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ニートな女神がログインしました。  作者: 唯一信
第2階層―GREEN―
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ニートな女神と初めての森

 森に入ってから2時間ほどが経過した。

 ダンジョンのマッピングは6~7割ほどといったところで私は大体この森の全体像というか、その先の地形などが想像できるくらいには森を攻略したように思う。

 森ではルートでの戦闘が少なく、代わりにルームではモンスターが大量に待ち構えているということが多いようにも思えた。

 そして森には第1階層の迷宮にあったようなトラップの類はいっさいなくどちらかと言えば優しい設計のダンジョンだった。

 まあ、それも通常のフィールドで最初のダンジョンということだからなのかもしれないし、トラップの恐ろしさはすでに第1階層迷宮で味わっているだろうからね。


 そうして探索を続けるうちについに私は100体目のキラービーを倒した。

 もちろんそれにより麻痺耐性スキルも麻痺無効というスキルに進化したわけで。


 〇麻痺無効

 麻痺攻撃によって敵から受けるダメージを100%減少させる。状態異常(麻痺)にならなくなる。


「よーし、これでもう麻痺は怖くなーい。はっはっは」


 ちなみに毒無効のスキルの説明に書かれた毒攻撃というについても同様だが、麻痺攻撃というはこちらを麻痺の状態異常にする攻撃という意味だ。

 つまりはキラービーのあの針攻撃については、攻撃の分類では物理攻撃になるのだろうけど、こちらを麻痺にする可能性があるので麻痺攻撃という分類になる。

 なので、物理攻撃ではあるけど麻痺攻撃でもあるキラービーの針攻撃によっては私は一切のダメージを受けなくなったというわけなのだ。


 まあ、もっとも普通に物理攻撃だったとしても今の私にはダメージは発生しないのだけど。


「お、麻痺消し草発見!、魔力草もある。ラッキー」


 私は地面に生えた麻痺消し草と魔力草を手に取るとアイテムボックスに収納した。

 そうだな、ここでこの森で取れる野草系のアイテムについて紹介しておこうか。


 まずこれまで取った野草についてだが4割が薬草。2割が毒消し草というところだ。

 残りの4割がこの森で初めて見かける野草だったが全部で3種類あった。


 まず麻痺消し薬の材料となる麻痺消し草。

 毒消し草もそうだったけどこの野草系のアイテムって、一応食べることもできるんだけどまずいし、何より野草のままでは毒や麻痺を消す効果はない。

 うん、実際に食べて試してみたしこれは確実だよ。

 やっぱり薬にして初めて効果を発揮するもののようだ。


 お次に紹介するのは魔力草。これは、アイテム説明欄では単に魔力を帯びた草としか書かれていなかったけどおそらくはMP回復アイテム、聖水等の調合に必要なものに違いない。

 まだレシピは持っていないので何ともいえないから推測でしかないけど……


 3つ目は麻痺草。これは、もう説明不要だよね。毒草と同じタイプのやつだ。

 ただ麻痺草はすごく数が少なくて比率は0.5もないくらい。

 麻痺消し草が2割、魔力草は1.5割といったところかな。


 だけどさすがに森だけあって地面に草は多い。だから麻痺消し草でも今までに30本以上は手に入れてたし。キラービーの針ももう100個以上持ってるから街に帰ったらすぐに大量に麻痺消し薬が作れるぞ。

 それに私の予想では麻痺消し薬を作っていけば調合のレベルも上がる気がするんだ。


 調合Ⅰの時に最初作れたのはポーションだけ。それでそのポーションを大量に作っていくとスキルレベルが上がって調合Ⅱになった。

 そして調合Ⅱになった際に新しく作れるようになったアイテムが毒消し薬と麻痺消し薬。つまりアイテム作成系のスキルはスキルレベルが上がると作れるアイテム、そのレシピが増えていくのだけど。


