第91話 それぞれの戦い
ソフィナの合図で、護衛たちが動き出す。その数は5名。
対する黒装束姿の集団は10人以上いるため、少なくとも数の上ではソフィナ側に不利である。
まず1人が、真っ先にソドに短剣を突きつけていた黒装束の脇に回った。
そして、レイピアで短剣を突く。黒装束が持っていた短剣は、その手を離れて地面に落ちる。
すると、黒装束は直ぐに後ろへと下がった。
この一連の流れは、わずか1秒前後のことだ。
「なかなかやるな? 流石は本丸の護衛と言ったところか」
と、黒装束はが言う。
「今です。ソドさん、アンナさん、逃げますよ」
ソフィナがそう言うと、呆気にとられていたソドも気を取り直した。そして、アンナと共にその言葉に従う。
ソド達3人が動き出すと、距離をとって対峙していた護衛たちもそれぞれ動き出した。
「任せても大丈夫ですか? 」
ソフィナが、1人の護衛に訊ねた。
「このような状況のため思わぬアクシデントも考えられますが、事前準備は済ませております。私についてきてください」
と、護衛が答える。
何か問題があった時のことを考えて、護衛たちは普段からソフィナを逃がすための避難経路を確保をしているのだ。
「いつも、私のわがままに付き合わせてごめんなさい」
「いえ、ソフィナ様は、見聞を広めるため大事なことを為さっているに過ぎませんよ」
この2人の会話を間近で聞いていたソドは、ソフィナから感じる謎のオーラの正体のようなものに気づいた。
「ソフィナ……いや、ソフィナ様と言ったほうが良いのか」
もしソドの勘が当たっていれば、これからソフィナに対しては敬称をつけて呼ぶ必要があるということだ。
「いつも通り、ソフィナと仰ってください」
ソフィナにしても、今までどおり接してほしいわけである。
「そうか……。なら聞くが、ソフィナは王族なのか? 貴族とはまた違う雰囲気だし、王族だとするなら何だか感覚的に合うんだよ。それに、やたら強い護衛もいるし……」
ソドからすれば、他にも思いつく節があった。
ソフィナはつい数日前に、冒険者ギルドに加入したわけである。その身でありながら遊撃騎士団にも加入しているわけだ。
「まあ、その話は落ち着いたところでしましょう」
この状況でするには、不相応な話である。
「そ、そうだな……」
「あと、イゴルとの関係についても教えてほしいな」
と、アンナが付け足すように言う。ソフィナ自身の立場に、イゴルも何かしらの関係があるのではないかと思ってのことだった。
それからソド達は、護衛の案内に従って移動した。
普通なら、絶対に通ることのない裏道をいくつも通る。追っ手を振り切るには、有効な判断だろう。
「ところでさ……。他の護衛の人たちはどうしたの? 」
アンナは不安そうな表情を浮かべて、そう言った。
ソフィナの護衛は5人いたが、今は1人しかいないわけだ。当初の人数からすれば、かなり心許ない。
「他の4人は、臨機応変に動いてくれているはずです」
「はい。応戦や攪乱による足止め、あるいは周囲の警戒など、秒単位で活動内容を変えて、ソフィナ様たちの避難をサポートしております」
「そうなんだ。すごい優秀な人たちなんだね」
アンナの感情は、さらにネガティブになった。
このような状況下で、自分自身がそこまで役に立っていないと思い込んでいるためである。ソフィナのように冷静な判断をくだせるわけでもなく、またソドのように兎にも角にも頑張ろうとする姿勢に若干ついていけなくなってきたのだ。
「アンナさん、かなり疲れていますね? 」
不意に、ソフィナがそうアンナに訊ねた。
「だ、大丈夫だよ。みんな頑張っているし」
「アンナさん、もう少しだけ頑張って下さい。ですが、安全な場所にたどり着いたら、直ぐに休息をとってくださいね。私からのお願いです」
「ソフィナこそ……」
ソフィナこそ、まだ年齢的に子供なのにどうして頑張れるのか。アンナはそう言いたかったのだが、言えなかった。
王族かもしれないソフィナ。つまり価値観が全く違うかもしれない相手に、迂闊なことは言えないと思ったからである。
しかし、アンナは言葉を代えて言う。
「じゃあ、無事に安全な場所まで行けたら先に休憩するけど、ソフィナも後でちゃんと休息するんだよ? 」
「わかりました。私も、きちんと休息をとります」
話を聞いていたソドは、決めたのだった。
だったら、俺が最後まで踏ん張るのだと。




