くっつけた!
西暦2230年。
藤井壮馬は、ごく普通の会社員だった。
ただ一つだけ普通ではない能力を持っていた。
「くっつける」
触れたもの同士を何でもくっつけられる。
超能力としては地味だった。
あまりにも地味だった。
「壮馬くん、今日も能力研究所に行くのか?」
同僚が聞く。
「行くよ。そろそろ世界を救う仕事が来るかもしれないし」
「その能力で?」
「その能力で」
研究所では今日も実験が行われていた。
「では藤井さん。こちらの鉄板を接着してください」
「はい」
ぺた。
くっついた。
拍手。
終了。
毎回これだった。
ある日。
宇宙から巨大隕石が接近した。
人類滅亡まで残り48時間。
世界中の科学者が集まる。
「レーザーは効かない!」
「ミサイルも無理だ!」
「どうする!?」
その時。
会議室の隅で弁当を食べていた壮馬が言った。
「地球にくっつければいいんじゃない?」
全員が振り向く。
「え?」
翌日。
壮馬は宇宙船で隕石へ向かった。
世界中が中継している。
「本当に大丈夫なのか?」
「たぶん」
「たぶん!?」
壮馬は隕石に到着した。
そして地球へ向かって親指を立てる。
「よし」
ぺた。
その瞬間。
隕石は地球と“くっついた”。
衝突もしない。
爆発もしない。
ただ地球の横にぴったり固定された。
まるで冷蔵庫に貼られたマグネットのように。
ニュース速報。
「隕石、なんか横に付く」
「専門家困惑」
「物理学死亡」
それから数年。
壮馬はさらに活躍した。
月が軌道を外れそうになると、
ぺた。
火星が遠いと言われると、
ぺた。
宇宙ステーションが足りないと言われると、
ぺた。
結果。
太陽系はめちゃくちゃになった。
惑星が団子のように連結されている。
科学者たちは毎日頭を抱えた。
「藤井さん!」
「なんです?」
「勝手に木星と土星をくっつけないでください!」
「近い方が便利かなって」
「便利じゃありません!」
壮馬は首をかしげた。
「でも、みんな“人と人の絆が大事”って言うじゃないですか」
「そういう意味じゃないんです」
「難しいなあ」
その日も藤井壮馬は元気だった。
そしてうっかり研究所のコーヒーカップと所長をくっつけてしまい、研究所中を追いかけ回されるのだった。
人類史上最も役に立つのに、最も迷惑な超能力者。
それが藤井壮馬である。




