いてるようだし、逃げられる心配は無いだろ。見逃したりしたら、それこそ証拠隠滅した挙げ句に、違うところでまた犠牲者が出るんだろうしな。)
だからここで潰しておく。
別に八つ当たりじゃない。八つ当たりなんかじゃない。これは、正当な仇の返し方である。
(うん、ちょっとばかし、やりすぎるかもしれないがいいよな?死んで当然な連中なんだし。)
そもそもこういうのって、普通は国の仕事だよなぁ?
何で俺が巻き込まれないとならないんだ!?
(後で吹っかけてやる。絶対に、吹っかけてやる!)
そう意気込みつつ、聞こえてきた足音に耳を澄ませる。
周囲は日が暮れていて、もうとっぷりと暗い状況だ。その中で何かを引いてくる音に混じって、複数の足音が微かに響いてくる。
数としては――四かな?
(一応、目視はするがな――。)
それでも、建物の中に入った時点ででもぶっ飛ばしてしまっていいだろう、きっと。
俺は苛々としながらも潜伏し続けた。
2018/10/28 前のところできっちりが既に出ていたので、きっちりと潰して→しっかりと潰して に修正。
2018/10/29 加筆修正を加えました。




