ニートな女神と初めてのリーダー
神様の恩恵の効果を考えるのが大変なんだ。
とくにアストレアの「正義」みたいな、あいまいなものを司る神がたくさんいるから。
神々の恩恵の効果というものにはそれこそ多種多様なものがあると聞いた。
たとえば最初にゲームにログインした時に私にこのゲームのいろはを教えてくれたコルトさんから聞いた話ではこういうものがあるのだという。
「鍛冶」を司る神、ヘファイトスの恩恵の効果。
①「鍛冶」のスキルを覚える。
②「鍛冶」のスキルでアイテムを作成する際に、レシピに必要な素材アイテムの数が2倍になる。
③「鍛冶」のスキルで作成したアイテムがすべて最高品質のものになる。
というものであったり、あるいは戦闘向けの効果の恩恵もあったり。
「炎」を司る神、カグツチの恩恵の効果。
①火属性の攻撃で与えるダメージが1.2倍になる。
②武器による物理攻撃がすべて火属性になる。
またはこんなのもあったりとか。
「商人」を司る神、ヘルメスの恩恵の効果。
①アイテムを売った時に売値が通常の1.25倍になる。
②アイテムを買う時に買値が通常の0.75倍になる。
③ただし、①と②の効果はプレイヤー間のアイテム売買時には無効となる。
うん、これはちょっと効果として微妙かなと思うけどね。
でも、どんな神様にもたいてい2つか3つの効果があるって話だった。
逆に効果が1つしかないものは、その1つだけでかなり強力な効果であったり。
あるいは効果が5つもある神などは、1つ1つの効果がそんなでもなかったりとか一応のバランスは取っているらしい。
まあ、それでもやっぱり当たり外れなどはあるようだけど。
性別や種族、武器などは実は後からでも変更はできるのだという。
ただし神の恩恵だけは1度きりで後から変更することはできない。
もしもどうしても自分の恩恵が気に食わなければ1度ゲームをアンインストールしてから再びゲームを始めてまた最初からやり直す必要があり、それだとすごく時間がかかる。
でも、下界の人間たちの中には自分のお気に入りの神様の恩恵がもらえるまでひたすら粘り続ける猛者もいるらしくて、その気持ちもわからなくはないのだけど。
誰だって強い能力、強い効果がもらえる可能性があるならそちらを選ぶだろう。
私のような例外を除けば……
さて、では結局のところ私の恩恵の効果とはどのようなものだったのか。
今の段階でおそらくこれが私の恩恵の効果ではないかと思われるものを挙げていく。
「正義」を司る神、アストレアの恩恵の効果(推測)。
①モンスターを倒した時にドロップアイテムが100%落ちる。
②アイテム作成スキルで作成したアイテムが100%の確率で最高品質のものになる。
③体から謎の光が発生して力がみなぎってくる。
……いや、それのどこが正義の神なんだ。いったい正義と何の関係があるというんだ?
しかしこれは私がそう思っているというだけで実際はまったく別の効果なのかもしれない。
そもそもこのゲームの運営側が私のことを「正義」を司る神だという認識を持っているのかどうかでさえ怪しいのだ。
そして、そうである以上はもう私自身自らの恩恵の効果を確認することが怖くて仕方ない。
ああ、私が普通に人間だったら。あるいは私の恩恵が自分自身のではなかったとしたらここまで頭を悩ませることもなかっただろうに。
おそらくこの悩みに関しては他のプレイヤーは誰も理解してくれないだろう。
だって他のプレイヤーは人間だから。下界に住む普通の人間だからね。
「だけど、もういい加減に覚悟を決めて見ちゃえよ」
「いやいや、いまさらそんなことできないって」
「でも、でないとこの先不便じゃね?」
「いやいや、今まで特に問題もなかったから大丈夫だよ」
「でもさぁ~」
「いやいやいやいや、無理、もう無理だから」
といったようなやり取りが頭の中で高速で行われていたりした。
それで現在の状況に話を戻すとしよう。
<第1階層:始まりの街:森林公園>
私たちが受けたクエスト、カラスの群れとゴミの山がこの階層の最高難易度のクエストであると称される理由は、このクエストの最後にボスモンスターとの戦闘が待ち受けているからだった。