「多分だけど。スキルレベルが上がったことで新しく作れるようになったアイテムを全部、一通り作り終えた時にまたスキルレベルが上がるんだと思う」


 調合のスキルレベルがⅡに上がってからもポーションや毒消し草、それに野菜ジュース(オレンジ)などをかなりの数作ってきた気がするけど一向にⅢに上がる気配がない。

 だからたぶん、きっと麻痺消し薬も一定量作る必要があるのだと私は見ている。だから正直な話早いとこ街に戻って麻痺消し薬作りをしたいところだったけど、それよりもまず森の攻略が先だな。


「キラービーから麻痺を受けなくなっただけで森の攻略が格段に楽になった。ニードルラビットの動きにもだんだん慣れて捉えられるようになってきたし。後はフォレストベアだな」


 フォレストベアは、第1階層のワイルドボアのように出現率、そして遭遇率がすごく低いし、こっちから手出ししなければ戦闘にはならない。

 だけどもあいつ、1体で200も経験値くれるんだよね。簡単に倒せない分それも当然な気がするんだけど。


「っていうか、ツッコむべきかどうか迷ったけど。ドロップアイテムが、おかしい!」


 フォレストベアは倒すとドロップアイテムを2つ落とす。

 1つは青い毛皮という素材アイテムで、これはまあいい。フォレストベアの体毛と同じ鮮やかな青い毛皮なのだから。

 だけどもう1つは、完全に遊んでいるとしか思えなかった。

 私はそのアイテムをアイテムボックスから取り出し手で持つとやっぱりおかしい、ありえないだろうという気持ちでいっぱいになった。


「木彫りの熊って……これ完全にお遊び、いやふざけてるだろう」


 私の手に持たれているのは30センチほどのサイズの精巧に作られた木彫りの熊だった。

 え、なに。フォレストベアってこんなに器用な感じで木を削れるんですか?

 それでわざわざ自分の、というか熊の形の工芸品を作って持っていたとでも?

 ふざけるのもいい加減にしやがれって話だし、そもそもこのアイテム。


「このアイテム。何に使うんだよ」


 これが普通の材木であったなら、まだ使い道もあっただろうけど。

 これは、あれかな。銅貨袋と同じで店に売って金に換える用のアイテムってことでいいのかな。


 一応私なりに使い方を模索しても見た。

 フォレストベアに向かって投げつけてみたり(ダメージ0だったので戦闘にはならなかった)、フォレストベアの目の前に置いて様子をうかがってみたり。

 でも特に、何かしらの効果があるわけでもないようで。


「これ、最悪の場合フォレストベアを倒した記念ってことで部屋に飾る用のアイテムだったりして……」


 もしそうであったなら本当に最悪だ。だから私は、せめて換金アイテムであってくれ。街に帰ってから道具屋で高く売れてくれと願うばかりだった。もし売れなければ捨ててしまおう。そうしよう。

 せっかく苦労して倒したモンスターから全然使えないアイテムがドロップした時って、きっとこんな気持ちになるんだな、ということだけはわかった。

 まあまだわからないんだけどね。もし換金用アイテムだったとしたら銅貨袋よりは高く売れるはずだ。

 銅貨袋が1個100Gだったからこれは、どれくらいだろう。1個500Gくらいかな。


「ま、それも街に帰ってからのお楽しみだな。しかし、やっぱりもっとレベル上げなきゃフォレストベアを楽に倒すのは無理かな」


 私は最終的にそう結論つけて森の探索を続けた。


 ――それから1時間後――


 ついにダンジョンのマッピング率が98%になった。

 つまりは残りはこの森のボスが待ち構えているであろうボス部屋の攻略のみということだ。

 そして私はまさに今、そのボス部屋へと続くであろう手前のルームにいた。


 ああ、ちなみに森には私が入ってきた花畑側の入り口の他に、もう1か所この階層の村へとつながる入り口(私からしたら出口)もすでに発見していたが村へ行くのは後回しにした。

