最終話「これから」
王宮には、城下町を一望できる展望台がある屋上庭園がある。
私たちはリンから言われたことを国王様、王妃様にお伝えし、その庭園で魔法展開することにした。
ぐにぐにと動くお腹に手をあてて、いっしょに頑張りましょうね、と声をかける。
「リーア」
「はい」
私は差し出された手に自分の手を乗せる。
じわり、と温かいものが手から体全体に広がっていく。これがジェイク様の魔力であることはすぐ分かった。
お父さんを感じられて嬉しいのか、お腹の子たちが元気よくお腹を蹴りあげるものだから、思わず「ぐふっ」と声が出て、ジェイク様が焦ったようにこちらを見た。
「大丈夫ですわ。この子たちが、喜んでいるだけです。ちょっと内臓蹴り上げられてびっくりしてしまいましたが」
「そ、そうか」
ほっと息を吐いて、ジェイク様が笑った。
この2年の間に、私は2人きりの時はだいぶ砕けた喋り方になったし、ジェイク様は更に魅力的になった。表情がとても豊かで柔らかくなった。幸せなことだ、と思う。
体にジェイク様の魔力が馴染んできたのを確認し、私はゆっくりとジェイク様に自分の魔力を返す。
ジェイク様はそっと目を閉じて、私と繋いでいないほうの手を空に掲げる。
美しい紫色の球体が浮かび上がる。
「心地好いな」
「同じことを考えていました」
お互いの魔力が混ざり合う感覚は、ハグをしているときのような、そんな温かさがあった。
「じゃあ、拡げるぞ」
「はい」
どんどん大きくなる球体は、やがてゆっくりと高く高く空へ浮かび、そして、シャボン玉がはじめるようにパチン、と割れた。その瞬間、オーロラのような膜が空に広がる。私は想像した。その膜が、この国を包み込むように。この国を守るように。
どれくらいの時間が経ったのか、私からもジェイク様からもじわりと汗が流れて、そして、ふっと糸が切れたようなそんな感覚が走った。
「…終わった、のか?」
「…ど、どうでしょう」
私たちが目をぱちくりしていると、庭園の中央にあるベンチに座っていたリンが「成功なの」と言った。
リンが笑っているは、はじめて見たな。
「リーア、体は大丈夫か?」
「ええ。とても、疲れましたけれど。ジェイク様こそ」
「俺はもともと鍛えているから」
にこっと笑うジェイク様。見慣れてきたとはいえ、やはり私の旦那様は絶世の美青年である。
「ん?」
「どうした?」
「なんだか、お腹が、ちくっと…」
「!!」
ジェイク様が慌てて従者たちを呼び、私は部屋へを返される。
結果として、それは陣痛の始まりだったのだけど、本格的な痛みが来るまで、私は、先ほどの祝福のベールを無事に張れた余韻に浸っていた。
***
「リーア、リーア!!」
「ジェイク、様…」
おぎゃあ、おぎゃあ、と泣き声が二つ重なる。
助産師が、丁寧に体を拭いてから、私の胸の上に2人の小さな命を、のせてくれた。
「うわあ、ちっちゃい…あったかい…」
正直、産んでいる最中のことはほぼ覚えていない。
なにが痛いのか、どこが痛いのかよくわからないような状況で、ただ、助産師の声に従っていただけだ。
ジェイク様はずっと私の手を握っていてくれた。
胸の上にいる2人の子どもたちは、ふえふえと言いながらもぞもぞ手足を動かしている。
愛しくて、たまらない。
私の、私たちの子ども。
ジェイク様、信じてくれて、ありがとうございます。
「ふふ…、無事に、生まれ、ましたよ…?泣かないでください、ませ」
「ああ、ああ…っ、ありがとうリーア、この子たちを産んでくれて、貴女も、無事で居てくれて…っ」
ジェイク様の目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
でも私も同じ。泣いていた。
私たち3人を一度に抱き抱えるように、ジェイク様は私たちにゆっくり覆いかぶさる。
「絶対、これから先ずっとずっと守ると誓う」
「ええ。わたくしもです」
この国の脅威となるのは”悪いもの”だけではない。
国が国としてあるためには、たくさんやらないければいけないこと、守らねばいけないこと、決断しなくてはいけないことがある。
今は小さなこの2人も、王族として、きっと越えなければいけない壁も、飲み込まなければいけない傷たくさんあるだろう。
私たちは、それを支えていけるだろうか。
親で、王族で。
そんな自分でいられるだろうか。
不安がないとは言えない。けれど。
ジェイク様となら、きっとどんな事でも乗り越えていける。
前世の私たちは、前世の私たちらしく、最後を迎えた。
今世の私たちも、『私たちらしく』生きよう。
「ジェイク様。心のそこから、愛しています」
「ああ、俺も。愛しているよ」
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
至らない点もたくさんあったかと思いますが、読んでくださる方、ブックマークをして下さる方がいらっしゃったおかげで、なんとか無事完結することができました。
書き切れなかった、転生組のお茶会の様子や、リーアとジェイクの初めての日などなどは、いつかまた番外編として書けたらいいなぁと思っております。
本当に、ありがとうございました!