現れたボスモンスターの名前はヤタガラス、HPケージは見たところビッグポイズンスパイダーと同じで長いケージが2本分あった。
つまり少なくともビッグポイズンスパイダーと同等かそれ以上の強さがあるように思われた。
の、だけれども……
「玲愛さん?」
「うん、ごめん私もこれなんだかわかんない。初めて出てきた」
そのヤタガラスが現れて戦闘になるぞというところで私の体が急に金色に光り始めた。
それには一緒にパーティを組んでいた4人も驚いていた。とくに驚いていたのはローズだ。
「その光は私の恩恵の効果と同じものでしょうか。体の調子はどうですか?」
「えと、なんか力がみなぎってくる感じがする」
「それならきっと何らかのパワーアップであることは間違いありません。ですが……」
ローズはそこでこちらに迫りくるヤタガラスの方を見据えた。
「それを確認する時間は今はなさそうです。皆、各自散開して個別に攻撃、ダメージを受けたら無理せずに下がること。ゴミ山が見当たらないからこのクエストはあいつを倒せば終わりだと思いますから。頑張って!」
「うん!」
「よっしゃー、こうなりゃやってやるぜ!」
「はい!」
ローズが放心していたメンバーを現実(いやこの場合はゲームに)に意識を引き戻すと戦闘態勢を取るように命じた。
「玲愛さんは、正直その状態がどのくらい持続するのかもわからないのでしょうけど、とりあえず全力でいろいろ試してみてください」
「うん、言われなくてもそうするつもりだよ」
「では、武運をお祈りします。私も一緒に戦うので変な言い回しになるかもしれませんが」
「うん、一緒に協力してあいつを倒そう」
ということで戦闘開始である。
そしてフィールドに完全に現れた(今までは遠くからこちらに向かってきている途中だった)ヤタガラスがまずは公園内の地上に降り立つとこちらに向かって咆哮した。
それが戦闘開始の合図だった。
「ファイアーボール!」
「ダークボール!」
「えと、アイスボール!」
まずは私、マロンちゃん、ラフィアちゃんの魔法使い勢による魔法攻撃。
それらはすべて命中したが、なんとほとんど無効だった。いや、かろうじて私のファイアーボールがほんの少しHPを削ったかというところ。
「そんな!」
「構わずに続けて!」
そして攻撃を受けたヤタガラスももちろん反撃をしてくるわけでそれがすさまじかった。
巨大な翼を広げたと思ったら思いっきりそれを羽ばたかせて竜巻を発生させた。
しかもその竜巻は大きかった。
「よけて!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
その竜巻に巻き込まれたのは私でもマロンちゃんでもラフィアちゃんでもなかった。
李ちゃんだった。
「李ちゃん!」
驚くべきはその竜巻、まずは李ちゃんの体を10メートルほど上に吹き上げたこと。
そして落ちてきた李ちゃんのHPはたった一撃くらっただけなのにもう半分になっていた。
「ちっくしょー。なんで私なんだよ!」
本人はダメージうんぬんよりもなぜ自分が攻撃対象に選ばれたのかということの方が納得いかないらしかったけど、たしかにその通りだ。
普通は、モンスターは自分を攻撃してきたプレイヤーに狙いを定めるはず。
それなのに攻撃した私たちよりもなぜか遠くにいた李ちゃんが狙われた。
これは偶然だろうか?
そういえばさっきもカラスたちは李ちゃんの方に集まって襲い掛かっていたな。
やっぱり何かそれには理由があるのだろうか。
そう考えている間に今度はローズが突撃してやつの右の翼を切り上げた。
するとどうだろうか、先ほどの魔法攻撃よりも大きなダメージ。
1本目の体力ケージの1割ほどのダメージを与えることに成功した。
「あいつは魔法よりも物理攻撃の方が効くみたいですね」
「わかった。そういうことなら私の出番だな」
「はい!」
「うん!」
ローズの言葉でおのおのが自分の役割を理解したようだ。
ヤタガラスには魔法よりも物理、ということはメインの攻撃役はローズ、李ちゃん、私。
そして残りの2人は後方で援護しつつも前方がやばくなったらチェンジして、前方の3人が体力等を回復するための時間を稼ぐ。
