外伝1―ニートな女神の知らない話―
第3階層編が始まりますが、今回の話は外伝であり本編内にアストレア(玲愛)は登場しません。
第三者的な視点で語られるあるプレイヤーの話です。
また今話にて新たに語られる設定等についてはいずれ物語本編内でも詳しく説明するので今は放置してもらって問題ありませんので。
西暦2037年、その人物は今日もゴッドワールド・オンラインというVRMMORPGの世界にログインしていた。
性別はリアルでもゲーム世界でも男性であり、その男はゲーム内のアバターについても現実世界の自分の姿かたち、特に顔も似せて作っていた。
これはVRMMOの世界では珍しいことであり、また世間的にはあまり推奨されることではなかった。
現実世界での自分の顔をゲーム世界でもリアルに再現してしまうと、ゲーム世界のアバターの顔から現実世界の自分の素性について他人にばれてしまう可能性があるからだ。
もちろん、だから現実の顔そのままでゲーム内のキャラを作るプレイヤーなんていないだろうと多くのプレイヤーは思っているので実際にそれで素性がばれるということはほとんどないのだけど。
その男はゲームだからと言って自分を偽るのは好きじゃないという理由から現実世界とほぼ同じ顔を持つキャラを作成したのだった。
男のログイン率は決して高くはなかった。
しかし男はゴッドワールド・オンラインというゲームがダウンロード開始された初日にゲームをダウンロードして今なおゲームを攻略している最古参のプレイヤーであり、到達階層はもちろん今のゴッドワールド・オンラインの最上層である75階層まで到達していた。
そして何よりも男は、ゲーム開始日から1度も誰ともパーティを組まずにソロでゲーム攻略を進めてきたというゲーム内唯一のプレイヤーだった。
もちろんそれには1つカラクリというか、ある意味では誰もが納得し、誰もがそれはズルだと言うような秘密があったのだが、とにかく男はいつも1人でゲーム攻略をしていた。
しかし男は、ゲーム内で比較的多くのプレイヤーとフレンド登録をしていて、それにも一応理由があるのだけどゲーム内で男の存在そのものを知るプレイヤーは多かった。話をしたことがあるというプレイヤーも、男からこのゲームのイロハについて学んだというプレイヤーも多く存在していた。
ただ男の素性、正体を知る者は1人としていなかったのだ。つい先日までは。
「俺もまさかそんなことがあるなんて思ってもいなかったのさ。だって俺はそいつに俺の正体を語って聞かせたわけでもないし、俺もそいつに正体がばれたと知ったのはそいつと知り合ってだいぶ後になってからだったからな。しかもリアルでそれがわかった時には焦ったよ」
男はそう語った。
それはつまり男の正体がばれたのは決して男の意図したところによるものではなく本当にただの偶然が重なっただけの事故だったということなのだが、すでにばれてしまった以上はもうどうしようもなかった。
「そいつのことか?、んー、まあぶっちゃけそいつ、まだこのゲームを始めたばかりのやつでさ。でももう今の段階でめちゃくちゃ強いんだ。まあそれも半分は俺のせいみたいなもんなんだがな」
男はそう言って笑うとふと視線を斜め後ろに投げた。
男が今いるのはゴッドワールド・オンライン第55階層にあるとある街の酒場。
男の隣にはさきほどから男の話を聞いていたもう1人別の男性プレイヤーの姿があった。
話を聞いている男の方はすでにだいぶ酩酊した様子で隣に座る男の話などほとんど聞いていなかったのだが。
「どうしたんだ?」
「いや、あっちのテーブルで話してるやつ」
話をしていた男の視線の先を見ると、酒場の一画のテーブル席で3人のプレイヤーが座って話をしているのが見えた。。
その3人のプレイヤーについては酔っている男も知っていた。この階層ではかなり有名なギルドに所属している幹部プレイヤーたちだ。
ギルドというのは、もちろん冒険者ギルドのことではない。
プレイヤーの集まりの単位であり、最大規模のチームであることを示す言葉。
パーティというのが最大6人までで組むのだが、それ以上の人数のプレイヤーが集まってチームを結成することがある。そしてそのチームに所属するプレイヤーの人数に応じてチームの規模を表す名称も変わっていく。
チームに所属するプレイヤーの人数:7~18人 =グループ
チームに所属するプレイヤーの人数:19~54人 =ユニオン
チームに所属するプレイヤーの人数:55~162人 =レギオン
チームに所属するプレイヤーの人数:163人以上 =ギルド
