第84話 離脱
第83話をずっと第84話として、表示しておりました。
申し訳ございません!
「うるせぇ。アタシもちょっと余裕が無いんだよ」
「私も、防御で精一杯だ」
どうやら、流石の2人でも黒装束姿の連中を相手にすると無双はできないらしい。そうなると事態を打開する決定打は、こちら側に無いことになる。
ジリ貧だ。
そして、俺も素早い黒装束姿の攻撃を防ぐことで手一杯だった。今俺が相手しているのは3人であり、3人ともかなりの戦闘力だ。その内1人は別格であり、顔こそ判らないが以前数回に渡り会話を交わした奴かもしれない。
相次いで放たれる攻撃魔法に、俺は相対する攻撃魔法を放つ。
炎系なら水系、水系なら氷系、氷系なら炎系と。
時折、急接近し短剣を突き刺そうとしてくるので、それがさらに厄介である。
このままでは、俺の持久力が危ない。魔力は依然余裕の域だが、かなりの疲労感を覚えているのだ。
「ハンターの件から手を引けと言ったはずだが、どうしてボルスト捜査官がここにいるのだ? 」
「成り行きでこうなったんだよ。俺は、あくまでも魔族を追っていたはずなんだがな? 」
「そういうことなら、許してやろう。だから直ぐに、引き返せ」
随分とあっさりしているが、あくまでも目的はジェロームなのだろう。殺すのか攫うのかは判らないが、俺が大人しく引き返す分には良いようだ。
だからと言って、引けるわけでもない。
今までは、相手の攻撃を防ぐために魔法を発動していたが、俺も攻撃に転じよう。
「申し訳ないが、魔族が絡んでいる以上、大人しく引き返すわけにはいかないんだよ」
俺は、そう言って火炎を放射した。すると3人の内、2人が素早く距離を取ったが、残る1人は真正面に立ったまま動かない。何故動かないのかは、判っている。
予想どおり、火炎放射をかき消した。
前回と同じだ。だが、1つ判ったのは、黒装束姿の連中全員が火炎放射を防げるわけでは無いようだ。
「気が済んだか? 」
黒装束姿が、近づいてくる。
背後からも、先ほどの2人が立っていた。
「オラオラァ! お前も素早く動けよ。それでも国家憲兵隊か! 」
そう大声を出しながらカミラがやって来ると、直ぐに俺の背後に回った。2人と対峙しているのだろう。
余裕が出てきたようで、助かった。
「総員、撤収だ」
と、俺の正面にいた黒装束姿が、周囲に聞こえる声でそう告げた。大きな声だが、淡々としている。
「逃がすかッ! 」
カミラが追いかけようとするものの、黒装束姿の連中は皆が素早い。
あっという間に、居なくなったのである。
「ユウムさん。ご無事ですか? 」
俺は直ぐに、ジェロームのところへ駆け寄った。気配はきちんと感じられるので大丈夫だろうが、確認せずにはいられない。
そして、ジェロームの顔を確認する。
「……あの中に、最も警戒すべき奴がいた」
と、ジェロームが言う。
ひとまず、生きていたようで安心だ。貴重な情報源が保全できた。
「最も警戒すべき奴ですか? 」
「ああ。お前が相手にしてた奴だよ。奴は、他の連中に比べて圧倒的な戦闘力を有している。そんな相手に、あれだけ保っていたお前も大したもんだ。流石は革命派の切り札と言われるだけはある」
「そうですか」
俺は、革命派の切り札と呼ばれているのか。
もしかして、俺はゾラン公国内で有名なのだろうか。ギーナが言うには、ソフィナは以前から俺のことを知っていたらしいし、可能性はありそうだ。
「ったく、とんでもない連中なのは間違いなかったようだな」
「ああ。帝国もレゲムーク王国の潜在的能力を見くびらん方が良いだろう」
カミラとギーナもやって来た。
「2人ともお疲れ。とりあえずジェロームは無事だ」
「それは良かった」
と、ギーナが安堵した様子を見せる。
「それにしても、随分とあっさり引いて行ったな? 」
一方、カミラは未だ警戒し続けていた。確かに、あれだけの戦闘能力を誇る集団にしては、あっさりと撤退したように感じられる。
単に戦力保持を優先したか、或いは他に策があるのか……。
油断ならぬ集団である以上、後者の可能性を前提に行動した方が良いだろう。
「ところで、ユウムさん。ここはどこの国の領土なのです? 」
「ここは、セナ魔王国領内の離島だ。一応、あっちの方角に小さな漁村が1つだけある」
「……セナ魔王国領内ですか」
どうやら、ここは魔族諸国の領土だったようだ。
ここが魔族諸国領内かもしれないと思ってはいたが、よりにもよって離島だとは思わなかった。
「セナ魔王国か。アタシも一度、来たことがあったよ。で、ここは本土に近いのか? 」
カミラとしては、やはりその点が気になるのだろう。
「一応、近いと言えるだろう。不定期ながら、本土の港町から船が出てるからな」
「なるほど……。ボルスト捜査官、悪いがアタシはここに残ることにした。これから漁村に行く用事が出来たんでな」
「カミラ、お前まさか」
カミラが一体何を考えているのか、察しがつく。
「悪いな。帝国にとっては是が非でもない状況なんだよ。ジェロームの野郎はくれてやるから、ギーナと話し合って決めてくれ」
カミラはそう言うと、足早く漁村があるという方角へ走り出した。まだ、黒装束姿の連中の脅威が去ったとは言えない状況だというのに……。
「言ってしまったな……」
と、ギーナも茫然と立ちすくんでいる。
「ああ。……まあカミラが帝国人である以上、理解できないわけでもない」
恐らくカミラは、セナ魔王国本土に渡るに違いない。
そして、本土に潜伏しゲリラ活動をするか、或いは何かしらの標的を定めて一気に終わらせようとするだろう。
今日会ったばかりの仲だが、どうか無事で生きててくれることを願うばかりだ。