「ヤタガラスも今までのカラスと同じで耐久は低いんだ。でも賢さが高いから魔法は効きにくいと」
と、私は考察を述べる。
それで、私はいまだに体が金色に光ってたのだけど。
おそらく魔法の威力はあがっていないと思う。ファイアーボールをさっき打ちこんでみたやつのHPの減り具合から考えても……いや、まだわからないかな。
でも、竜巻攻撃を避けた時にちょっと地面をけっただけなのにすごいスピードで回避できたことはわかった。敏捷の値が上がっているのは確実だ。
あとはこの力がみなぎる感じ、絶対に力もあがってるはず。
問題は……
「2段斬り!」
私が今度はやつの左の翼に2回連続攻撃技、2段斬りをお見舞いしたらやつの体力はさらにケージ3割ほど削られた……の、だが。
「うぎゃぁぁぁぁぁ!」
返す刀で翼での物理攻撃を食らってしまった私の体力が、一気に6割も削られた。
おそらくこの中ではもっともHPと耐久が高いと思われた私のHPが、だ。
これはきっと……
「力と敏捷は上がってるけど、代わりに耐久は下がってるのかも」
そう思うのは体がやけに軽いなと思ったからだ。
これは速さがあがっているからそう感じるのではなく自分の中で何かが軽く、いや何かの能力が下がっているのではないかと思っていたがどうやら正解みたいだ。
「玲愛さん、大丈夫ですか」
「う、うん。ごめん、ちょっと油断してた」
私はポーション☆をすかさず飲んで体力を全快させるとまた剣を構えた。
近くにきたラフィアちゃんはそれでも心配そうな顔をして見ている。
「あ、そうだラフィアちゃん」
「は、はい」
「さっき、アイスボールも使ってたけど使える魔法って氷と火だけ?」
「い、いえ。あとは雷と光も使えます」
「じゃあそれも試してみて。なにか弱点の属性があるかもしれない」
「は、はい!」
そうして話してる間に李ちゃんとローズの連携でヤタガラスはさらに体力を削られていた。
先ほどの私がくらった翼による反撃も警戒しながらちょっとずつ攻撃していったおかげで反撃はくらわずにいたようだけどそれでもさけるのはギリギリだったようだ。
なんといっても体が大きく、翼だけでもかなりの大きさだった。
それにカラス特有の素早さも格段に上がっており攻撃も激しくなかなか攻めに転じられない。
そうこうしているうちにまたやつは翼を大きく広げた。あ、さっきのやつが来るな。
「離れて!」
「うぇええい!、あれ私じゃないの?」
予想通り放たれた大竜巻の今度の標的はローズだったようだ。
ただ竜巻は大きいくて素早いもののプレイヤーを直線的に狙ってくるのである程度の速さと反射速度があればギリギリよけることもできた。
事実ローズもギリギリでその竜巻をよけることに成功した。
それを見てさきほどあの攻撃をほぼ無抵抗でくらってしまった李ちゃんは感心したように見ていた。
まあ、たしかに今の回避はすごかったけどね。
そして、体力ケージの1本目の半分まで削られたヤタガラスは空へと飛んだ。
飛んだと言っても10メートルほど上空にいるだけで戦線離脱したわけではない、が。
こうなると私とローズの攻撃はまず届かない。あとは魔法攻撃と槍投げだけだがどうなるか。
「せりゃぁぁ!」
李ちゃんの投げた槍はちょうどヤタガラスの胴体に命中しさらに体力を削る。
そして……
「サンダーボール!、ライトボール!、サンダーアロー!、ライトアロー!」
ラフィアちゃんの魔法4連続コンボ。
さきほど私の指示した通りに、雷属性と光属性の魔法による攻撃だった。
その結果ははというとだ。
「え!?」
「効いた!?」
雷属性の方はほぼ無傷だったものの光属性のライトボールとライトアローに関して少しではあるが効き目があった。
「あいつの弱点は光属性か。なら私も、ライトボール!」
さらに追撃で放った私のライトボールでやつの体力は1割ほど削れた。
もうこれで間違いないだろう。
「ラフィア、私とポジションチェンジ。今の魔法を続けて。李も!」
「う、うん」
「わかった!」
ここでふと視線を横に向けるとマロンちゃんが不満そうな顔をしていた。
ああ、マロンちゃんは闇属性の魔法しか使えないのだったっけ?