もちろん、実際にフィールドに出て戦闘する場合はパーティ単位であり、7人以上の人間がパーティを組んで戦闘を行ったりすることはない。
チームというのはいわば派閥のことであり、いわゆるゲーム内におけるコミュニティーの1つだ。簡単に言えばお互い助け合って仲良くゲーム攻略をしていこうというプレイヤーたちの集まり。
たとえば同じチームに所属するプレイヤー同士であれば誰とでもいつでもパーティを組むことが出来たり、先にチームに所属していた先輩プレイヤーが後から同じチームに入った後輩プレイヤーにあれこれとものを教えたりとかするプレイヤー同士の協力関係をわかりやすく形にしたもの。
特にゲーム内では第30階層を越えた段階でプレイヤーはゲーム世界のサーバーごとにあるチームのどれかに所属を決めることが多い。大きなチームに所属するとそれだけゲーム攻略が楽になり、また多くのプレイヤーと知り合えるのでそれ目当てでチームへ所属を決めるプレイヤーもいる。
そして、今説明したことを踏まえた上でギルドの幹部プレイヤーというのは、つまり所属人数がかなり多いチームの中でも上位の実力を持つ者たちということであり他のチームに所属するプレイヤーや、あるいはチームに所属していないプレイヤーにもある程度知られている存在、このゲーム内での有名人たちだ。
「あれは時節の剣客団のやつだな。3人とも凄腕のプレイヤーで幹部だぞ、たしか」
プレイヤーギルド、時節の剣客団。
構成人数はざっと200人ほどの規模としては比較的小さいチームだが所属しているプレイヤー達は誰もが高レベルでありメンバーそれぞれの到達階層もだいたいが第40~50階層までと実力者揃いであることで有名なチームだ。
「時節はリーダー1人と幹部が12人って話だったが」
酔っている男がそう言ったところで隣に座っていた男がカウンター席を降りた。
「んぉ?、なんだもう行っちまうのか?」
酔っている男はてっきり男はこのまま会計を済ませて店の外に出ていくものだと思っていた。
しかし男は酔っている男には何も言わずにそのまま視線の先にいたプレイヤーたちのテーブルへと近づいていき、そうして……
<第55階層:ミュークルの街:酒場>
その日、その酒場の一画にあるテーブルに3人のプレイヤーの姿があった。
3人は同じギルド、時節の剣客団に所属しているプレイヤーでそのギルドの幹部を務めているプレイヤーたちだった。
「ねぇ~、さっちゃん。何か面白い話して~」
すでに酒を何杯も飲んで半ば泥酔状態にあるウサギの獣人の少女。
「それはいいけど、卯月ちゃん飲み過ぎじゃない?」
それに答えたのは黄色い振袖を着た大和撫子。
「えー、別にいいじゃーん。どうせゲーム内でいくら飲んだってリアルに戻ればしらふなんだし」
「そうだけど、でもだからってゲーム内でそんな無茶な飲み方したら……」
「…………」
ちなみにその場にいるもう1人、白髪で白いコートを着た青年はただただ無言で2人のやりとりを見ながら酒を飲んでいた。
ウサギ獣人の少女は四谷卯月。
白コートの青年の方は霜月景士という。
そして今から面白い話を披露しようとしている大和撫子が五条皐月であった。
「景士くんもなんとか言ってよ」
「…………」
「もう、いつも黙ってばっかりなんだから」
同じギルド内で12人いる幹部のうち、この3人は一緒に行動する機会が多かった。
というのもこの3人はほぼ同じ時期にゴッドワールド・オンラインを始めて、ゲーム攻略当初は普通にパーティを組んでゲーム攻略をしていた仲だった。
だからお互いの性格についても十分理解していたし、今もこうして仲良く酒場で一緒に飲んでいる。
「さっちゃん、面白いはなし~」
「ああ、わかったわかった。うーん、そうね」
そして卯月に急かされた皐月はそこから少し考えて話を始めた。
「実は昨日のことなんだけど。私第2階層であるプレイヤーと決闘したの」
「え、第2階層?」
「うん。それでね、もちろん相手の子はまだまだ駆け出しでゲームを始めたばかりの子だったんだけどもね、私は……」
そこから皐月が話したことを2人は興味深そうに聞いていた。
時に疑問を口にしながら、あるいはただただ相槌を打ちながら。
「なにそれ酷くない?、だって10回攻撃当てたら勝ちのルールでさっちゃんは五月雨抜いたんでしょう。それじゃあ相手の子があまりにもかわいそうだよぉ~」
話の途中で卯月がそう言うと皐月もそれには同意した。
「そうなのよね。でも私も決闘始まってからそれに気づいてさ。あ、しまったって」
「えー、それでどうしたのその決闘、仕切り直してあげたの?」
「いや、一応そのままでやった」
