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ロッペンハイマー再襲撃! ――魔導士協会・出撃前報告記録


魔導士協会・地下評議室


 石造りの円卓の間は、静かだった。

 天井に埋め込まれた魔導灯が淡く光り、壁一面に刻まれた魔法陣が低く唸る。


 その中央に、二人の魔導士が立っている。


 第八席――ヴァルグリム。

 実戦指揮を任される中堅格。理論より結果を重んじる現場派だ。


 第九席――エルディオ。

 召喚・魔物運用を専門とする実働担当。淡々と資料を読む男。


 円卓の外周、半影の中には数名の補佐官と記録官。


 報告は、すでに要点に入っていた。



1.報告


「現地では、冒険者ギルドが動いたと見られます」


 エルディオが、羊皮紙を一枚めくる。


「ロッペンハイマー近郊に配置した魔物群は撃退。

 統制が崩れ、指揮個体の反応が途絶えました」


 ヴァルグリムは腕を組み、低く唸った。


「ふむ……どうやら、それなりに腕の立つ者がいるようだな」


 しばしの沈黙。


「……それでも、まぁ大したクランでもあるまい」


 周囲の補佐官たちが、無言で頷く。


「地方都市だ。

 冒険者の質も数も、たかが知れている」


 エルディオが続ける。


「あぁ。所詮は地方都市程度の戦力だ」


「魔物はこちらが放った駒だ。

 想定外の要素はない」


 その言葉に、記録官の羽ペンが止まることはなかった。


 ――この時点では、誰も疑問を挟まなかった。



2.ルビエラの扱い


「第十六席、ルビエラの状況は?」


 ヴァルグリムの問いに、エルディオが短く答える。


「軽度の消耗。

 魔力遮断を受け、戦線を離脱したとの自己申告です」


「遮断?」


「はい。詳細は不明ですが、

 正面からの魔法行使が成立しなかった、と」


 ヴァルグリムは一瞬だけ眉を動かし――すぐに興味を失った。


「判断が甘かったか。

 単独行動を許したのが失策だな」


「再配置は?」


「不要だ。

 今回は我々が直接出る」


 その場の空気が、わずかに引き締まる。



3.方針決定


 ヴァルグリムは円卓に歩み寄り、地図の上に手を置いた。


「次は、段階を上げる」


 彼の指が、ロッペンハイマー周辺の森と街道をなぞる。


「先行して魔物群を放つ。

 街の外縁を荒らし、冒険者を引きずり出す」


「冒険者ギルドが対応に追われている間に、

 本命が動く、というわけですね」


「そうだ」


 ヴァルグリムは冷たく笑った。


「防衛のために動く者は、視野が狭くなる。

 守るべき対象が多いほど、足は止まる」


「では、出撃は?」


「今夜だ」



4.出撃準備


 評議室を出た先、地下回廊。


 召喚陣の前では、すでに魔物たちが待機していた。


 粗末な装備のゴブリン群。

 統制用の魔印が刻まれ、命令待ちの瞳が光る。


「第一波は数で押す」


 エルディオが淡々と指示を出す。


「街道沿い、森の縁。

 逃げ道を作り、追わせろ」


 ヴァルグリムはその様子を眺めながら、静かに言った。


「冒険者は必ず動く。

 剣士、魔法使い、治癒役……

 どこにでもいる、いつもの構成だ」


「ええ」


「相手が“人間の範疇”である限り、問題はない」


 その言葉に、誰も異を唱えなかった。



5.出撃


 召喚陣が起動する。


 赤黒い光が床を満たし、魔物たちの影が揺らいだ。


「行け」


 ヴァルグリムの一声で、魔物群は次々と転移していく。


 最後に、エルディオが振り返る。


「……街そのものは?」


「壊すな」


 即答だった。


「今回は“確認”だ。

 どの程度の抵抗があるのかを見極める」


 エルディオは静かに頷いた。


「了解しました」


 転移光が消え、地下回廊は再び静寂に包まれる。



エンディング


 ヴァルグリムは、誰にも聞こえないように呟いた。


「地方都市だ。

 想定の範囲を出るはずがない」


 その判断が、

 どれほど致命的な見落としを含んでいるか――


 まだ、誰も知らない。



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