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38コメ



『ご覧下さい! 火は既に鎮火したと見られますが、倒れたビルの瓦礫が災害の規模を物語っております! 救助隊の方々が――――』


 テレビから流れてくるレポーターの声に耳を塞ぐ。




625:目撃者

ほーら見ろ、テレビでやったじゃん


626:ニート

すげー映像


627:匿名希望

今北産業。だれかダイジェストよろ


628:匿名規模

過去スレ見てこい


629:ひきこもり

鳥じゃなく、飛行機じゃなく、仮面だったんだよ!

マ!


630:引きニート

うんうん、そうだね。じゃあ一緒に病院行こうか


631:アルバイト

お薬出しときますねー


632:動画好き

なあ、これなんのテイザー?


633:宣誓

信じられないかも知れないが、駅前で暴れてた仮面の人の一部始終


634:ニート

一人で暴れてるようにしか見えない


635:引きニート

なんか猫食ったとか聞いたんだけど?


636:わたしもミタ

それは裸族の方


637:目撃者

爆炎突っ切って平気

未来からきた機械的な人の可能性が微レ存


638:高校生だった

わたしの友達も動画送ってきてたんだけど、何も映ってなかった

説明してエロい人!


639:わたしもミタ

全員撲殺された


640:怪我人

馬鹿!

首チョンもいただろ?


641:自宅在住

映らないってなんだ無能


642:中卒

実際問題各地で同じようなことが起こってる

ここが被害最大だが


643:ふぁ?!

つまり裸族っつー原住民が襲ってきて

ボスは仮面

そういうことだな?


644:駅前で見た

いや、仮面はデストロイヤーで間違いない

草も生えないグロ注意だった




 凄い勢いで消費されていくスレを見ない為に目を瞑った。


 あの後、自宅に戻ると大分テンションも落ち着いてきて、新たな黒歴史が生まれたのだと死にたくなった。


 瀕死。


 それでも神社に戻った時のリアちゃんの笑顔で、良いことしたんだよ大丈夫平気怖くないよくやった、と言い聞かせて立ち直った。


 リアママさんが帰ってくるのを待って、感動の再会をしてる間に結界で姿を消して帰ってきた。


 一晩明けて、会社からの連絡はないかとスマホを確認したが、着信はなく、仕方なしに朝食を食べながら何気なくテレビを付けて、吹いた。


 誰が撮ったのか見覚えのある仮面の写真が映っていた。


 しかも太字で書かれているのは『疑惑』『首謀者』『テロ』『トリック』『解析』などの、マイナス要素を多分に含んだ報道。


 いやいや、そんなバナナ~、と久しぶりにノートパソコンを起動させて、検索を掛けてみた。


 『仮面』『駅前』と打ち込む。


 すると、ズラッと出てきたリスト。今日だけに限定したというのに多くないだろうか。




【仮面を】駅前で暴れてた奴を晒すスレ【見た!】


【変態】駅前で裸の緑がイキってた件について【仮面】


【求む】異世界フラグを俺に!【情報!】


【映らない】嘘じゃないけど嘘って言われてもしょうがない写真に動画【裸族】


【ふざけんな!】俺の車が投げられて炎上【裸族!!】


【近づくと】ゴブリン目撃スレ【危険】




 その中で最も消費されているスレを覗いてみる。part7ってなんだよ。昨日の今日なんだけど。


 そこに書かれている文章にテレビから解説するコメンテーターの発言が一致。おじさんは宇宙人ではないんだが。


 どんどん上がってくるコメントに冷や汗を掻いたり冷や汗を拭いたり胃が痛くなったり、いや胃に穴が空いたり。


 それは適当な物からズバリピンポイントな物まで様々だ。


 当てずっぽうか、もしくはネタなんだろうけど、なんだよ、近所のおじさんって。正解だよ。近くにいるから凸ってみるとか止めれ。この映像を見た後でよくそんなこと言えるな。なんか不思議な力で引っ張ってるってなんだよ。餓鬼が投げつけたんだよ。爆破も俺のせい。ビル倒壊も俺のせい。線路が砕けたのも俺のせい。着地時の衝撃でビルの窓ガラスが…………それは俺のせいです。


 なんか宗教団体みたいなのも絡んできてた。光の柱が云々。


 その辺りで魂が抜けた。


 なんだよそれ勘弁だよ。


 助けてくれえ!


 しかし俺の心の叫びなぞ聞こえるわけもなく、テレビから流れる報道とパソコンに上がってくる書き込みは止まらない。どうしたの初代様? 出てきていいんだよ!


 仕方なく聴覚を防ぎ、更に視界にも入らないようにとゴロンとコタツに横になる。


 すると隣で顔だけ出してた黒猫と目が合う。


 ピスピスと鼻を鳴らしながら気持ちよさそうに微睡む黒猫。


 薄く開いていた目と合わせて、それはまるで笑っているように見えた。


 いいや笑ってるね。笑顔だ。


「何が可笑しいだこの謎生物があああああああああああああああああ!」


「フニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!」


 黒猫の悲鳴が響く室内で、おじさんは理解していた。


 終わっている。


 家族も愛する人も交際経験すらない人類として種の保存が出来ていないおじさんは、これからも食う寝る仕事を繰り返すだけの人生だった。


 それは紛うことなき終わり。


 人生設計という、誰もが組み立てる生きていく道へのプロセス。


 それが俺の場合、おじさんになった時点で決まってしまった。


 行き止まりと、一方通行が。


 後は粛々と歩を進め、生き詰まるだけの人生……の、筈だった。


 言っても、落とし穴というのは中々に空いていない。そもそも底の底なんだ。仮にハマったとしても行き止まりが早く訪れるだけだろう…………なんて。


 甘い。


 なんて甘さだろうか。


 人生に底なんてない。


 そう、つまり生きている限り落ち続けるんだね?


 そう…………そうだ。なんのことはない。


 ただ、


 人生設計が終わっていたおじさんが、


 ――――社会的にも終わってしまったというだけで。


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?!」


「なんでニャンコニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!」


 テレビからの声が聞こえないように、俺は叫んだ。











 霊安局に存在する特殊資料室。


 殆どの資料がデータ化され、内部に作られたネットワークからパソコンで検索を掛けられるようになった昨今。ここの存在は年代の若い者には古臭い資料庫としてしか知られていなかった。


 しかしその実、危険な呪いや術の貴重な資料が詰め込まれていたのだが、幾百年と経過すると危険を危険と思えず鈍するのは組織も同じこと。今では誰でも閲覧出来る古い資料室扱いとなってしまった。


 というのも、この中にある資料は、本当に存在していたのかも疑わしい物ばかり故に。


 もう、あるだけで使われなくなって久しい資料室。その室内にある棚の、最も危ないと分類されている書物の欄に、本が一冊入りそうな隙間が出来ていた。



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