「なにそれ。本当にかわいそう~」
もちろん卯月と景士は皐月が現在メイン武器として使っている刀の特殊効果については知っている。
皐月の持つの五月雨という名の刀は、敵を1回斬ったら5回斬ったことにする効果があることを。。
「それで、決闘はどうなったんだ?」
そしてようやく景士がその時初めて口を開くと皐月に決闘の結果について尋ねた。
「もちろん私が勝ったわよ」
「でしょうね。決闘が終わった後で相手の子はなんて?」
「あー。決闘の後で私が五月雨の効果教えてあげたら、それものすっごくズルくないですかって言われちゃった」
「うん。私もそのルールでやったなら同じこと言う」
「……俺もだ」
仲間2人に改めて指摘された皐月はちょっとバツが悪そうな顔をしたものの、重要なのはそこではないと言って話を続けた。
皐月はハンデは極限までつけたものの、決闘中に手加減や油断はしていなかったと前置きした上で、決闘中に相手からの攻撃を1度だけ受けてしまったと言った。
「え、ちょっと待って。さっちゃん、確認なんだけどその子って本当に駆け出しプレイヤーだったんだよね?」
「ええ、それは間違いないと思う。決闘中も、動きがまだまだ固かったし」
「さっちゃんは手加減も油断もしていなかったと」
「うん、そう」
皐月がそう答えると卯月はそこで黙り込むと頭を抱えて何やら考え始めた。その代わりにそこで景士が皐月に質問をした。
「ちなみに相手のレベルは?」
「決闘後に話した時に本人に聞いたら26だって言ってた」
「26……第2階層で、か?」
「うん。ただその子ソロプレイヤーだったみたいだし、ソロなら階層の攻略にそのくらいないと厳しいのかなって思ってたんだけど」
皐月が景士にそう言うと今度は景士の方もまた黙り込んで何かを考え始めてしまった。
「ねぇ~、さっちゃん。その決闘の話はわかったんだけどさ。その話のどこが面白いの~?」
そして最後、卯月がそう聞いて皐月がそれに答えようとしたまさにその瞬間だった。
「よぉ、面白そうな話してるな」
突然見知らぬ男性プレイヤーが皐月たちの座るテーブル席までやってきてそう話しかけてきた。
「え?」
「おじさん、誰?」
「…………」
もちろん3人はその男性プレイヤーと面識はなかった。
いや、あるいは街ですれ違ったことくらいはあったのかもしれないが話をするのは間違いなく初めてであり、同じギルドに所属しているメンバーというわけでもなさそうだ。
「おっと失礼。いや、カウンターで飲んでたら面白そうな話が聞こえてきたんでね。そこのお嬢さん」
男性プレイヤーは皐月の方を見て声をかけた。
「あ、はい」
「今の話でお嬢さんが決闘した相手、もしかして玲愛って名前のプレイヤーじゃないか?」
「え?……どうしてそれを?」
皐月は決闘相手のプレイヤー名についてはまだ2人にも話していなかった。
だからそれを言い当てられて動揺する皐月を見て、卯月と景士の2人もこの場に現れた男性プレイヤーの方を見て首をかしげていた。いったい何者だこいつ、と。
「おっと、そんな怖い顔しないでくれよ。俺はただ俺のフレンドの特徴によく似た奴の話が聞こえてきたんでちょっと聞きにきただけさ」
男性プレイヤーがやや芝居かかった口調でそう言うと、そこで皐月が尋ねた。
「フレンドって、玲愛さんの?」
「おうとも。俺が玲愛にこのゲームのイロハを教えてやったんだ」
男性プレイヤーはなぜかそれを誇らしげに語った。
「おじさん名前は~?」
そして、卯月に名前を聞かれた男性プレイヤーはそこでにっと笑うと答えた。
「俺か?、俺の名前はコルトっていうんだ。よろしくな、お三方」
自らをコルトと名乗ったその男性プレイヤーは3人の座っていたテーブル席にある空いていた椅子に座り込むと皐月にさきほどの話の続きを促した。
3人の方はというといきなり会話に加わってきたコルトを正直うさん臭く思いながらも、そのフランクな話し方に一定の親しみを覚えたのか、そこから何度か会話を重ねていくうちにすぐに打ち解けた。
そして、皐月がようやく先ほどの話の続きを語り、語り終えた時。コルトはこれ以上ないというくらいに笑った。その笑い声は酒場中に響き渡り酒場内にいた他プレイヤーやNPCたちの注目を集めたのだが、そんなことはおかまいなしとばかりにコルトは笑い続けた。
「あっはっはっはっはっは!、やっぱりそうだったか。いやこれはもうマジで洒落になんねぇな」
ただ、3人はなぜそこまでコルトが笑っているのかがまるで理解できなかった。
卯月と景士についてはむしろ、皐月が語ったその決闘相手のプレイヤーのことを聞いてただただ驚くばかりだった。
