サナの場合①
墓場まで持って行きたい秘密や嘘の一つや二つ、
三つや四つ。
いや、それ以上。
誰にだってある。
これは、そんな秘密を沢山抱えた者たちの
ささやかで密やかな話。
久しぶりに空を見上げたら、ちょうど見えた流れ星。
シャーって、音がするくらい綺麗に右から左に消えていく。
「あっ……」
願い事。
何が良いかな、なんて思っているうちに消えてしまったから何も思い浮かばなかった。
えっと、えっと。
消えてからも、スッと思い浮かばないんだから大した願いなど、私にはないのだろう。
「どうしたの?」とベランダに居座る私を不審がって、シンが窓から顔を出した。
「さっきね、流れ星が見えたの」
「へー、すごいね」
「すごいよね、あんまり見ないよね」
シンと話しながら、ひとつ、願い事を思いついてしまった。
今の生活が何一つ、崩れませんように。
何の変化も訪れず、平々凡々と過ぎて行きますように。
それが、私の何よりの願い。
「サナ、一緒に寝よう」
シンの誘いに、満面の笑みで頷く。
私たちは平和だ。
何の濁りや迷いもない。
クスクスと笑ってしまうくらいに。
シンと私は付き合って、五年。
同棲して、三年。
来年辺りには結婚したいねーなんて話し合う、緩い婚約関係。
シンは大手電子機器メーカーの宣伝営業部に所属していて、私たちの年代的には高収入な会社員。
周りの女友達には「有料物件」とか「理想の旦那様候補」と評価されている。
同い年、安定した仕事、普通よりちょっと良い見た目、柔らかい物腰、男女平等的な考え方。
後、次男で、両親共に健康。
私には申し分ない人。
理想の彼氏、素敵な旦那様予定。
朝の一幕。
「サナ、今日の夜、外でご飯食べる?」
前髪の束感を気にしてるシンからのお誘い。
私は夕飯の残りのミネストローネを口に運びながら「んー」と、小さく唸る。
「予定あるかも」
「そか」
ちょっと残念そうな声色に「ごめんね」とワザと眉毛を下げて見せる。
「ううん、用事あるなら仕方ない」
「うん、職場の皆んなで夜パフェ食べようって話してて」
「そかそか」
「今度の日曜日、いつもの担々麺、食べに行こうよ」
「サナ、あそこの担々麺ばっかじゃん」
「だって、好きだもん」
その好きのニュアンスは、シンが好きの意味合いも含まれていて、それに多分、シンも気付いて、少し照れたように笑った。
「俺も好き、だよ」
「担々麺?」
「……」
「うそうそ、私も好き」
真っ直ぐ彼だけを見つめて、伝える。
ゆっくり近づいて、唇を合わす。
チュッと。
幸せの音がする。
私たちは何もかもが、順調。
「あ、急がなきゃ」とお互い名残惜しそうにキスをやめるところとか、恋愛ドラマみたいで、照れちゃうくらい順調。
一点の曇りもなく、順調。
来年の今頃、私はシンのお嫁さんになってる。
きっと、幸福の絶頂の中で。




