第4話:暗殺計画「魔境の夏休み」と、絶対落第試験
王都の学園に入学してから、さらに数か月。
お義母様から紹介された(地雷リストの)お友達、エリザベスちゃんや第二王子たちとのマブダチライフを満喫していた私に、学園最初の大きな壁である『前期末進級試験』の季節がやってきました。
「……フフ、アハハ、あばばばばば」
侯爵邸の豪華なソファーの上で、お義母様は目の下にドス黒いクマを浮かべながら、新しい小瓶の胃薬を一気飲みしていました。
それでも頭の真っ赤なリボンだけは、まるで彼女の最後のプライドを示すかのように、ピンと美しく結ばれています。
(もう普通の方法じゃダメだわ。あの子の周りには国最高の権力者たちが護衛のように張り付いているもの。でも、学園のシステムそのものには干渉できないはず。実家のコネを使って、試験問題の管理監を裏から買収したわ。シルフィアの試験用紙だけ、国家魔導師の資格試験レベルの『超難関古代数式問題』にすり替えさせておいたわ。全問赤点で退学に追い込み、絶望して失意の底で首を吊らせて――つまり不慮の事故死に追い込むのよ)
お義母様は、今度こそ完璧な社会的抹殺による勝利を確信し、狂気に満ちた笑みを浮かべていました。
そして試験当日。私の机の上に配られたのは、他の生徒の何十倍もの厚みがある、見たこともない複雑な記号で埋め尽くされた試験問題でした。
周囲の生徒たちが「なんだあの禍々しい試験紙は……」とザワつくなか、私の頭の中には、いつもの頼もしいチャイムが響き渡りました。
『おっ、神イベント発生だね! これ、一見すると嫌がらせの難問だけど、前世の君が受験勉強で死ぬほど解かされた「高等数学の数式」と「物理の法則」を異世界の言葉に置き換えただけのものだよ。前世の知識をそのまま書き込めば、なぜかこの世界で失われた「古代超魔法の構築理論」が完成しちゃうよ。サクッと満点を取っちゃおう!』
「なるほど! お義母様が、私のために裏で特別な英才教育の特別試験を用意してくれたのですね!」
私は満面の笑みを浮かべると、前世の受験勉強の記憶を総動員して、スラスラと数式を埋めていきました。
数日後。
学園の掲示板の前で、お義母様は「さあ、あの子の赤点退学の通知はどこかしら」と、フフフと扇子を握りしめて待っていました。
しかし、掲示板の一番上に貼り出されたのは、驚天動地の発表でした。
『シルバ侯爵家・シルフィア、前人未到の満点。同時に、失われた古代魔法の数式を完全解明したため、国王陛下より直々に【国家一級魔導師】の称号を授与する』
「な、ななな……なによこれぇぇぇぇ!?」
お義母様は悲鳴を上げてその場にひっくり返り、頭のリボンが泥の中に落ちました。
(退学どころか国家の最高ブレインに就任しちゃったじゃないの! なんで私の仕掛けた嫌がらせで、あの子の社会的地位がまた神の領域に跳ね上がってるのよ!?)
しかし、お義母様の執念はこれだけでは終わりませんでした。
夏休みが始まると同時にお義母様は、国家魔導師となった私を「林間学校の特別引率」という名目で、王国の最果てにある、凶悪な魔獣がうごめく地獄の魔境『死の森』へと送り出しました。
(フフフ、いくら国家魔導師でも、あの森に住む伝説の超凶悪魔獣『ギガント・ウルフ』の群れに襲われれば、骨も残らず喰い尽くされて不慮の事故死を迎えるわ! 今度こそ、あばばばば!)
お義母様は王都の邸宅で勝利を確信し、高価なシャンパンをあけて一人で乾杯していました。
一方、鬱蒼と茂る不気味な魔境の森に一歩足を踏み入れた私の頭の中には、いつものポップな脳内カンペが点滅していました。
『おっ、お義母様からの夏休みサマーバケーションイベントだ! あの奥にいる大きな狼たちの群れ、実は深刻な食糧難でみんなお腹を空かせて、ものすごく寂しがっているだけなんだ。こないだ領地で大豊作だった黄金ジャガイモの特製ホイル焼きと、お義母様のスープのスパイスで作った特性バーベキューを振る舞ってごらん。一瞬で懐くよ』
「わあ、お義母様がキャンプ場と可愛いワンちゃんたちを用意してくれたんですね!」
私はさっそく、空間魔法から黄金ジャガイモを取り出し、お義母様秘伝のスパイス(※かつて象を即死させようとした猛毒ハーブ)をたっぷり利かせた極上のバーベキューを焼き始めました。
森の奥から、血走った目をした体長五メートルを超える巨獣ギガント・ウルフの群れがヨダレを垂らして現れましたが、私は一切臆することなく、笑顔でホカホカのジャガイモを差し出しました。
「さあ、ワンちゃんたち! お義母様の愛が詰まったスパイス焼きだよ、お腹いっぱい食べてね!」
「ガル……? ウ、ウマいーーーーン!!」
猛毒ハーブのおかげで肉体のリミッターが解除され、黄金ジャガイモの魔力で天に昇るほどの美味を感じた魔獣たちは、その場でお腹を見せてゴロゴロと甘え始めました。
夏休みが終わる頃には、死の森のすべての魔獣が私に飼い慣らされ、完璧な忠犬と化していたのです。
新学期。
お義母様が、そろそろあの子の悲報(遺品)が届く頃かしら、と、優雅にリビングで爪を研いでいると、地響きと共に侯爵邸の庭に、数十頭の超巨大なギガント・ウルフが綺麗に整列しました。
そして私が、その中で一番大きなおおかみの背中に乗って、満面の笑みで帰ってきたのです。
「お義母様、ただいま戻りました! お義母様が用意してくれた夏休みキャンプ、最高でした! この子たち、お義母様にお礼が言いたいって、我が家の私設騎士団になって付いてきちゃいました!」
「……はへっ?」
お義母様は、驚きのあまり飲んでいた高級胃薬をブーッと派手に吹きこぼしました。
(な、なぜ生きているのよ。国家を滅ぼせるレベルの災厄の魔獣たちよ。なんで我が家の芝生の上で、お座りとお手をして私をキラキラした目で見つめているのよ)
一番大きな狼が、お義母様の前で賢そうに頭を下げました。
「ガルル(ルクレツィア様、美味い飯と聖母の優しさをありがとう。今日からこの家は、我ら魔獣軍団が命に代えてもお守りする)」
「あ、あ、あばばばばばば……!」
お義母様は、自分が仕掛けた暗殺計画のせいで、シルバ侯爵家が「国家最強の魔獣軍団を従える、王家すら逆らえない無敵の超軍事力」を手に入れてしまった現実を知り、ついにその場で魂が口から抜け出ていくのでした。
危機回避に成功しました。経験値を獲得します。
スキル、魔獣使い(神級)および天災魔法を獲得しました。
シルバ侯爵家の武力:【地方貴族】から【世界崩壊級】へレベルアップ。
お義母様の胃へのダメージ:測定不能(胃薬の在庫が切れました)。
「お義母様、お義母様の企画するイベントはいつもサプライズがいっぱいで、私、世界一幸せな娘です!」
私が最高の笑顔でギューッと抱きつくと、お義母様は完全に白目を剥き、そのまま静かに痙攣し始めるのでした。