「ドラゴンもマダムバタフライもソロで撃破か。そりゃそうだろうよ。なんて言ったってあいつの恩恵はそれこそ特別だからな」
コルトがそう言ったのを聞いて、卯月がそれに興味を示した。
「え?、っていうかおじさんその子の恩恵のこと知ってるの?」
卯月の問いかけにコルトはそこで黙ってうなずくと、ただ一言こう言った。
「ああ、まあな。たぶんお前らも知ったら驚くと思うぜ。そんな恩恵ありかよって。まあ、もちろん具体的には教えられないがな」
コルトのその言い草にむっとした卯月は、そこであえて下手にでる作戦をとった。
「えー、いいじゃんそこまで言ったならさー。あ、じゃあヒント。なにかヒントちょうだい!」
しかし、ここで皐月がそれを止めた。
「卯月!、それ以上はダメよ。コルトさんも、他人の恩恵の効果をこんな人前で暴露したりしない。マナー違反ですよ」
それはもちろん正論であった。だから卯月はちょっといじけながらも素直に謝ったし、コルトもそれ以上のことをこの場で語ることはなかった。
そしてコルトは、ちょうど良かったとばかりになら俺はそろそろ帰るわと言うと、酒場のマスターであるNPCに話しかけて会計を済ませ、3人に挨拶もなくそれで店を出て行った。
「……行っちゃった」
「結局なんだったんだ、あの男」
「さあ……」
テーブルに残された3人、そして途中からコルトに注目していた他のプレイヤーやNPCたちも、コルトがあまりにもさらっと酒場を出て行ったことでいまいち釈然としないという様子だったが、それからまたすぐに元の状態に戻るとそれぞれ別の話をし始めた。
なので皐月たちもそれにならってまた3人で話をしようとしたところで最後に皐月がこう言った。
「でも、悪い人じゃないわよね、きっと」
それを聞いた卯月と景士の2人は互いに顔を見合わせると、それから2人とも頷いた。
そして2人は、コルトの乱入によってまだ詳しく聞けていなかった皐月の決闘の話についてあれこれと質問を重ねていったわけだが。皐月はそれに答えながらも考えていた。
果たしてさっきのコルトが言ったセリフ、特別な恩恵とはどういう意味なのか。
さっきは止めたが、実は内心では卯月以上にそのことが気がかりだった。
はたして自分が決闘をしかけて負かしてしまった相手の恩恵はどんなものだったというのか?
「(今度もしまた本人に会うことがあったら、思い切って聞いてみようかしら?)」
皐月はそんなことを考えていた。それがこのゲーム内において本来はあまりよろしくないことだということはもちろん知っているが、それでも気になったのだ。本人と会って話したことがある分、余計に。
<第1階層:始まりの街>
コルトは今日も始まりの街の祭壇の前にいた。
ここでゴッドワールド・オンラインを新しく始める、そしてVRゲームがこれが初めてだという初心者を導くために祭壇の近くを歩いている。
「次は第3階層か。いったいどこまで行く気なんだろうかねぇ」
コルトはふと空を見上げてそうつぶやくと、そこで祭壇の上に現れた見かけない、初期装備をつけたプレイヤーが現れたのでそのプレイヤーに歩み寄って行く。
そのプレイヤーは見るからにたった今このゲームを始めたばかりだということをコルトはすぐに見抜くと、祭壇の上で棒立ちしていた若い女性(見た目は)プレイヤーに声をかけた。
「よう、嬢ちゃん。もしかして新人さんかい?」
それはもはやコルトの中では定型句となりつつある最初の挨拶で。
「(さて、この子はどの神様の恩恵を授かるのか。ま、アストレアじゃなきゃなんでもいいか)」
コルトがその時内心でそんなことを思っていたことなど、話しかけられた新規プレイヤーは、いや、他の誰も知る由がなかっただろう。
もちろん、コルトと名乗るその男性プレイヤーの正体が何者であるのかということについても。
次回から本格的に第3階層編がスタート。
玲愛の無双伝説にまた新たな1ページが加わっていきます。
筆者の苦手としている神界ドラマパートも、頑張って書いていく予定。
それと、第2階層編の誤字・脱字および設定の矛盾チェックを一応終えました。
もしかしたらまた後から見つかってさらなる修正作業を行うかもしれませんが、ストーリー本編の内容に大きく関わるような大きな修正点でない限りはいちいちどこを直したとか報告はしません。
なのでたまに本編を戻って読み返してみた時に以前に読んだ時と文章が一部変化、削除、追記されていることもあるかもしれませんが、あくまで些細な変化に留めているのであまり気になされないように。