 別に村への道は、この森のダンジョンボスを倒さないと行けないとかそういうことはないようだったから、別に回復アイテムが足りなくなってるわけでもないしね。

 ボスを倒したらその後で村に行くことにした。その方が効率的だし村にも道具屋があるようならそこで例の木彫りの熊を売ってみよう。


 さて、というわけで私は最後のルーム、ボス部屋へと続くであろう道を進み始めた。

 しかし必ずしもボス部屋が、それまでと隔離された空間であるとは限らないらしい。

 迷宮のように大きな扉があってそれを開いた先にボスが待ち構えてるというのはむしろかなり親切な方で、だいたいの場合ボス部屋とはボスモンスターが出現する部屋、空間のことを指す。

 迷宮はダンジョンの中でも特殊な立ち位置で、難易度も高いからとくにボス戦の前には、この先にボスがいますよとわかりやすく教えてくれているのだ。


 何が言いたいのかと言うと、通常のダンジョンではわざわざこの先がボス部屋ですよ、とか親切に教えてくれることは少ないという話だ。

 それでも大体の場合、ボスはそのダンジョンの入り口からもっとも離れた場所。最奥の部屋にいるというのが基本であるとされているけど油断はできない。

 まあ序盤のうちはないとは思うけど、普通の部屋だと思ってふらふらと先に進んだら実はその先はボス部屋で、ボスモンスターにいきなり遭遇して手も足もでずに死亡なんてことも。


「さあってと、この森のボスはどんなやつかね。熊はもう出たけど、でっかい猪か。あるいは……」


 ボスといえば言い換えれば主とも言える。森の主、楽しみだな。

 そしてボス部屋へと通じるルートは他の道よりも長かった。きっとそのへんがこの先ボス部屋ですよ的なことを教えてくれている部分なんだと思うんだけど。

 私が道を抜けてボス部屋にたどり着いた時、私の背後にあったそれまで通ってきた道への入り口が急速に成長した木々によって塞がれてしまい元の道に戻れなくなった。そのことからもそこがボス部屋であることは間違いない、のだけど。


「こ、れ、は…………ああ、そうくるか~!」


 ボス部屋は広かった。森の一画にドーム球場の半分くらいの大きさの開けた大地があった。

 けれどもその大地の8割以上をある巨大なものが占領していたために実際にプレイヤーが戦闘を行える空間は通常の大ルームほどしかない。

 その巨大なものとは何かというと、それはまぎれもなくハチの巣だった。そう、ハチの巣。


「考えてみたらそうだよね。キラービーってハチなんだし、どっかに大元の。巣があってもおかしくはない。けど、それにしてもでかいな!!」


 ハチの巣は高さが少なく見積もっても30メートルはありそうだった。

 こんだけ大きかったら遠くからでも目視で確認できそうな気もするけど。

 いや、明らかに周囲の森の木々よりも高いからね。


「ってことはボスは女王バチか何かかな。おっと、その前に前哨戦だ」


 どうやらダンジョンのボスとはすぐに戦闘になるわけではないようで、私がボス部屋に入ってきたことを感知したのかハチの巣からキラービーが4体出てきてまずはそいつらと戦闘になった。

 でも麻痺攻撃を除けばキラービーはむしろそれ以外のザコモンスターよりも弱いモンスターなので私は難なくそれを片付けた。

 するとさらにハチの巣から6体のキラービーが出現し、それらを片付けるとさらに8体のキラービーがハチの巣から出てきた。


「おいおいおい、これいつまで続くんだよ」


 と思いながらも倒す以外の選択肢などないので私は仕方なく8体のキラービーを1体ずつ確実に倒していく。なおここまででスキルや魔法は一切使ってない。MPもったいないしボスとの戦いのために温存しておこう。


