29、襲来
立て続けに幾つもの火柱が上がり、振動で基地が揺れた。
爆発の瞬間、反射的にその場に伏せたのは乃木を含めた小隊の古参兵たちだけだった。
乃木は顔を上げ、鉄帽越しに周囲を見回す。せっかちな工兵隊がフライングで爆破を実施した訳ではなさそうだった。ローターの轟音と共に、鋭角な形状をした攻撃ヘリが数機こちらに迫っている。
その機首下に備えられたチェーンガンから赤い火線が撒き散らされる。
「退避!物陰に隠れろ!小隊長殿も早く移動してください!」
乃木は叫びながら手近な建物の陰に走る。途中、空を見上げて呆然と立ち竦む『栄』部隊の三人の兵士に気づき、進路を変えた。
「松本軍曹!2時方向の窪みだ!急げ!」
殆んどタックルするような勢いで鈴音の腰を抱えて持ち上げながら、志摩の手を引く。さすがに残る松本軍曹の面倒を見る余裕はなかった。そのまま、先の爆撃で穿たれた窪地に飛び込む。
一息つき、真っ赤になっている鈴音を降ろすと背後を振り返る。続行していた町屋が転がり込んできた。
「クソッ!見張りは何をやっていた!」
腹立たしげに町屋が毒づく。
もっとも、対空監視の兵たちを責めるのは酷であろう。既にレーダーや通信施設が破壊された為に、空襲警報も含めたろくな防空態勢がとれなくなっている。
地表スレスレを高速で迫る敵機や巡航弾を兵たちの目視だけで捉えるのは至難の業だった。
「分隊長!現在地を報せ!」
乃木の声に、それぞれ思い思いの場所に逃げ込んだ伍長たちが自分の部下を掌握して声を張り上げてくる。欠員はなかった。
ふと、視線を感じて乃木は振り返る。憮然とした顔の志摩がこちらを睨んでいた。
「あの、軍曹殿。手が痛いので離していただけませんか?」
「あぁ失礼。君たちも怪我はないな?」
そういえば掴んだままだった彼女の手を解放した。女性兵士二人はそれぞれ何か言いたそうだったが、乃木は無視して空を見やった。AH-64アパッチが4機、基地上空を乱舞しながら目についた施設を片っ端から攻撃している。
更にその後方に目を転じて乃木は呻く。同じものを見つけたらしい町屋が小さく舌打ちをした。
「チヌークか」
特徴的なタンデムローターを有する米軍の大型輸送ヘリCH-47が3機、それに多目的ヘリUH-60が1機続行している。共に兵員輸送に使用されるヘリである。
『ヤマセ一〇、こちら〇一送れ!』
通信兵の背負った無線が中隊長の声を発した。ヤマセは彼ら中隊の符丁であり、〇一は中隊長、一〇は第一小隊をそれぞれ意味する。
町屋は急ぎ応じる。
『〇一、こちら一一送れ!』
『そちらからも見えているか?アメ公のヘリだ。ここに降りてくるぞ』
中隊長の声はヘリのローター音で掻き消されがちになっていた。
地上から誰かが対空射撃を始め、それに気づいたアパッチが機首を翻してそちらを攻撃する。
米軍の狙いは明白だった。アパッチの火力支援下で兵士をこの通信施設に下ろし、制圧するつもりなのだった。
制空権を手にした状況下において爆撃や砲撃で叩かず歩兵を投入した理由はただ一つ、占領だ。おそらくは鈴音たち〝撫子〟を含めた『栄』部隊をあわよくば確保しようとしているのだろう。
『一〇、そっちにまだお客さんはいるな?そっちで守れ!〇〇は中隊主力を率いて応戦にあたる』
中隊長は『栄』部隊の護衛を命じてきた。
「了解。御武運を」
町屋は応え、無線を戻した。
部下たちに防御態勢をとるよう命じようとして、乃木の動きに気づく。乃木は担っていた銃を肩から降ろして両手に構え直していた。戦闘行動をとる気なのだ。
「軍曹?どうした?」
「もう一人、撫子が仮設天幕にいます」
言われて町屋は思い出す。先の崩落した指揮通信所から撫子の一人が運び出されて仮設の救護所で治療を受けていた。野戦病院の設置された大隊本部の基地も爆撃で叩かれていた為、後送もできずに留まっているのだ。
町屋は空を見上げた。輸送ヘリはかなり近づいている。アパッチの制圧射撃も激しさを増している。
「自分が回収に向かいます。三人ほどお借ります。既に分隊長たちにはめぼしい防御地点の腹案は指示しておりますので、小隊長殿さえよろしければご採用ください」
鉄帽を被り直し、乃木は告げる。
呼び止めようとして、町屋は思い留まる。
こちらには、もう一人の撫子を含めた『栄』部隊の兵士たちもいる。いつ敵が降下してくるかもわからない状況下で、近接戦闘に不慣れな彼らを引き連れて歩き回る訳にはいかなかった。
この場で防御態勢を整えて迎撃にあたる他はなかった。