でも、まあそれはもうどうしようもないからな。
「竜巻が来ます!」
ヤタガラスが上空からまた翼を大きく広げた。
ローズの注意で皆また先ほどの大竜巻攻撃を警戒したけど、今度は違う攻撃が来た。
いや、竜巻攻撃ではあったのだが大きなものではなく小さな竜巻だった。
その竜巻の数は3つ、狙われたのはもちろん前方にいた私たち3人だった。
そしてこの小さな竜巻たちは考えようによっては先ほどの大竜巻よりも厄介だった。
「ちょちょちょちょっと、この竜巻追いかけてくるんだけど!」
「きゃあぁぁぁぁ!」
李ちゃんは追尾する小竜巻から逃げ回りラフィアちゃんは逃げ切れずにくらった。
ただ、ラフィアちゃんは魔法使いでING、つまり賢さも高かっただろうし小竜巻はゲーム内では風属性の魔法攻撃という扱いだったためかダメージはHP3割ほどで止められた。
しかしこの竜巻、さらにやっかいなことにくらうと上ではなく後方に吹き飛ばされる。
よってラフィアちゃんは勢いよく後ろへと飛ばされていきそこで控えていた……
「ちょっと!、きゃあ!」
ローズに激突してラフィアちゃんはさらにHP1割減。
ぶつかった方のローズも少しではあるが体力が減っていた。ラフィアよりも減っていないのは今のがあくまで物理的なダメージでローズは鎧を装備していたし耐久が高かったからか。
逆に魔法使いで白いローブを装備していたラフィアちゃんの方は耐久が低くダメージも大きかった。
これはどんなRPGでもその傾向があるのだけど魔法使いって魔法攻撃には強いけど普通の物理的な攻撃に対する防御が甘くなるよね。
もっというと耐久の値が低くなりがちなのだ、魔法使いは。
ん、それでどうしてお前はそこまで淡々としているのかって?
さっきの話だとお前にもその小さな竜巻が襲い掛かってきたんじゃないのかって?
うん、もちろん私のところにも来たよ。でも私は別に回避はしてなかった。
ではどうしたのか?、ここで以前に話した属性の話のおさらいだ。
飛んできた攻撃は竜巻でどうみても風属性の魔法攻撃。
ではこのゲーム内の属性の相性で風属性に勝てるのは何かな?……答えは氷属性だ。
「アイスボール!」
私は気づいていた。
たとえばレッドウルフとの戦いの時、レッドウルフの放った火属性のファイアーボールに向かって、火属性と相性の良い水属性の魔法であるウォーターボールをぶつけて互いに消滅させたこと。
つまり、放たれた魔法そのものに対しても属性の相性関係は適応されるということ。
もちろん、それでもたとえば飛んでくる攻撃の方が威力的に上だったりした場合は完全に打ち消すことはできない。
事実として私が放ったアイスボールを受けても小竜巻は完全には消えずに残った攻撃を私は受けた。
しかし私は1メートルほど後ろに後ずさりしてほんのちょっとのダメージを受けるに留まった。
どうやらただのアイスボールでもかなり相殺できるくらいの威力だったみたい。
「ラフィアちゃん、あの小さな竜巻にはアイスボールをぶつけるんだ。そうすれば威力が下がる」
「え、あ……はい!」
そしてその小さな竜巻から必死に逃げ回っていた李ちゃん、あの子は結構素早いな。
小さな竜巻は発生してからおよそ30秒ほどで小さくなっていき消えた。
「ぜー、はー。はぁ、はぁ、逃げ切れた」
「まあ、そういう方法ももちろんあるっていうか、普通はそうやって回避するんだよな」
そしてようやく小さな竜巻が終わったと思ったのも束の間、そこでマロンちゃんが叫んだ。
「皆、また来るよ!」
「えええ!、嘘またぁ!?」
ヤタガラス、再びの小竜巻×3攻撃。だけど今度は私はまず李ちゃん狙いの竜巻にアイスボールを打ちこんだ。そして自分は少し逃げてからアイスボール。
金色の光の効果もあってか敏捷があがった私の足では李ちゃんのように普通に30秒間逃げ切ることも出来たのだろうけどね。アイスボールで自分のも小さくさせてもらった。
「おわぁ、サンキュー。お姉さん!」
李ちゃんも小さくなった竜巻をくらったけど感謝された。
え、ラフィアちゃん?……もちろん私の言ったように自分でアイスボールだして防いだよ。
「ライトボール!」
「ライトボール!、ライトアロー!」
「せりゃぁぁ!」
そして私とラフィアちゃんの光魔法と李ちゃんの槍投げ攻撃がヤタガラスに命中しヤタガラスのHPケージの1本目は削り取られた。
ちなみに李ちゃんの投げ槍攻撃、槍自体はモンスターに刺さっても手元に戻ってくるというか再生されるそうだけど再使用可能までの時間がそれなりに長いんだって。
まあその分威力は申し分ないそうだけど。
「よし、地上に降りてきた」