 8体のキラービーを倒すとそこでこの場に新たなキラービーが出現することはなかった。

 その代わり前方にある巨大なハチの巣の中央に大きな穴が開いた。一瞬その中から何かが飛び出てくることを警戒したがどうやらそうではなかったようで。

 その大きな穴へと続く階段が現れた。階段は、なんだろうハチの巣の壁とかつくってるあの黄色い素材ね。たしか蜜蝋っていうのか、それでできてるみたいだけど。


「なるほど。本当のボス部屋はあの中ってことだな。よし!」


 余談だが今いるこのボス部屋というか、その前の場所についてはメニューで現在地を確認して見たらそれまでの森という表記ではなく巨大ハチの巣前という表記だった。まんまじゃないか!


 私は蜜蝋で出来た階段を上り(強度は問題なかったみたい)巨大ハチの巣の中に足を踏み入れた瞬間に視界が白く染まった。これは空間転移というか、別の空間に飛ばされる時の演出だな。

 そうして次の瞬間には私はダンジョンの真のボス部屋、巨大ハチの巣の内部にいた。


 それでそこに待ち構えていたのがこの森のダンジョンボス。


「クイーンビー、ね。まじで女王バチかよ」


 クイーンビー。全長15メートルほどの巨大なハチで頭には銀の冠みたいなのを被っていた。

 しかもその手には銀の杖が。きっと倒したらあれがドロップするに違いない。

 HPケージは大ケージが2本分とビッグポイズンスパイダーと同じだったが。

 ただ、このボス部屋にいたのはクイーンビーだけではなかった。


「ああ、キラービーももちろんいるよね。ひ、ふ、み……10体も?」


 クイーンビー+キラービー×10。どうやらこれがここのボス戦の仕様らしい。

 クイーンビーがこちらを威嚇するようになんか鳴き声を発したところで戦闘が開始された。


「ようし、先手必勝。ファイアーボール!」


 キラービーもそうだったが昆虫族のモンスターはたいてい火属性が弱点だ。だからクイーンビーも絶対に火が苦手だと思っていたのだけど。

 結果から言うと私の放った最初のファイアーボールはクイーンビーに命中しなかった。

 それはクイーンビーがよけたわけでも、私の狙いが外れたわけでもなかった。


「え、そんなのありかよ!?」


 盾だ。クイーンビーの周囲にいたキラービーのうちの1体がクイーンビーの前に立ちふさがりその身をもってして私のファイアーボールを受け止めて死んだ。

 女王を守るためなら自分の命も投げ出すとか、すごい主従関係だな。

 って、いやいやそんなこと言ってる場合じゃない。これはまずいぞ。


「まさか、周りのキラービーって全部それ要員なわけ?」


 周囲にいるキラービーはさっきからこちらの様子をうかがうようにしていて一切動こうともしない。唯一さっきの私のファイアーボールをクイーンビーの身代わりで受けたやつだけが動いたくらいで。

 つまりキラービーの方は基本戦闘に不干渉ということなのか。


 今度はクイーンビーの反撃だったがそれが予想外すぎた。

 クイーンビーは手にした銀の杖を振った。もちろんそれは物理攻撃ではなく……


「ゴロゴロゴロォォ!」

「え、なに?」

「バリバリバリ~!」

「ぎゃあああああああ!!」


 何が起きたのか。まあ、音でなんとなく察してくれた人もいるだろうけど。

 クイーンビーの基本攻撃はまさかの雷落としだった。私の頭上に突如現れた雷雲、次いで降り注ぐ雷。

 私は風属性と水属性の魔法はすでに無効化できるが雷属性はまだ何の耐性もない。

 なのでそれで一気にHPが33も削られた。


「ううう、そんなのありかよ」


 さらにクイーンビーの攻撃は続く、今度はキラービーと同じくその尻尾に生えたでっかい針をミサイルのように射出してきた。私はそれを回避したと思った。

 しかしクイーンビーの針は驚くべきことに追尾性能があるようで針は回避した先の私を追って飛んできた。そして私はあわてて盾でそれを受け止めたがなんと盾越しでもダメージが2だけ発生した。

