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7、Dデイ

 勿論、乃木たちの小隊が暇を持て余してたからといって、彼らを取り巻く戦況が同じであるという訳では当然ありえなかった。

 9月10日。この石油以外は全く不毛の砂漠の国に乃木たち不運な日本兵たちを置き去りにした輸送船団が、その見返りに腹いっぱいの石油を積め込み、沖合いで待つ護衛の第一機動艦隊と共に東に向けて遁走を開始したその日――入れ替わるようにして星条旗を掲げた艨艟群がエジリスタンの沖合いを埋め尽くす。

 更に翌9月11日、日付が変わったその瞬間に巨大な原子力空母を含むその艦隊は一斉に深夜のアラビア海に多数の艦載機を発艦させ、巡航ミサイルを発射した。

 いや、彼女たち米空母戦闘群だけではない。

 周辺国の航空基地に展開された米英を中心とする多国籍軍の航空部隊が、四方よりエジリスタン・イスラム共和国に向けて国境線を越えていた。

 同日同時刻。米国大統領は、大規模破壊兵器を有するテロ支援国家エジリスタンへの武力制裁を発動した事を全世界に向けて表明した。

 圧倒的な航空戦力により連日行なわれた空爆により、エジリスタンの指揮通信、防空機能はほぼ全土において、さしたる抵抗も見せないまま僅か三日で壊滅状態に陥った。

 制空権の確保を確信した多国籍軍(国連安保理委員会において、中露は国連軍による武力制裁決議に反対の立場を表明していた)は作戦の第二段階――地上部隊による進攻に移行した。

 首都エドゥーラに向けて陸海で進撃を開始した多国籍軍を止める障害などもはや何もない。誰もがそう信じていた。

 だが、開戦から一週間を経て、機甲部隊の前衛が首都まであと100キロの位置に達した時点で、彼ら多国籍軍の前進は停止していた。

 エジリスタン国土の9割をほぼ無傷で制圧していた米英空軍航空部隊が、残りの1割――よりにもよって首都エドゥーラ周辺の制空権を未だ確保しきれずにいたからだ。

 エドゥーラには、いかな多国籍軍といえどもエアカバー無しで力攻めするのは躊躇させるに充分な数のエジリスタン部隊が首都決戦に備えて配備されているとの情報が既に報告されていた。

 無論、多国籍軍の航空戦力が遊んでいた訳ではない。エドゥーラには連日、多数の戦闘機や巡航ミサイルが飛来し、首都の内外にある多くの軍事目標にダメージを与え続けていた。

 だが未だ彼らの努力に見合うだけの戦果は得られず、逆に反撃により彼らは多数の撃墜機を出していた。

 その損害の多さは多国籍軍部隊総司令部に、現状での航空攻撃の継続に二の足を踏ませるに充分なものだった。

 ましてそれが、ろくな空軍戦力を持ち合わせず、所有する対空ミサイルやレーダーもその多くが旧ソ連製の時代遅れの旧式装備しか持ち合わせていない筈のエジリスタン軍防空部隊との交戦によってもたらされた被害である事を考えれば、異常な事態といえた。

 殊に米空軍関係者の心胆を寒からしめたのは、半ばデモンストレーションと実戦テストの意味合いを兼ねて投入された最新鋭のステルス戦闘機までが、迎撃に合い、撃墜される事案まで起きていた事だ。

 多国籍軍司令部はすぐに対策を講じなければならなかった。

 敵国の首都において彼らが相手にしているのは、砂漠の弱小国家の二流軍隊ではなく、連中が石油と金で雇い入れた日本帝国軍兵士である事を確信したからだった。

 結果的に多国籍軍の推測は正しかった。

 エジリスタンの首都防空の主力を為したのは日本から派遣された義勇兵第七十八独立大隊である。なかんずくその中枢を担ったのは、兵力規模でいえばたかだか一個小隊に過ぎない指揮管制部隊である。

 NATO軍により〝イージス〟のコードネームをつけられ、日本人たち自らは『(えい)』部隊の秘匿名称で呼ぶその部隊は現状において日本人たちしか保有しえていない独自のMC4I指揮通信システムにより、エドゥーラ周辺に展開中の全ての兵器を管制し、対空ミサイルからAK-47の7.62ミリ弾まで、彼らが保有するありとあらゆる火力を飛来する多国籍軍機に片っ端から叩きつけ続けていたのだった。


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