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居酒屋なみのり  作者: マメ
居酒屋なみのり4

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2話 〜帽子の背中〜


お猪口に酒を注ぎ、呑む。


そしてまた、注いでは呑み干す。


そんな動作が淡々と繰り返されていた。



「はいよアサミぃ、レバのタレな」


「うん、ノリさん……で、あの人は?」


アサミはカウンターで静かに酒を呑む男を観察していた。


「さあ、初めて見る方だね、何かあった

?」


気のない受け答えをするのはマスターのノリだった。


初見のお客にあれこれと詮索することは、やはり好ましくないものだ。


「いやぁ、あの格好と雰囲気が何かねぇ?」


それでも何かが腑に落ちない、そんな感じのアサミだった。



チリン、チリン、


「よお?」


右手を上げ、お決まりのポーズでやって来たのは、すでに赤ら顔の店長。


「おぉ、もう随分とヤってるねぇ?」


「へへ、もう……3軒目だね」


言いながら中指から小指までを立てて見せるのだった。


「もう〜店長また酔ってから来たんでしょ?今日は平気?」


「な、何がナミちゃん?」


「何がじゃないよ」


呆れつつも笑いながらビールの栓を抜くのは、女将のナミだった。



「ねぇ、店長はどう思う?」


「は?別に……男の人にはあんまし」


どうしても喉の小骨を取り除きたいアサミ。


そんな時、白いお銚子が高く挙げられ、軽く揺すられた。


「はい、おかわりですねぇ?」


と、愛想よく持ち去るノリ。


その空いた手を、そのまま皿の上の銀杏に持ち替えるカウンターの男。


まだ視線を残すアサミに、


「何だアサミちゃん、ああいうお年寄りが好みになったのか?」


「へ?いやそうじゃないけど、何かどことなくねぇ……」


ふーん?という面持ちで気にも留めず里芋とネギハラミを注文する店長だった。



再び、ドアの鈴が鳴った。


「あっ、アユミちゃん」


「こんばんは、アサミちゃん」


「今日は残業かぁ?」


いらっしゃいの言葉よりも、来るのがいつもより遅いことに言及するようなノリ。


「ええ、ちょっと……」


言いつつ、いつものカウンターに腰を据えるアユミ。


「はいお疲れ様っ」


言われずとも瓶ビールを出すノリ。


「アユミちゃん……何かお疲れかなぁ?」


ナミはお通しを差し出しつつ気遣った。


「まぁちょっと、色々と押し付けられまして……へへ」


飽くまでも場を和ませたいと努めるアユミだった。



そんなアユミに少しだけ視線を送るカウンターの男。


いつの間に呑み干したのか、またお銚子を振るのだった。


「ねぇ、あれでもう6本目よ?平気かしら?」


「アサミよりはしっかりしてそうだね?」


赤ら顔でニヤける店長。


「どの口が仰ってますか?」


相変わらず視線はカウンターに向けたままのアサミがボヤいた。



「ねぇ、そろそろこっちに来ないアユミちゃん。今日はアサミちゃんしか居ないから、、、」


「はあ?アタシじゃ何かご不満でも?」


苦笑いをしながら仕方なく席を立つアユミは、軽くカウンターの男に会釈をした。


それに応えたのか、応えていないのか?


分からない程度に頭を動かす男だった。



「どうだった?」


「何がですか、アサミちゃん?」


「え、あの人の様子は?」


答えずアサミを不思議そうに見つめるアユミ。


「アサミぃ、まだ気にしてんのか?」


「だって、スーツ着た老人が野球帽被ってんのよ?」


「別によく居るだろ?」


「スーツにスニーカー、ジャージに革靴とかね?」


「ああ、居ますねぇ......学校の先生かっ?て人」


「アユミぃ、やっと笑ったな?」


ホッとするようなノリ。


「やっぱここに来て垢を落とすのがいいわぁ〜」


「垢って?アユミちゃん……」


若い子もそんなことを言うのだと、面白がり店長は美味しそうにまたグラスを空けた。



「まだやってんのアサミちゃんは?」


戒めるでもなくそう言うナミは、自分とノリのサーモタンブラーをテーブルに置いた。


「だってさぁナミちゃん。タイガースだよ?」


「いいじゃん別に……」


何がいけないのかと問いただすようなノリ。


「いや、悪いなんて一言も言ってないけど、ただ珍しいからさぁ?」


「まあ、そうだね?青い帽子も見ないくらいなのにね?」


「そういえば減ったね?」


確かに?とアサミに賛同し始めるノリたちであった。



パチパチパチ、


「アユミちゃんいいね、サイコー!」


照れながら席に戻るアユミ。


そんなアユミの歌をジッと聞いていたカウンターの男は、タイミングを見計らっていたのか会計をノリに告げた。


「大丈夫かね?相当呑んでいるよあの人」


自分を忘れ人のお節介を焼くアサミが顎をしゃくる。



チリン、チリン、


「ありがとうございました」


「おお、いらっしゃいっ」


後ろを振り返り野球帽の男の背中を見送るマサユキ。


「こんばんは」


「来たぁ〜、マサくん」


「お待たせ〜。皆さんもお疲れ様です」


「やや、まだ酔ってないですね?マサくん」


「遅れを取り戻しますよぉ〜店長」


「はははっ」



さっき帰った男にどこか既視感を持つマサユキ。


だが、何も言わないアサミを見て、人違いだな?


と、思い直すのだった。




                    完






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