「行けるよ。このまま押し切ろう!」
「そうです、倒せます!」
再び地上に降りてきたヤタガラスに向かって士気は上々のメンバー。
ただその中で1人、ローズだけがうかない顔をしていた。
「ローズ、どうかしたの?」
「これは……まずいですね」
「え?、でも皆の体力はまだ十分あるしこのまま行けるんじゃ……」
「いえ、そうではないのです。問題は……」
私がそこでローズがヤタガラスではなくもっと別の場所を見ているということに気づいた。
どちらかというと上、いや遠くの空の方を……
「あ…………日没?」
私は完全に忘れていた。たしかに直前ではあったがさっき説明された。
このクエストには時間指定と時間制限があってそれは日の出から日没まで。
そしてもしもクエストを受けている最中に日が暮れてしまった場合は。
「クエスト、失敗?」
「…………」
私が他のメンバーには聞こえないような小さな声でローズにそう尋ねると、彼女ははちきれんばかりの悔しさがにじみ出ているその顔で唇を噛みながらゆっくりと首肯した。
まだ、日は出ている。しかし遠くに見える地平線にかかるかどうかというところまで落ちてきていたのもまた事実だった。
これで日が完全に落ちる前にヤタガラスの残りの体力を削りきれるかというと微妙なところだった。
HPが減ったことでまた新しい攻撃をしかけてくる可能性もあるし何より皆の疲労もここにきてピークだと私は思った。
「でも、最後までやれることはやりましょう。せっかくここまで来たのだし、それに……」
ローズはそこで他の3人の方を見て最後に何かを言いかけたようだった。
しかし言葉を飲み込むようにして首を振ると声を張り上げてこう言った。
「皆、気を抜かないで。新しい攻撃がくるかもしれません。でも、ここまま押し切れます。私たちなら勝てる!」
「おお!」「うん!」「はい!」
そう言うと先ほどの悔し顔など嘘だったようにまた気丈に振舞うと私の顔を見てうなずいた。
私もローズの目を見てその決意をくみ取ると頷きかえし、ローズから離れてまた剣を構える。
さすがだと思った。きっと良いリーダーっていうのはああいう人間のことを指すのだろうと。
「私はとうてい出来そうにないよ。リーダー」
私はその時初めて、ローズのことをしっかりリーダーと認めたうえでそう言った。
やっぱり彼女にはかなわないとも思った。実力的な面でも、そして人としての在り方も。
まあ、私は人間じゃなくて神様なんだけどね。
<神様の辞典>
〇ヘファイストス
下界ではギリシャ神話に登場する「鍛冶」を司る神。
神界ではもっとも腕のいい鍛冶師として活躍しているが、職人気質で滅多に仕事をしない。
ただ気が向いた時に作った彼の武器や防具は間違いなく最高の品であり芸術的な価値もすごい。
最近は奥さんに浮気されたことで落ち込んでおりその後に復活した彼が作った作品が後に神界を揺るがすほどの大きなニュースとなることは彼はまだ知らない。
〇カグツチ
下界では日本神話に登場する「炎」を司る神。
神界では焼き肉屋の店長をしていて彼の店にある焼き肉用の鉄板はすべて自作。
そのうえ値段も安いと評判でありよく大学生たちがサークルの打ち上げで利用したりしている。
本人も人情派であり義理堅く涙もろい。ただ女性には弱くとくに年上の女性は苦手。
アストレアも1度だけ家族で訪れて彼の店の焼き肉を食べたことがあったが、そのあまりのおいしさにその時の記憶がほとんどないらしい。
いつかまた行ってみたいなと思いつつも財布の中身を開けてみてはため息をついている。
〇ヘルメス
下界ではギリシア神話に登場する「商人」を司る神。
神界ではリサイクルショップのオーナーをしている。
また慈善事業家としても一面もあって稼いだお金のほとんどを様々なところへ寄付している。
そのため勘違いされやすいが本人曰く質素な生活が好きだからとのこと。
しかし彼の経営しているリサイクルショップは年々その店舗数を増やしていき昨年ついに神界一の店舗数を持つリサイクルショップになったのだがその時の彼はこう言った。
「僕は質素な生活が好きなんですけど、なんでかやること全部成功しちゃって。お金が不思議とたまっていくんですよねぇ」
この発言は神界中にテレビで生中継されていたために後に色々と言われることになったのだが、アストレアはそういった話には関心がなかったためそのニュースを聞いた時もただただこう思った。
「なら、ちょっとくらい私にもわけてくれよ」
最近ではなぜかあまりテレビでは見かけなくなったのだが、果たしてヘルメスはどうなってしまったのか。もちろん彼の稼いだお金も。
 




