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第1話 破滅フラグ回収済み

「えーとこの状況は……はぁ、何てことかしら」


 優雅に屋敷のテラスでお茶をしていて私は突如として前世の記憶に目覚めた。

 そしてまず異世界転生って本当にあるのだなぁと感心した。

 

 よくあるのは乙女ゲームの悪役令嬢とかになるパターンだ。

 というわけで今世での記憶を探ってみる。


 私の名は…………ロスメルタ・ベリンダ。

 ナダ共和国の旧ブロダイウェズ領を収めていたブロダイウェズ家の長女としてこの世に生を受けた。


 この世界は家名の後に名が来る日本式の命名だ。

 なるほど、そういうのもあるものかと感心。


 さらに記憶を探る。

 どうやら私は分類するならやはり悪役令嬢という部類になるらしい。

 

 いや待て。

 悪役令嬢というのは乙女ゲーム内での役割を指すのだ。

 この世界が乙女ゲームかと言えばそうでは無い。

 単純に異世界の悪いご令嬢に転生してしまっただけ。

 まあ、それでもわかりやすいから悪役令嬢という事にしておこう。


 ガシャン!

 何かが割れる音がして見ると侍女が食器を落として割ってしまっていた。


「す、すいません奥様。すぐに片づけますので!」


 新人侍女ドロシーが血相を変えて破片を拾っている。


「お待ちなさいな、ドロシー」


 私は立ちあがるとドロシーに近づき屈みこむ。


「ひっ!あ、あの」


「素手で拾ってはダメ。手に怪我をしてしまうわ。箒とちり取りを持ってきなさい」


「あ、あの……」


 ドロシーは目の前で起きている光景が信じられないと言った様子で口をパクパクさせている。


「大丈夫。誰にだって失敗はあるものよ。重要なのは慌ててしまわない事。ほら、箒とちり取りを」


「は、はい!!」


 ドロシーが掃除道具を取りに走った。

 まあ、こんな感じで記憶が戻る前の私はかなりキツイ性格だったらしい。

 ある意味テンプレートだ。

 

 ただ、ひとつ大問題があった。

 それは私が今置かれている状況。


 通常、こういう場合だと破滅フラグを回避するために使用人に優しくしていき信頼を勝ち取ったりイジメていたヒロインに相当するキャラと親交を深めてみたりと色々あるのだが……

 まあ、ゲームの世界ではないが客観的に観て私は『破滅フラグを回収済』なのである。



 ブロダイウェズ家の令嬢だった時代、学生時代は生徒副会長。

 そして卒業後は政治家になる事を目標とし父と懇意である政治家先生の秘書をさせてもらっていた。

 ここまでは順風満帆な人生だったと思う。

 

 だがここら辺で綻びが出始めていた。

 まず元貴族の家系出身者にありがちな血統重視な思想を持っていた事が災いした。

 こういった人間はまだまだ多いのだが時代の流れとしては遅れた考えである。

 この思想に固執していればいずれ足元をすくわれる。現に私がそうだった。


 私には慕っている男性が居た。

 学生時代の先輩、モンティエロ家の嫡男であるユリウスという男性だ。

 彼に憧れ、生徒会に入った。

 

 ただ、彼は私を見ていなかった。

 彼には心に決めた女性がおり、彼はその人を生徒会会計に迎えそちらばかり見ていた。

 私は嫉妬心にかられたものだ。

 しかも元の私からしたら信じられない事に相手は血統こそは貴族だが平民と蔑んでいる家の生まれだった。


 前世の記憶が戻った今だから言えることだが、二人はお似合いだった。

 恋敵という事で嫌ってはいたがとても優しい先輩でもあった。

 客観的に見て、私が入り込む隙間など最初から無かった。

 それなのに彼に固執したのは血統重視の思想とつまらない自尊心に依るものだった。


 結局想いは叶わず先輩たちは卒業していき私は政治の道へ。

 そしてある日、私は二人と再会した。

 二人は相変わらず一緒に居たがまだ付き合ったりはしていなかった。

 

 正直悔しかった。

 彼は最初、私に気づきもしなかった。

 私の存在はその程度だったのかと情けなくなり、同時に八つ当たりともいえる黒い感情が女性の方に芽生えた。


 私は女性についてある情報を知っていた。

 彼女はかつては別の学校に通っておりそこから転校して来た。

 その理由はいじめに遭ったという事であったがたまたまそちらの学校で教鞭をとっている親戚が居てその人からある噂を聞いていた。


 彼女は上級生に乱暴されてそれが原因で不登校となり転校に至った、と。

 その情報を基に考えると確かに彼女は男性から触れられることを恐れている節があった。

 唯一、先輩だけは限定的ではあるが触れることが出来ていた。


 私も女性の端くれだ。

 彼女に対し行われた狼藉がどれ程の心に大きな傷を残したか。

 どれほど苦しみながら人生を送って来ただろうかと思うと胸が締め付けられた。


 それなのにその時の私はあろうことかその情報で彼女を脅迫したのだ。

 先輩にこの事をばらされたく無ければ彼と離れろ、と。

 

 最低最悪な言動だった。

 結果として私は破滅を迎える事となった。

 

 この事件を機に二人は思いを伝えあい交際を始めた。

 私はその悪行が親にばれ、職を失った。

 そして厄介払いとして遠縁のロスメルタ家に嫁がされたのだ。


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