第86話 赤い景色
≪扉≫で戻って来た俺は、異常事態に気づいた。先ほどまで、あれだけたくさん蠢いたオークの姿が綺麗さっぱり無くなっているからだ。魔物のコアがあちこちに散らばっていることから、恐らく討伐されたのだろう。
と、オークについてはどうでも良い。
それよりも、妙に赤やけた光が目につく。ボワド市の方角だ。
大規模な火事でも起こったのだろうか……?
「……なるほど」
ジェロームが何故か納得する様子を見せた。
「何か知っているのか? 」
俺が質問するよりも前に、ギーナが訊いた。
「実のところ、本来引き渡しを受けるドラゴンの半分しか受領できませんした。残りは後日引き渡すと言われまして……」
「……つまり、お前に引き渡すはずだった残り半数のドラゴンが、ボワド市を襲撃していると言いたいのか? 」
「はい」
そう言うことか。
あくまでもジェロームの推測に過ぎないが、あの光が火事によるものだとすれば、ドラゴンによる襲撃が真っ先に浮かぶ。
ここで、ジェロームを捨ててでもボワド市へ急がないとならない。せっかく手に入れたまともな情報源だが、仕方ないだろう。
「ボルスト捜査官。ソフィナには、私の部下数名が護衛している。そう急がなくても良いだろう」
俺の焦りを読み取ったのか、ギーナがそう言った。
「部下? 」
「ああ。数名でかかれば、お前1人くらい止められるくらいの能力はある。その間に、ソフィナが安全な場所に逃げるくらいにはな」
それはそれで色々と疑問が湧いてくるが、少なくともソフィナには強力な護衛が付いてるわけか。
「なるほど。つまりソフィナの安全は、ある程度担保できるわけだな」
「ああ。それに、ソフィナの要望にもなるべく応えるように指示を出している。滅多なことが無い限り、ドラゴン討伐隊のメンバーとも一緒に行動するだろう」
「すまなった。俺も少し冷静になろう」
だからと言って、のん気になっている場合ではない。なるべく急ぐとしよう。
オークやその他に警戒しつつ、俺たちは山を下った。そして、無事に山のふもとにやって来たが、オークの姿は一切無かったのである。これについても、後で再度調査が必要だな。
さて、数人の気配を感じる。
何者かが、あえて山のふもとで待ち伏せていたという可能性も考えられるので、俺はギーナやジェロームを隠れた場所に待機させて、1人で進んだ。
「ボルスト捜査官!? 」
俺の姿に気づいたのか数人の内、1人がそう大声で問いかけてきた。
直ぐに魔法で明かりを灯すと、制服を着用した数人の姿が確認できた。それに、1台の馬車もある。
どうやら、国家憲兵隊の憲兵たちのようだ。恐らくボワド地方局に所属している者たちだろう。
「ここにいるのは、どうしてだ? 」
「上からの命令です。ボルスト捜査官がこの山で調査をしているとのことで、我々もそのサポートのため派遣された次第です」
なるほど。
上司が、機転を利かせてくれたのかもしれない。
「わかった。ところで、ボワド市の方から、あれが目に入るわけだが、心当たりはあるのか? 」
「先ほど多くのドラゴンが、ボワド市に向かって飛来しているのをこの目で見ました」
「やっぱりか」
やはり、ドラゴンによる仕業のようだ。そして当然、ドラゴンを操る者がいることになる。一体どこの誰が、ドラゴンを操ってボワド市を攻撃しているのだろうか……。
「ボルスト捜査官。直ぐに戻りますか? 」
「連れが1人と、捕らえた被疑者がいる。ちょっと待っててくれ」
憲兵たちにそう告げ、来た道を戻る。
とは言っても、目と鼻の先だ。直ぐに、ギーナとジェロームを連れて戻って来た。
俺は端的に、ギーナは協力者であり、そしてジェロームは被疑者である旨を伝えて、馬車の中に乗り込んだ。
馬車はボワド市に向かって進みだした。通常の馬車よりも幾分か早いので、予定より早く着けるだろう。
それでも、俺は焦りが生じている。
もし俺がボワド市に留まっていれば、ある程度は対処できるはずなのだ。しかし、俺は調査に出て来てしまった。
もちろん想定し難い事態だが、ドラゴンによる襲撃に遭う中、俺の姿が無いことについてソドたちからどう見えるだろうか?
決して、良い印象はもたれないだろう。
むしろ、罵倒されても仕方ない。犠牲者が増えれば増えるほどに、或いは身近に犠牲者が出れば尚更の話だ。
とにもかくにも、まずはソドたちが無事でいて欲しい。




