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4−3 地下鉄

「懐しかったな」

 帰りの地下鉄で、ポールを掴んでいる6476が言った。私の手より少し上のあたりだ。

「まぁ、そうかな。少し雰囲気が違ったけど」

「そうだろうな。俺たちが出て数年経っているからな」

 だが、その変化が望ましいものなのかどうかの判断がつかない。

「そう言えば、6476、君はどこに行ってたんだ?」

「ん? お前は幼年班だっただろ。俺は年少班とその上。でも幼年班の方が面白かったかもな」

 面白い経験だったとは正直思えない。

 6476は私の顔を覗き込んでいた。

「何かあったのか?」

 総統に会った。偶然居合わせたわけではなく。話をするために来たのだろう。だが、その話は不可解だった。

「いや。うん。どうかな」

 総統が来たなどということは話すこでもないだろうと思う。それに何を話したのかと聞かれれば、答えようがない。

「特には、なかったかな」

 やはり6476は私の顔を覗き込んでいた。

「どうする? 遊興館に寄って行くか?」

「いや、どうしようかな。ちょっとゆっくりしたい気分だし」

 実際、総統が言った言葉の意味を考えてみたいと思う。キューブに何か手がかりがあるかもしれない。総統の言葉だけでは何もわからない。ただ、明日、何かを決めることになるのだろうということ程度だ。だが、何を?

「あぁ、なるほど。彼女と会うのか」

 6476は納得したという表情を浮かべている。

「彼女?」

「昨日も会ったんだろ? 彼女からお前の手を握ったんだからな。それくらい親密になったんだろ? 昨日、彼女が遊興館から出て行く様子を見てれば、お前に会いにいったんだろうってくらい想像がつくよ」

「8579か。確かに会ったが。君が考えているようなことはなかった。あるはずないだろう」

「ほう、じゃぁ何があったんだ? 教えてみろよ」

 6476は笑っていた。他にどんなことがあるんだと言っている。

「礼賛劇場に行ったよ。礼賛劇場はいつでも入れるんだな」

「それは…… どう答えたらいいのか悩むな。そりゃぁ、礼賛劇場に行ったってのはいいことさ。市民としてな。だけど親しくなった彼女とか? それはどうなんだろうなぁ」

 6476は声を挙げて笑った。

「だけど、お前、人を避けてるだろ」

「いや、そんなことは」

 確かにそうかもしれない。キューブから学ぶことが楽しく、それだけが楽しみだと言ってもいい。

「彼女と付き合うってのも、まぁそれが礼賛劇場だってのは色気がないが、いいんじゃないか」

「うん、まぁどうなんだろうなぁ」

 昨夜の礼賛劇場での彼女との会話を思い出した。正直、友愛を求めているというわけでもないように思える。それともゆっくりと親密さを深めていくのが彼女の好みなのだろうか。

「それでだ。遊興館に寄って行くだろう? 今日も彼女、来るだろうからさ」

 遊興館で。そこで会うのもいいだろう。だが、会うなら別の場所がいい。自宅ではなく、礼賛劇場であっても。静かな礼賛劇場は、意外にも気にいったように思う。立像さえ気にしなければ。そして淡いライトアップであれば、大して気にならなかった。

 それに、なにより彼女は友愛を求めているわけではないと思う。

 だが、8579に会いたいという気持もある。全てを言っているわけではないが、少しだけなら、私自身の気持を言えるような気がするからだ。

「8579に連絡してみるよ」

 私はそう言い、グラスから8579にメッセージを入れた。

「彼女以外の女性とも友愛を試してみろよ」

 6476がそう言っている間に、8579から返信が来た。

「昨日の場所で」

「何だ、もう返って来たのか」

 8579の返信を見て、私の表情が変わったのだろうか。視線がグラスを見たのに気付いただけかもしれない。

「あぁ」

「気に入られたようだな」

 そうなんだろうか?

「そういうわけでもないだろうと思うが」

「じゃぁ遊興館には行かないのか?」

「あぁ」

「そうか」

 ちょうど遊興館の駅に地下鉄が着いた。6476は手を振り、降りて行った。

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