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何でも屋ギルド・三日目 ――町に根づくということ



 何でも屋ギルドの建物は、相変わらず町の中でも少し変わった雰囲気を放っていた。


 一階は広く、掲示板が目立つ位置に設置されている。

 だが冒険者ギルドのような物々しさはなく、どこか“町の寄り合い所”のような空気だ。


「……こんにちは」


 扉を開けて入ると、真っ先に声が返ってきた。


「いらっしゃいませ!」


 カウンターの向こうに立っていたのは、勇者のペンダントを胸に下げた少女――メアリーだった。

 その横には、ふわりと浮かぶ見慣れた魚の姿。


「あら、ディジーさん」

「また来てくれたのね」


「こんにちは、お魚先生」

「今日は“お願い”というより、“相談”で来ました」


 ディジーはそう言って、持ってきた書類の束をカウンターに置いた。


「冒険者ギルドで扱いきれない依頼が、どうにも増えてきていて」

「あなたたちのところで、引き受けられるものがあるかどうか……」


 メアリーは一瞬、書類を見て、そして困ったように目を伏せた。


「えっと……」

「すみません。わたし、字を読むのが……」


 その言葉を待っていたかのように、お魚先生がすっと前に出る。


「大丈夫よ」

「内容はアタシが読む。あなたは“聞いて、確認する”役でいいの」


「……はい!」


 メアリーは小さく頷き、背筋を伸ばした。


 ディジーはその様子を見て、内心で少し驚いていた。

 読み書きができない。

 それ自体は致命的な欠点のはずだ。


 ――だが。


「この依頼は、“倉庫の整理”ですね」

「重い荷物を運ぶだけ。危険はありません」


「それなら、できます」

「いつ頃までですか?」


 メアリーは一つ一つ、口頭で確認していく。

 お魚先生が補足し、必要な部分だけを噛み砕いて伝える。


 やり取りは、思った以上にスムーズだった。


「……なるほど」


 ディジーは思わず、小さく笑った。


「受付として、ちゃんと回ってますね」

「正直、最初は少し心配してました」


「えっ……」

「でも、これはこれで“あり”です」


 その言葉に、メアリーの顔がぱっと明るくなる。


「ほ、ほんとですか……!」


「ええ」

「むしろ、話しやすい」


 ちょうどそのとき、奥から足音がした。


「お、客か?」


 現れたのはサジとカエナ、そしてアンリだった。


「お主らは本当に……」

「ワシが手綱をしっかり握っておらねば、何をしでかすか分からん」


「また始まった」

「婆さんの説教は長ぇんだよ」


 軽口を叩く二人を横目に、アンリは掲示板を見てふむ、と頷く。


「依頼が増えてきたようじゃな」

「身近な仕事こそ、町を支えるものじゃ」


 ディジーはその様子を見渡し、静かに言った。


「……冒険者ギルドとしても、助かっています」

「今後、冒険じゃない依頼は、こちらに回したい」


「構わん」

「住み分けというやつじゃな」


 その場にいた全員が、自然と頷いた。


⸻


小さな締め


 その日の夕方。

 掲示板には、数枚の新しい依頼が貼られていた。


 倉庫整理。

 配達補助。

 清掃。


 派手さはない。

 だが確実に、“必要とされる仕事”だ。


「……忙しくなりそうですね」


 メアリーがぽつりと言う。


「いいことじゃない」

「“ありがとう”が増えるってことよ」


 お魚先生はそう言って、にやりと笑った。


 何でも屋ギルドは、今日も静かに、町の中で根を張り始めていた。



⸻



後書き


冒険でも英雄譚でもない。

けれど、誰かの困りごとを確かに解決する場所。


「何でも屋ギルド」は、少しずつ“町の一部”になり始めています。

次回は、また別の依頼――

そしてサジとカエナが本領を発揮する番かもしれません。


ここから、賑やかになっていきます。

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