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アルが望んだ世界は、いわゆる剣と魔法の世界だった。ただし、そこに一つの条件を付けた。それは、『常に上位存在(仮)といっしょに居られること』だった。
アル、というのは、林が新しい世界で名付けられた名前だ。林修己という名前では、剣と魔法の世界の人は、それを名前だと思わないので、そうすることにした。
名前の由来は、アルフォンスという名前の、小さな牧場に彼が転移してきたからだった。その牧場には馬がたくさんいて、転移してからすぐはそれに囲まれていた。
そんな状況であったとしてもアル(これからは林修己のことはアルと呼ぶ)は、冷静沈着だった。なぜならば、こういう時に落ち着くために上位存在とともにこの世界に転移してきたわけだからだ。ちなみに、上位存在はノーリスクで分裂することができるので、彼のその要求すらも謎の生命体は了承した。未だに姿は見えない。
どこまでも広々とした青空と、大地。明らかに日本とは違うカラッとした空気が、アルの肌に触った。それの感触だけで、彼にここに来たことを喜ばしく思わせる。
馬たちに舐められてしまっていたアル。それは精神的にも、物理的にも舐められてしまっていた。彼は剣と魔法の世界の住人に比べると体が小さかったのでそれは仕方がなかった。ここで暮らしていれば自然と筋肉が付き、体が大きくなるのだ。
そんなことをされていると、馬たちの動きに違和感を覚えた牧場主が彼の近くまでやってきた。そんな彼の名前はエバンスと言う。麦わら帽子、サスペンダーを付けた青いジーンズと、白のシャツを身に付けた姿はいかにも牧場主らしい姿だった。
小太りな牧場主は突然の出来事に驚いている様子だった。そして、それだけではなくて、警戒している様子でもあった。彼を馬を盗みにきた盗賊だと勘違いした。
近付いてくるエバンスは、盗賊対策のために、その両手に干し草を運ぶためのスキのような、フォークのような形をした槍を持っていた。それを見て、アルも驚いてしまう。が、彼は、しっかりと、その傍らに上位存在がいることを感じていた。
「俺は別に悪い人間じゃないんです!信じてください!」
「なんだかよくはわからねぇが!とりあえずは不法侵入だ!多少強引なことはするが、それくらいは勘弁してくれよ?」
「た、助けて!上位存在!」
「了解した」
「な、なんだ?空中から声か!?魔法か?」
俺は上位存在に任せた。すると、時間が止まってしまったように、この世界のありとあらゆる物が止まってしまった。もちろん、そこには下位存在の俺も含まれた。
俺の意識と上位存在だけが動いている。動いているといっても、やはりその姿を見ることができず、なんとなく、動いているような、そんな気配がしているだけだ。
しばらくはそのままだった。それこそ、しばらくという言葉では足りないくらいには、長く感じたしばらくの間はそのままで、何もすることができないのだった。