 ということはあの針、素で受けたらもちろんそれ以上のダメージというわけだ。やばすぎる。


「とにかく、えっと。先に周りのキラービーを全滅させなきゃいけないってことだよね」


 というわけで私はクイーンビーをいったん無視してその周囲にいたキラービーを倒していこうとしたのだが私が接近すると周囲のキラービーは逃げ出し、1体倒すのもけっこう時間がかかる。

 クイーンビーの雷落とし攻撃も、これ基本的に回避不能だわ。

 私が移動しても私の頭上に出現した雷雲も同じように移動するのでまず落ちてくる雷をよけることなど出来ない。

 というかきっとシステム的に回避は出来ないような攻撃なんだろう。あの銀の杖を振って魔法を発動させる動作の時点でなんらかの攻撃を当てて攻撃をやめさせるしか方法はなさそう。

 しかしそれをしようとクイーンビーを攻撃しても魔法も物理も全部飛んできたキラービーが身代わりになってクイーンビーには届かない。


「いっそのことあえてクイーンビーを攻撃し続けて身代わり要員のキラービーを先に全部使い切らせるか。いや、それだとMP消費が大きすぎてきっとこの戦いの最中にMP切れになる。そうなったらまじで終わりだな」


 そして、その時まではまだどうやったらあいつを倒せるかと考えて私の心を完全に砕いたのは……


「また雷か!?」


 クイーンビーがそれまでと同じように杖を動かした。

 ただ雷落とし攻撃が杖を振った後で攻撃対象を指定するためか私の方に向けられたのに対し、今度のはクイーンビーの頭上に掲げられた。

 するとボス部屋の中に新たにキラービーが出現した。いや、増員されたと言うべきか。


「あ、これもう詰んだね」


 せっかく私が頑張って5体ほど倒したキラービーだったけど今ので3体増えて数が8体に。

 きっと最大でも最初にいた10体までしか増えることはないんだろうけど問題はそこじゃない。


「これ、ソロじゃ絶対倒せないやつだ」


 まあダンジョンのボスをソロで倒そうとしてた私が悪いというか、なめすぎてたのだろうけど。

 おそらくこのクイーンビー戦、4人くらいのパーティならみんなで協力して先に周囲のキラービーを倒してからみんなで協力してクイーンビーと戦うのが普通なんだろう。


「あー、しくったな。知らなかったとはいえまさかこうなるとは」


 私はすでに諦めかけてた。これはもうどう頑張っても最終的には私は死ぬなと。

 だけどそれでも一応色々と倒せる方法がないか思考を巡らせていたら……


「ようはキラービーを確実に一気に倒せればいいんだろうけど。そんなこと……うん、一気に倒す?」


 私はそこで閃いた。ただ、それは私がもう絶対にこれは使うまいと決めた戦法であって。


「あーーーーーー。うーーーーーー。くそ、もうそれしか方法がないのか!?」


 私は決断した。またあの悪魔の手法を、もうボス戦とかではおなじみのあれをまた使うことを。

 しかも今回のはいつものやつじゃなくより強力な方を呼び出すつもりだ。


「本当はやりたくないけどこの際だしもう仕方ない。召喚:ドラゴン!」


 私がそう叫ぶと私の前方に巨大な赤い魔法陣が浮かび上がり。そしてその魔法陣の中から炎と共に第1階層迷宮の主、ドラゴンさんがお出ましした。

 それでドラゴンさんはようやく俺の出番かとばかりに猛々しい鳴き声をあげたわけで。私はそんなドラゴンさんに命じた。


「焼き払え。ファイアーブレス!」

「グオワァァァァァァ!」


 それは、出来れば直視はしたくない壮絶な光景だった。

 クイーンビーに対してのあらゆる攻撃はまずキラービーが身代わりになる。

 それがファイアーボールのような単発式の、言っちゃうと攻撃範囲が狭い攻撃なら1発に対して1体の犠牲で済んだだろう。

 では、もしその攻撃がファイアーブレスのようなきわめて広範囲に攻撃できる技であったなら?


