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断罪されなかった私の周りの居心地の悪い人々  作者: フィノ


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断罪されなかった私の周りの居心地の悪い人々 下

 国は栄えリビュー王子は国王となり、名君として称えられた。ただ、後年になって見つかった手記には常に苦悩と葛藤が綴られている。王妃アイリーンに対しての、だ。


 自身が若さ故に過ちを犯し、それに対して一言も言及されず、ただ静かに見つめる目が自身を律することに繋がったと同時に、どこまでも息が抜けず自身の正しさとは何か?国を預かる者としてなにをしなければならないのか?


 自身の発言や行動は正しいのか?それの自問自答が常に付きまとっていたと書かれている。そのなかでもたった一行だけ


『私はアイリーンを愛していたのかわからない。だが、幼き日に石像や水車だと思った妻は、正しくそれだった。』


 そう記されている。解釈の余地は多い。そもそもアイリーン王妃についての記述そのものが少ないのだ。愛憎劇の勝者、不動にして圧力、聡明であり機微に疎い等々。人柄と言うものが読めない。


 また、野盗討伐で名を残したザイールと言う騎士がいる。第一騎士団長の息子で、晩年まで槍をその手に握り名手と謳われた。ただ、その手にある槍を見る瞳は、どこか怯えとも後悔とも取れる色を浮かべていたという。そんな騎士ザイールの槍には本人が彫り込んだと思われる言葉がある。


『何1つ残らなかった。残してはいけなかった。だから私は未だに騎士モドキなのだ。』


 リビュー陛下と同じ学び屋で学び、王妃とともに若き日を過ごした騎士ザイール。ただ公式の場に彼が姿を現すことは少なく、殊更に王妃との同席はなかったと言う。


 王妃に恋慕があった、故に同席を控え心の内を隠したのでは?そう考える事が普通なのだろう。しかし、それは違うのだろう。騎士と呼ばれたザイール。しかし、その腰には常に剣はなく、邸宅にあった本人の剣は半ばから折られたものが飾られていたという。


 この国から飛び地のように離れたところに、クレセント鉱山だった場所がある。既に出土する鉱石は枯れ、今ではクレセント山脈に登るための登山の街として、ほそぼそと登山家たちのあいだで名が上がる。


 そんな街の酒場にリューシャ酒場と言う酒場がある。字にするとこうだ。luchar・bar。元の名は別だったらしいがある時から、厳しい女主人が切り盛りするようになっり、こう呼ばるようになった。


 闘う酒場・・・、最全盛期には文字通り鉱夫たちの飛び交う怒号と喧嘩、そして笑い声で朝まで続き、灯りが落ちることはなく、そのままこの酒場から鉱山へ向かったと言う。


 壁にかけられた女主人の肖像は、やはり厳しい顔に鋭く睨みつける目、組まれた腕は太く樽ジョッキを1人で20運んだと言う逸話もある。ただ、その厳しい女主人の顔にはどこか気品も感じられるから不思議だ。


『これが私の城だ。私だけの城で私が法で主だ。誰であろうと対等に振る舞え。』


 肖像の下の鉄製のプレートにはそう刻まれている。荒くれ者たちを諫め、店を切り盛りするなら、主人は法。それも女なら殊更絶対性を出さなければ舐められる。


 ただ、この女主人に子はいない。最後の最後まで店に立ち、酒場の女王として鉱夫や店員を睨みつけ、叱り飛ばし枯れた声を上げながら時折笑う。その姿を荒くれ者の鉱夫でさえ時折恐れ、遠ざかったと言う。


 そうだ。アイリーン王妃の逸話で面白い話があった。国政ではなく食事だ。王族の食事・・・、誰でもこう考えるだろう。卓上一杯の技巧を凝らした豪華な料理に、見たこともない宝石の様なフルーツに美酒。


 事実として晩餐会等ではそのような料理が振る舞われ、来賓した国を唸らせたとも聞く。だだ、そんな話ではなく普段の食事だ。王妃は少食だったと伝えられ、少量食べれば下げさせたという。ただ、そんな中でボリッジだけは毎回食卓に上げ、完食したそうだ。


 庶民が食べ貴族や王族の口に入るとも思えない麦粥。それを王妃自ら淡々と、ただそれだけは完食する。一説にはこれは静かな軍備だったのでは?と言われている。


 アイリーン王妃の学園生活には謎も多いだが、その学園生活で何かあった、それが愛憎劇だったというのはわかるのだが、内容は伝えられていない。伝えられていないが、それが圧力にでもなったのだろう。


『貴族はボリッジを食べる。』


 その習慣が定着し、豪華にすることも許されず。ドロドロとした麦粥を毎食出されては食べる。舌のこえた貴族にこれは堪える。たが、それを王妃が実行しているのだから誰も文句を言えない。


 行く年も、行く年も、今に至るまで毎年の行事として。ただ、ひっそりと語られる合言葉は、貴族はボリッジを食べるではなく、王族もクソマズいボリッジを食べていた、だ。


________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 国は回りました。子は産みました。リビューは先に旅立ち、私は早々に退き・・・。も、できませんでしたね。リビュー亡き後は特に政に口を挟むことはありませんでしたが、それでも皆が私の方を見る。


 別に好きにしていいのですよ?既にリビューの死後に私が国を動かすのは、新たなる王が自分で国を切り盛りすると宣言するまでとし、その宣言もされたのですから。


 それに、既に足腰も弱りあまり体も動かない・・・。できることをやろうにも、既に歳を取りすぎてしまいましたか・・・。まぁ、やるべきことはやったので、思い残すことも・・・。


「そこの侍女。」


「どうされましたアイリーン様。」


「ブランデーをグラス一杯持ってきてください。」


「かしこまりました。」


 運ばれてきたのはグラス一杯のブランデー。唇を濡らす、寒さをしのぐ、船乗りはラム酒を水の代わりにするとも聞きますが、私はこの香りがいい。


 時を重ね、香りをまとい、老いさらばえたからこそ、花咲くもの・・・。受け売りなので本当かは分かりません。ですが、若日にこれを飲みたいと思っていましたね。


 スッと口に入れ、熱が喉を通り越し胃が温まる。なるほど、これが時の味ですか。過去を思い出し、懐かしくも思いますね・・・。



________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 毎朝同じ時刻に起きてくる母が起きない。その知らせを受けて私が母であるアイリーンの部屋に入ると、普段の通りの顔で何の崩れもなく本当に穏やかに眠るようにして旅立っていた。


「アイリーン前女王は死んだ。」


「国王陛下、それは誠ですか。」


「あぁ、母であるアイリーンは死んでしまった。」


「国葬をなさいますか?」


「いや、質素でいい。母は豪華は嫌わないが、無意味な出費は嫌う。ただ・・・、全国民にボリッジを振る舞え。物乞いも、行商人も、たまたまここに来ただけの者にも。」


「なるほど、これを王妃が愛していたと添えても?」


「あぁ、そうしてくれリッチモンド。後はわかるな?」


「仰せのままに。これを食べるたび、私はアイリーン様を思い出すのでしょう・・・。」


 その日、王城から立ち登る湯気は白パンを焼く麦の香りでもなく、肉を焼く食欲をそそる香りでもなく、何なら酒精が逃げ出すほどのミルクの香りとチキンスープの香り。何事かと街人達が王城をみていると、扉が開き城の前に鍋が置かれる。


「さぁ!そこをゆく貴族!足を止めろ。王命である!これは王命である!国民にボリッジを生き渡らせろ!貴族の食べるボリッジがどんなに不味く、それていてもこれを食うと知らせて回れ!」





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