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8、Magical‐C‐Quadruple‐I system

 遣エジリスタン第七十八義勇独立大隊の司令部は首都エドゥーラ郊外に置かれていた。元はエジリスタン空軍の通信施設だったものを借り受けて使用している。

 施設自体は第二次世界大戦当時のイギリス軍が使用していた旧式の対空レーダーと通信設備があるのみだ。それを用いる人間の居住性については更に一段劣る設備しかない。

 遥か極東より訪れた物好きな日本人たちは、この狭く劣悪な施設に関してはさほど文句は言わなかった。 彼らの原隊における兵営生活もさほど贅沢なのではなかった。

 だが、さすがに使用する商売道具は間借りする大家の用意したものではなく自分たちが遠路はるばる持ち込んだ機材を使うことにしていた。

 同行した工兵たちが短時間で作り上げた仮ごしらえのシェルターの中に、様々な通信電子機器を持ち込み、そこを指揮の拠点とした。

 小丘に設けられたこれだけの設備でエジリスタン防衛の為の指揮を為そうとしたのだ。

 理由はある。日本、エジリスタンとも今回の防衛戦の範囲を、実質的に首都エドゥーラ周辺に限定したからだ。

 多国籍軍との戦力差があまりにありすぎて、エジリスタン全土を守ることは不可能だったし、首都エドゥーラと、海岸に面した石油プラント群さえ死守できれば、残る砂漠地帯に欧米軍の旗を立てられても国家としての存続は可能だからだ。

 まして日本人たちは大隊規模でしかない兵を更に幾つかに分けて分屯させていた為に、現在この基地を使用しているのは大隊本部とそれに付随する通信兵たち、それに警備の一個歩兵中隊に過ぎなかった。

 そして実質的にこの部隊の指揮統制を行うのは、大隊長ではない。

 大隊付として大本営より直々に配属された小隊規模の通信部隊である。その為、基地としての大きさは問題ではなかったのだ。

 第八十二通信隊なる凡庸極まる部隊名の他に、『栄』部隊という秘匿名称を与えられたわずか十名そこそこの日本人兵士たち。彼らこそがこの砂漠の異国に派遣された哀れな同胞たちの生存の鍵であり、同時に国家存亡の危機に瀕したエジリスタンにとって、残された最後の希望だった。

 その『栄』部隊の占拠したシェルターでは、今まさに彼らがその職務を果たすべく蠢いていた。


「各自状況報せ」

 年嵩の准尉の問いかけに、配属されたオペレーターたちが応答する。

「高射砲兵三個中隊との同期完了」

「エジリスタン防空司令部との通信回路接続中、8割の兵装並びに六割の兵員の思念(・・)を掌握しました」

「残存部隊は8割程度が所定の位置についております」

「敵機多数、南西及び北北西より飛来中」

「巡航ミサイル群、北進中!第3中隊より迎撃許可が求められております」

 報告を受けながら室内に設置された巨大モニターの映像を目で追っていた准尉は、最後に部屋の最奥部を見やった。

 そこにはまるで戦闘機やレーシングカーのコックピットさながらの巨大な筐体が2基並列され、その内部に二人の少女が腰をかけて座っていた。

 彼女たちの姿は様々な観測機器や電子機器で埋もれている所為で、まるで機械に侵食されているようにも見える。

 その彼女たちに代わり、傍らに立つ伍長の階級章をつけた女性兵士が踵を合わせて報告する。

「財前、水野とも問題ありません。いけます」

「よろしい、――――〝アイギス〟、準備よろし!」

 〝アイギス〟とは――日本軍が独自に開発した指揮管制機構、いわゆるC4Iシステムの通称である。その名称はアメリカ海軍が開発した同種の防空武器管制システムである〝イージス〟システムへの対抗意識と幾分かの皮肉を込めて、あえてギリシア語読みで同じ名称を与えられていた。

 なお、それを運用する第82通信隊の秘匿呼称である『栄』部隊もまたエイジスからとられており(日本軍内部では未だにこのギリシャ由来の言葉について、アイジス、エイジスなどの表記ぶれがある)、またNATO軍による彼らへのコードネームはそのまま、「イージス」と呼ばれている。

 准尉は部屋の中央で軍刀を杖代わりに立つ野戦服姿の将校に報告した。鋭利さが目立つ顔立ちの中佐は頷き、告げる。

「戦闘開始」

「〝アイギス〟、発動します!」

 筐体内の少女たちが、痙攣したように体を震わせた。日本の誇るMC4I指揮統制システムに火が灯った瞬間である。

 皇国の誇る最強の盾が異邦の地に掲げられた。


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