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will ~時代(とき)を継ぎし者~  作者: 銀田一P介
黒い陰謀
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エイダ島

 エイダ島。


 この島は赤道より南方に位置し、面積が約50k㎡の小さな島である。


 気候は、熱帯気候であるが、東から吹く特有の貿易風によって気温は1年を通して安定している。


 また、1月から3月までが雨季となり、その間以外に雨か降ることはほとんどないが、島全体は美しい緑に覆われ希少な動植物が多数生息している。


 この島は、以前デネシィー島と呼ばれており、世界戦争における一連の戦いの中で最も悲惨とされる“オペレーション・スコーチドテラ・ディフェンス”の舞台となった島である。


 この戦いでは、敵味方合わせて約3万の死者が出ており、最強のヴァルキュリアスとして人々から絶大の人気があったエイダ・ハートもこの地で命を落としてしまう。


 エイダの死は、世界各国で世界平和を求める運動を一気に活発化させ、ついにはデネシィー島の戦いから5カ月後に終戦協定の調印がなされる。


 こうして多くの国を巻き込んで始まった世界戦争は、開戦から約4年2ヶ月後に大きな傷跡を残して終結する。


 後に、世界戦争の反省と“恒久の世界平和“を実現するための国際機関として、アーリア連邦国等の戦勝国を中心とした“世界連合”が立ち上げられることになる。


 この島の領有権は、植民地としてこれまでアーリア連邦国が有していた。


 もっとも、世界戦争終結後の世界連合による“平和の再編”が行われた際に、ブレメイア国が島の領有権を強く主張し、世界連合の常任委員会は、その主張の正当性を全会一致で認め、この島は以後ブレメイア国の管轄下に置かれることになる。


 ブレメイア国は、エイダの生前の活躍やデネシィー島の戦いにおける功績を讃え、島の名称をデネシィー島からエイダ島と改名し、その後、エイダの家族やエイダを慕う者たちが島に移り住むようになり、それら移住者によって島は一つの独立したコミュニティを作るようになった。


 そのため、ブレメイア国はエイダの命日を“始まりの日”と名づけて島民の祝日とし、以後その日はエイダを弔う行事が行われるようになる。


 この島がブレメイア国の管轄下に置かれてから40年ほど経つが、犯罪などの事件はほとんど起こっておらず、島民は日々の生活を穏やかに過ごしていた。


 ただ、この島を訪れる者はほとんどおらず、せいぜい物資を運ぶ定期の業者とブレメイア国の政府関係者くらいに限られている。


 その島を、木のパイプたばこをふかし、時より目を細めながらベン・ドルントンが歩いている。


 デネシィー島の戦いに参戦し、エイダの奇跡を目の当たりにしたベンにとっては、どんなに年を重ねても消えない特別な想いがこの島にあるのだろう。


 どこまでも広がる緑色の麦畑の中を一人歩くベンの後ろ姿からは、歴戦の勇者としての風格がいまだ漂っていたが、何処か寂しくも見えた。


 島を流れる風は、今日も変わらず穏やかである。

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