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魔法の使えない魔法使い  作者: 記角麒麟
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リューカpart5 勢い任せの勇気

 食事が終わったころ。

 私は、改めて彼に頭を下げていた。


「お願いします、弟子にしてください!」


「参ったな……」


 辿は頬を書きながら、苦笑いを浮かべた。


「駄目……ですか?」


 そんな言動をする青年に、私は恐る恐るという風に尋ねる。


「いや、駄目じゃないぞ。

 正直嬉しいし」


 彼は照れたように笑いながら、こちらの目を見返した。

 それはまるで、褒めてもらった子供のような、どこか今まで見てきた人とは違う可愛い笑顔だった。


 そんな彼の眼差しに、一瞬だけ、ドキリと胸が高鳴る。


 ――この鼓動は、この感情は、この気持ちは一体何なのだろうか。


 私はそれを言い表す言葉を知らなかったし、今は関心がなかったのでとりあえずスルーすることにした。


「駄目じゃないんだが……」


 辿ははにかみながら、答えを続ける。


「そんなに美味しかったか、俺のオムライス」


「……え?」


 思わず聞き返すリューカ。


 今、何て言った?

 オムライス……?


 全くの予想とは違う返答がやってきて、脳が硬直し、戸惑う。


「いやぁな?

 今回のオムライスは結構自信あったんだよ、うん。

 ちょっと今日は奮発して八咫烏ヤタガラスの卵で作ってみたんだが、思いの外上手く行ってさ!

 弟子入りしたくなるくらい美味かったんだな!いやぁ、嬉しいね!

 自分の作った料理にここまで――」


「ちょ、ちょっと待ってください、おおおお兄さん!」


「――ん、何?」


 辿、と呼ぶのは少し恥ずかしくて、お兄さんと呼称して彼の話を遮った。


 捲し立てる彼に、フリーズしていた思考が思わず再開する。


「私が、弟子入りしたいのは……その……料理の方じゃなくて……えと……その……!」


 ドクドクと昂る鼓動を深呼吸で抑えつけるリューカ。


(焦っちゃ駄目だ。

 焦ればきっと失敗する)


 鳴り止まない鼓動に、胸に手を当てながら精神を落ち着かせようと試みる。


 辿は、そんな私を笑顔と怪訝の間のような顔をして、その続きを待つ。


「すぅ……はぁ……」


 震える呼吸を整えて、決意を固める。


 大丈夫、やれば出来る!


(――いざ)


 心の中で気合をの言葉を掛けて、私は口を開いた。


「わ、私を、マギクラフターに――「『Ding-dong』はぁーい、今行きます!

 ごめんな、リューカ。話、後で聞くからさ」

 ……はい……」


 そう言って、そそくさと席を立つ辿。


 ダイニングを出て行く彼の後ろ姿を見つめながら、私は盛大な溜息とともに机に突っ伏した。


(タイミング……)


 まったく、間の悪いチャイムだ。

 今まさに、改めてお願いを口にしようとしていたのに。


「……」


 だけど、これくらいで――気勢が削がれたというただそれだけで、私の決意は鈍らない……!


 ……鈍らない……はず……。


⚪⚫○●⚪⚫○●


「……」


 チク、タク、チク、タク。

 壁にかけられたシックな振り子時計の秒針だけが、止められた私の目の前で過ぎていく。


(……言わないと)


 弟子入りが駄目でも、せめて独学ができるように、ノートとか筆記具くらいは買ってもらうようにお願いしないと。


 チク、タク、チク、タク。


(……お兄さん、遅いなぁ)


 そうして心の中で自分に言い聞かせていると、軈て分針が数メモリほど動いていたことに気がつく。


 いつの間にか自分の中で、彼の呼び方を“お兄さん”で定着させているリューカ。


 時間が経つに連れ、先程の弟子入りの言葉の気勢も、段々と薄れていく。

 代わりに芽生えだしたのは、もし断られたら?という恐怖。


 やはり、勢いというのは何に於いても重要なようで、今では彼女は、その恐怖故に、もう別に弟子入りなんかしなくてもいいかな……とまで考え始めていた。


 ――ガチャ。


 それから暫くして、漸くダイニングの扉が開いた。


「ごめんな、リューカ」


 彼は手に何やら荷物を抱えながらダイニングに戻ってきた。


「だ、大丈夫……です」


 まだ他人と話すことに、少し抵抗や気負いというものがあるのか。

 私は少しどもちになりながら返事をした。


(……でも、先に弟子入りさせてくださいって言っちゃったし)


 辿はそんな様子の私を見ると、優しい笑顔を浮かべて席についた。


「それで、弟子入りっていうのは?」


「えっと……それは……その……」


 先に言われてしまった。

 これではもう、言わなかったことにすることはできない。


(……覚悟を決めよう)


 私は俯いた視界に映る自分の手を、穿いたズボンの上できつく握る。

 手の指に爪が食い込んで、少し痛みが走り、頭が冴える。


(大丈夫、喉元をすぎれば、きっと怖くない)


 今まで何をしても上手くいかなかった。

 魔法も、両親の気を引くことも、何も。


 ――けれど今は、この人がいる。この人が、何をしてもいいと言ってくれた。


 だから――。


「すぅ……はぁ……」


 大きく深呼吸をして、息を整える。

 緊張に乱れていた心臓が、一定のリズムで動き出す。


(大丈夫、きっと何もされないから)


 私は彼の顔を正面から見上げて、決意を込めた眼差しを据えた。


 そして、思い切って、その先の言葉を口に出した。


「わ、私を――っ、マギクラフターとして弟子にしてください!」


 こうして、漸く私は至高のマギクラフターの弟子に志願するのだった。


 まだまだ稚拙ではありますが、よろしければ評価等よろしくお願いします!

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