第2話 破滅した悪役令嬢はやり直したい
私はドロシーと共に割れた食器を片付ける。
「お、奥様。こ、こういう仕事は私達が致しますので……」
その様子を見てメイド長が血相を変えて飛んできた。
まあ、無理も無いのだが慌てる彼女に私は笑顔を向ける。
「いいじゃない。あなた達には迷惑ばかりかけているもの。たまにはこうやって手伝わないと罰が当たってしまうわ」
「えぇっ!?お、奥様!?」
「いつもありがとうね、あなた達のおかげで穏やかな生活が送れているわ。ドロシーの事を叱らないであげて。まだ慣れていない様だけど熱心に働く娘だから」
メイド長は私の言葉に白目を剥いて気絶してしまっていた。
まあ、彼女がそうなる程に記憶が戻る前の私はわがままで自分勝手な人間だったもの。
ただ……気絶はやりすぎな気がする。
一度破滅してしまった身。
せめてこの新しい人生を悔いなく送る為に少しずつやり直していこう。
周囲から見た私の評価は最低ランクから始まっている。
ヤンキーが猫を拾うとすごく良い事をしている風に見られるのと同じ理屈で今、私がいい事をすると周りの見る目も変わりやすいだろう。
そして、やり直しと言えばもう一つある。
屋敷内のある部屋に向かう。
扉をノックすると中から声が聞こえて来た。
「誰だい?」
「私です」
「ああ、どうぞ」
私は扉をがちゃりと開けると中に入る。
部屋の奥に置かれたベッド、そこに『彼』は居た。
「フォルテ」
絞り出すような声で伴侶である彼の名を呟く。
「……お加減はいかかですか?」
近づき体調を訪ねる。
彼は私の言葉を聞き呆気に取られていた。
無理もない。
私は病弱なこの夫を蔑ろにして好き放題していた。
旧ロスメルタ領は痩せた貧しい土地であった。
出来る贅沢などたかが知れている。
その中で政治家になる道が閉ざされた私は腐って出来る限りのわがままをした。
夫がその行為を咎めるだけの元気もないのを良いことに。
「君からそんな言葉が貰えるとは……今日は少し調子がいいよ」
彼は微笑んだ。
素朴な人だった。
派手さなどからは縁遠く、使用人たちを思いやる心の優しい男性だ。
無理やり押し付けられる形で私を妻に迎えたが大切にしてくれていた。
それなのに私と来たら……
ベッド傍に椅子を置き腰を下ろした。
彼の手を握りながら後悔が押し寄せて来た。
前世では付き合った男性からDVを受けていた。
大好きだった仕事も止め、シェルターに避難していたが結局見つかって暴力を受けた末、あっさりと命を落としてしまった。
いったい私の人生は何だったのだろう?
そんな想いと共に私は転生した。
フォルテは前世での元カレとは根本から違う。私が理想とする男性だ。
もし前世で彼のような人に会えていたら……
それなのに私は彼を蔑ろにしていた。
医者からはそれほど長くはないかもしれないと言われていた。
この世界の医療技術は思ったよりは高かったがそれでも元居た世界には遠く及ばない。
もし前世の世界で医者に見せることが出来れば……
私はすでに一度破滅している。
だけどせめて破滅した先で出会ったこの男性と新しい人生を送っていきたい。
□
私は寝食も忘れ何か手立てが無いか調べた。
中央の医者に診せる?
いや、だとしてもかなりの高額になるし治るとは限らない。
何か、何かあるはずだ……
「奥様、無理をなさらないでください」
私は調べ物をしている手を止めお茶を運んできてくれたドロシーに礼を言った。
「ありがとう。でも、私は諦めたくないのよ」
「何だか以前の奥様とはまるで別人ですね」
「そうね。自分の行いを反省し生まれ変わったということよ。ねぇドロシー。人は道を間違えたとしてもそこで終わりじゃない。誰かを思いやる気持ちがあればやり直せると私は思うの」
「…………でも、戻らないものもあります。進み方がわからない人間もいるんです」
「そうね。戻らないものもある。だけど、諦めなければまだ取り戻せるものだってあるはずよ」
「………」
私は調べ物を再開した。
□□
様々な文献を調べ私はあるものを見つけた。
深山で採取されるという『コンロン草』。
様々な病気に対し高い効能を持つというこの薬草さえあれば……
それから間もなくして私は懐かしき生まれ故郷、首都ノウムベリアーノにこっそりと戻っていた。
そしてとある建物の扉を叩く。
私の姿を見てそこにいた人々が敵意の視線を向けて来た。
突き刺さるような視線の中、代表者の前まで行きその名を呼んだ。
「お久しぶりです。リリアーナ先輩」
「ベリンダ……」
彼女に最低最悪な仕打ちをしたことで私は破滅した。
そして今、私は彼女を頼りにここへとやってきた。
「助けてください、先輩」
□□□
◇????視点◇
とある森の中。
黒装束に鳥のような仮面をつけた者の周囲に数名の盗賊たちが集っていた。
「では、お前達。頼んだぞ。報酬は弾む」
黒装束に命じられた盗賊たちが散っていく。
「ロスメルタは滅ぶべきなのだ。今更逆転の目など、許されない」