 答えは簡単。その時部屋にいた8体のキラービーが総動員してクイーンビーを守る身代わりの盾となりドラゴンのファイアーブレスを受けてすべて消滅した。うん、もうあまりに一瞬であっけなく死んだから消滅したって言っていいんじゃないかな。

 しかしそれでも勢いを殺しきれなかったファイアーブレスは、クイーンビーを飲み込むようにようにして火で包み込みその結果クイーンビーのHPは一気に大ケージ1本分と2本目の2割を削ることに。


「グギャアアアアァァァ!!!」


 クイーンビーの驚愕と苦しみの混ざりあったような絶叫がが部屋中に響き渡った。

 ああ、だからこれ。この技っていうか戦法使いたくなかったんだよ。もうトラウマになりそう。

 正直今のダメージ量ならあと1発ファイアーブレスを撃ち込めばそこでクイーンビーは倒されるだろうことは確実だった。


「送還。ドラゴンありがとね」

「グルルルルゥゥゥゥ」


 だけど私はそんなことはしない。さすがにそれは、酷すぎる気がする。

 今のでキラービーは一時的にではあるけど全滅して、もうボス部屋内にはクイーンビーを守るための盾はないし、だからせめてクイーンビーの残り8割のHPくらいは自力で頑張って削ろう。

 いや本当はそれも建前で、私はクイーンビーのあの悲痛な叫び声は2度と聞きたくないなと思っただけだよ。なんていうか、耳に残るタイプの声だったから。


「召喚に頼らないとダメっていうのは、まだまだ未熟ってことだな。召喚なしでも倒せるようにしなきゃ。……ま、今回はもう仕方ないけど」


 私は改めてクイーンビーに向き直り戦闘を続行した。私のHPも半分近く削られていたけどこれなら押し切れるだろう。それにしてもすごかったな、ドラゴンのファイアーブレス。


<モンスター辞典>

〇クイーンビー

昆虫族。第2階層ダンジョン:森のダンジョンボス。銀の杖と冠を被った女王バチのような外見。

戦闘では同時にキラービーが10体出現するがこのキラービーは直接攻撃はしてこない。

ただし物理、魔法問わずあらゆる攻撃に対してクイーンビーの身代わりに攻撃を受けクイーンビーを守るためまずは周囲のキラービーを全滅させてからでなければクイーンビーに攻撃は届かない。

クイーンビー自体の攻撃方法は、手にした杖による直接物理攻撃、突撃攻撃、それと相手の頭上に雷雲を発生させ雷を落とす魔法攻撃。(魔法名サンダーボルト。雷属性の中級攻撃魔法)

そしてキラービー同様に尻尾の先端に生えている針をミサイルのように射出してくるが、クイーンビーの針は追尾性能がある。

雷攻撃と針攻撃はくらうと麻痺(中)の状態異常になるのだが幸いにも玲愛は本編内、クイーンビー戦前にすでに麻痺無効のスキルを持っていたため麻痺にはならなかった。

弱点は火属性でこれはキラービーと同様だが風属性と雷属性に耐性がある。

ドロップ:(次話参照)


なお、クイーンビーは本来賢さが非常に高いため魔法攻撃は効きにくいはずだが、それでも弱点の火属性でさらに中級のファイアーブレス、加えて玲愛の火魔法最強のスキル効果は召喚されたドラゴンの魔法攻撃にも適応されダメージが2倍になっていたため本編内では大ダメージを受けていた。

けど普通の魔法使い職のプレイヤーが放つファイアーボール程度の魔法ならそれほど大きなダメージは与えられない。逆に耐久が低めだから物理攻撃はよく効くよ。


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