第50話 デニス宅の守り
「ここがデニスの自宅よ」
イルザが門の前で立ち止まり、そう言う。
付近には国家憲兵隊の制服を着た者たちも大勢いるので、間違いないのだろう。
デニスの自宅は、屋敷ともいえる程の大きさだった。B級冒険者としての活躍によるものなのか、或いは裏で稼いだカネで建てたのかは判らない。
「随分と立派なもん建てたな……」
「少なくとも冒険者としてもそれなりに稼いでいたらしいし、彼にとっては手の届く範囲だと思うわ」
「そうか」
さて、国家憲兵隊の憲兵たちも滞りなく警備をしているところを見ると、まだ問題は起こっていないようだ。不幸中の幸いと言っても良いかもしれない。
「ボルストか」
不意に、声をかけられる。イルザやイザークたちではない。
しかし、俺のよく知る人物だった。着ている制服からして、国家憲兵隊の人間であることを示している。前に会ったときは国民衛兵軍に所属していたが……。
「ピエールか。……まさか、お前も国家憲兵隊に移籍したのか? 」
「まあな。移籍を命じられてね」
彼の名はピエール・オビーヌという。俺の方が階級は上なのだが、彼のこの態度は昔からだ。今更それを咎めるつもりはない。
「責任者はどこにいる? 」
「今日は、捜査局の連中は引き上げたから、現状では俺がここの責任者だ。もし中を捜索したいなら、俺の権限で許してやるよ」
ピエールが責任者なら、都合が良い。
「中を捜索したいのも山々なんだが、今は警備を手伝っても良いか? 俺の勘だが、ここが襲撃を受けるのではないかと考えているんだ」
「襲撃? 」
「ああ。さっきこの屋敷の主人であるデニスが殺されたという報せを受けてな」
「……なるほど。好きにしてくれ」
「なら、好きにさせてもらう」
それから、俺たちはデニスの屋敷付近を警備すべく、それぞれの配置を決めた。
話し合いの結果、ロミーナとイザークが庭、イルザが門の前、そして俺とエリンが屋上で待機することになったのである。
俺が屋上を選んだ理由は、なるべく全体を見渡せる場所にしたかったからだ。本当は1人で来るつもりだったが、どうしてもエリンが俺と一緒に行動したいと言うので、このような配置となった。
「ハンターの調査に熱心だったのは、国家憲兵隊の捜査官だったから? 」
と、エリンが訊いてくる。
以前、イルザにも訊かれたことだ。
俺はイルザに説明したように、親友オーガストとの関係を話した。彼が従軍記者だったことや、俺が国民衛兵軍の兵士だったことをだ。
「……知らなかった。イゴルが戦争に行っていたなんて」
「驚いたか? 」
「うん。だけど、イゴルはやっぱりイゴルだよ。戦地ではどうだったかは知らないけど、私にとってのイゴルは、今目の前にいるイゴルに間違いない」
やけに大人びたことを言う。
「そうか」
それからしばらく、デニスの屋敷の付近で異常はない。高級住宅街でもあるためか、今のところ暴徒たちもここまで来ないようだ。
「イゴル」
ピエールだ。
「何だ? 」
「実は、この屋敷の捜査に難航している」
と、ピエールは困り果てた表情を浮かべながら、そう相談を持ち掛けてきた。俺に相談を持ち掛けるとは、もはや猫の手でも借りたい程に困っているのだろうか。
「なるほど。訳を説明してくれ」
「上から、骸骨の模型を探し出せという指示を受けているのだが、一切見つからないんだ。この屋敷の登記簿や附属図面も確認したが、それらに記されているエリアは全部捜査し尽くした」
「なるほど」
やはり、上司は掴んでいたんだな。デニスがスケルトン異常繁殖に関係している可能性があることを……。
「もし、デニスが隠し持っているなら、やはり隠し部屋など、そういう類の場所で保管するだろうな。それに、自宅とは別のところに隠している可能性も考えられる」
「その隠し部屋の場所を突き止めるのに困っているんだ。そもそも、本当にデニスが隠し持っているのか? 」
「俺も個人的に、デニスが骸骨の模型を隠し持っている可能性は少なからずあると思っている」
「なら、やはりこの屋敷とは別のどこかに隠し持っているのか? 」
「そこまでは判らない」
仮に、この屋敷とは別の場所に隠しているとしても、俺はその場所を知らない。もちろん、この今夜という局面でその場所を探し出す時間も無いわけだ。
俺の今の立ち位置は、デニスが殺された後の、一矢報いるための賭けに過ぎない。




