サナの場合⑥
ごめん。行けなくなった。
彼女が犬の散歩中にこけたみたいで、今から病院に付き添って行ってくる。
返信の文章が思い浮かばなくて暫く画面を見たまま固まる。
犬の散歩?
こけた?
へーって感じ。
何も今日じゃなくても、タイミング悪としか言いようがない。
藤堂さんには八年近く付き合ってる彼女がいて、籍は入れていないけど週末婚みたいな形のパートナーがいるのは理解している。
私にもシンがいる。
それはお互い様。
それはそうなんだけどさ……。
綺麗に塗られたフレンチネイルを見つめながら、小さくゆっくりため息を吐いた。
このまま帰りたくないなー。
こんな着飾って来たのに、ナシって意味分かんない。
マスターにビールを頼んでから、言いたい言葉を全部無理矢理押し込んで、「了解」とだけ打ち込み、送信ボタンを押した。
よく冷えたビールを一口飲み込む。
スカッとした炭酸に反して、どんよりした気持ち。
暇つぶしにラインのともだちリストを眺めていたら、懐かしい名前にぶつかる。
ユキヤ、元気かなー。
大学の時に一瞬だけ付き合った人。
私には手に負えなかった遊び人。
たしか、一つ年下だったなー、まで思い出して、「久しぶり」とだけラインを送った。
何か始まって欲しい訳じゃなかった。
ただの暇つぶし。
真っ直ぐ家に帰りたくない子供の道草みたいなもの。
なのに、こういう時に限って、フワフワと軽いタイプの男はタイミングがいいのか悪いのか……。
「久しぶり、どうしたの?ビックリした。暇なの?」
即レス過ぎてこっちがビックリする。
2分以内に届いた返信。
「一人で飲んでる」
「どこ?俺も暇だし行くよ。久々会いたいし」
展開早すぎって、思いながらもユキヤに会いたくなっている自分がいる。
やめておけ。
そんなセリフが、遥か遠くから聞こえた気がしたけど、悩んだのは数秒で、結局は店名とマップを添付して、紙飛行機マークを押していた。




