第88話 市内から市外の混乱
ボワド市に続く街道に出ると、市内から逃げてくる市民たちの姿があった。その数はとても多く、道が埋めつくされているため、これ以上は馬車では進めそうに無い。
「仕方ない。降りて先へ進もう」
俺はそう言って、馬車を降りる。
直ぐにギーナとジェロームもついてきた。憲兵たちも馬車を放棄して、ついてきている。
「ユウムさん。本当はどこかで待機していて欲しいんですがね? 」
このような事態になっていなければ、今頃ギーナとジェロームの身柄について話し合っていた頃だろう。
「俺が1人で待機していれば良いのか? なら、是非そうして欲しいね」
「ジェローム! これはお前が引き起こした事態でもある。当然、責任はとってもらう。もし適切な対処が出来たなら、ユウム家の名誉と地位だけは守ってやろう」
どちらにせよ、ジェロームを極刑にするつもりなのは変わりないようだ。まあ、仮にレゲムーク王国で裁判を受けるにしても、極刑になる可能性は高い。
「かしこまりました。このジェローム、鋭意をもって事態の収拾に図ります」
とんでもない事件を引き起こしておきながら、ゾラン公家に対する忠誠だけはきちんと残っているわけだ。
ギーナと事を構えない限り、ジェロームはの心配はいらないかもしれない。
ふと、こちらに向かってくる妙な気配を感じ取った。
位置的に空中であるため、他の気配と区別ができたわけだ。
「ドラゴンが市街の外も襲撃している気配がある。市内に入る前に、戦闘になるかもしれない」
俺は、ギーナたちにそう告げた。
「そうか」
すでに、ドラゴンと一戦交えることは想定しているのだろう。
ギーナは淡々と、そう答えた。
それから、何とか逃げ惑う市民を搔き分けて進むと、焼けた異臭が強くなってきた。人を不快にさせる匂いだが、尊い命が無残に奪われたことを意味する。
そして、気配は妙なところから感じた。
時間が経つにつれ、失われていく気配もある。その場所は街道から外れたところにあるが、直線距離にして200メートルで、ここよりボワド市寄りだ。角度的には……大雑把に45度くらいか。
「あっちの方角で何か起こっているようだ」
俺はそれだけいうと、1人で突っ走った。
付近でドラゴンが市民を襲撃しているなら、まずはそれを片付ける必要がある。どうせボワド市内に戻っても、やることは同じだ。
皆、俺を信頼してくれているのか、憲兵たちも含めて付いてきてくれた。ギーナも居ることだし、数体程度なら直ぐに方付くだろう。
ふと思う。
黒装束姿の連中が、あっさり撤退した理由だ。何かの罠かと思ったが、この事態に気づいてのことだったのかもしれない。
ただ、遠隔地の現況をリアルタイムで知るには電話が一般的だ。連中が電話を使っている様子もなかった。
まあ、今は深く考えず、目の前のことに集中しよう。
「畜生! なんで、こんなことにならなきゃいけないんだよ! 」
1人の男がそう大声で叫んでいた。その他にも絶望する市民らしき姿、そして息絶えた者たちの亡骸もある。
俺は直ぐに叫ぶ男の前に入り込み、ドラゴンと対峙した。
そして、有無を言わさず火炎を放射する。
これだけではドラゴンは倒せないが、とりあえずの牽制にはなる。
「お前らは、市民たちを安全なところへ! ここは俺と協力者……それとこのジェローム
とで何とかする」
と、俺は憲兵たちに指示を出した。
憲兵たちはそれに応じ、直ぐに動き出し市民の誘導を始める。
その時すでに、俺は1体のドラゴンの懐にいた。
拳に魔力を込めて、パンチを繰り出す。すると、ドラゴンは枯れた雄たけびをあげてその場で倒れこんだ。
まずは1体。
そして直ぐに周囲の状況を観察すると、いつの間にか拘束を解かれたジェロームが、ドラゴン数体を相手に応戦していた。それにギーナを守るように立ち回っている。
さすがはハンター同士の連携と言ったところか。




