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引きこもり冒険者のおバカな英雄譚  第一部 暴れまくって王国を救う?   作者: 牟川
第1章 冒険者大会の狂った前夜祭
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第48話 詰められるイゴル

「ヒルダから、ここにいるって聞いて来たんだ」


 応接室に入った俺は、軽く経緯を話した。

 部屋の中には、イザークたちもいる。俺としては都合が良い。必要な頭数が揃っているのだから。


 だが、イルザの視線はとげとげしいものだった。


「何をしに来たのかしら? 」


 どうやら、俺は歓迎されていないようだな。


「ちょっと……今晩のことで、話があって……」


 この空気と相俟って、なかなか用件を言いにくいものだ。


「上司と飲みに行ったはずなのに、どうしてここにいるの? 」

 

 イルザにそう指摘され、先ほどイルザと別れるとき咄嗟にそんな嘘をついていたことを、俺は思い出した。


「あっ……いや、上司は今晩の対応で忙しくてな……。あんな様子だと、仕方ないだろう」


「あらそう。だから寂しくなって、ここへ来たのね? 」


「……ごめん。許してくれ」


「良いわ。今は時間が惜しい。用件を話してちょうだい」


 ようやく、本題を話せる。

 

「簡潔に言う。今晩、ハンターとの勝負になる。だから、もしよければ、俺に協力してくれ。危険性も大いにあるが、この通りだ。頼む」


 俺は、そう言って頭を下げつつ、自身の身分証をテーブルに置いた。彼らの生死に関わるのだ。俺だって、少しくらい覚悟を決めなければならない。


「……イゴル? 」


 真っ先に、イザークが反応した。一度、俺に俺に視線を向けたが、再び身分証に視線を向ける。


 国家憲兵隊捜査局という文字が、とても気になるに違いない。

 レゲムーク王国内で忌み嫌われている職業の名が、記されているのだからな。王立騎士団と共に国家憲兵隊の権限は幅広いが、前者と違って後者は華やかさも国民からの支持も無い。

 

 結局は、先に革命を起こした者たちの椅子を守るために出来た組織だ。誰が支持するものか。

 まだ、国民衛兵軍の方が当初の趣旨に沿っている。



 そう思考が、頭を巡る。


「兄さん……いえ、イゴル・ボルスト捜査官。貴方は国家憲兵隊の捜査官として、言っているのね? 」


「……ああ。こいつ……妹のイルザには既に話しているが、国家憲兵隊は正式に、ハンターに関する捜査を開始した。きっかけは俺の個人的な調査だったが、とうとう上司にバレてな。それで上司と色々あったんだが、ハンターに関して、国家の存亡にかかわる危機だと判断されて今の形になった。俺が担当捜査官だ」


 俺は事実と嘘を混ぜて、そう説明した。

 室内に、沈黙が訪れる。


 イルザはともかく、俺が国家憲兵隊の捜査官であるということに、それぞれショックを受けているのだろう。仕方のないことだ。


「それで、国家憲兵隊からは、どれだけの人たちが駆り出されるの? 」


 真っ先にエリンが訊ねてきた。


「今のところ……俺だけだ」


「なら、脅かさないでよ。結局イゴル1人なんでしょ。つまりイゴルだからだよ! 」


 エリンの眼からは、涙が浮かんでいる。

 一体、どうすればこうなるのか……。そして、何を俺に伝えたいのかが判らない。


 ただ1つ言えるのは、捜査担当が俺1人であることについて、エリンとしては何か思うところがあるのだろう。


「エリン、とりあえず落ち着いてくれ」


 一先ず、エリンにそう言った。

 時間が惜しいの確かだし、話を進めなければならない。


「今さら、身分を明かしたところで意味など無いかもしれないが、頼む。協力してくれ」


「私は良いよ。イゴルに協力する」


 まず、エリンが承諾してくれた。

 続いて、イザークも応じる。彼はハンターに関しては、元々俺に協力的な姿勢を見せていた。国家憲兵隊捜査局の人間と判っても、それは変わらないようだ。


「ひとまず、今晩はご協力いたします。イゴルさん抜きでは、絶望的なのは間違いありませんから」


 と、ロミーナも応じてくれた。


「……とりあえず、考えがあるなら教えて」


 承諾してくれたのかは判らないが、イルザもとりあえず話だけは聞いてくれるようだ。


「協力感謝する。さて俺の考えだが、デニスを今晩の危機から生き延びさせる必要があると思っている」


 正直、ヤマを張っただけの話である。


 今夜何か起こる。

 だが、ろくに情報はない。

 だから、ヤマを張るしかないのだ。


 全て、俺の勘である。


 しかし、探偵から聞いた話によって、デニスが色々と怪しいことが判明した。

 ハンターに関係しているかは現時点では判らないが、デニスが関わっていてもおかしくはない。

 

 しかも、『脱兎の耳』メンバーに起こったことも考えると、ヤマを張るだけの理由にはなるだろう。


「デニスを? もしかして、何か新しい情報でも得たのかしら」


 そうイルザに問われる。


「まだ大した情報は得ていないが、デニスはゲルトと繋がりがあったことが判明した」


「まさか、デニスも冒険者を殺しまわっていたということか!? 」


 突然イザークが立ちあがり、そう大声で言う。


「落ち着け。あくまでも、ゲルトと繋がっていたことが判っただけで、ハンターそのものとの関係性の有無については、まだ判っていない」


「そうか……。だが、調べるだけの理由にはなるな」


「そういうことだ。しかし、今朝がたの火事は知っているだろう? 」


 俺は念のため、今朝起こった複数の火事が全て『脱兎の耳』メンバーの自宅だったことを説明した上で、メンバー全員が行方不明になっていることも説明した。


「その話は知っている。……つまり、デニス自身も狙われている可能性があると? 」


「そういうことだ。そして、今夜の起こり得ることに備えて、デニスの護衛を固めたいと思ってな。他に、すべきことが思い付かないわけだしな……」


 デニスを守ることは、情報源を守ることになる。

 

「ちょっと待って。デニスは王立騎士団に捕らえられているわ。むしろ、一番安全な所にいると言っても過言ではない。もしデニスに危害を加えるとしても、王立騎士団に捕まっている間は何もしないのではないかしら? 」


 と、イルザが言う。

 確かに一理ある。


「どうだろうな? もしハンターがデニスに危害を加えるなら、王立騎士団に捕らえられていようと、お構いなしだと思う」


「……わかったわ。なら、王立騎士団に連絡して協力を仰ぐしかないわね」


 イルザはそう言って立ち上がり、部屋を出ようとする。これから、王立騎士団に連絡するためだろう。


 だが、その前に先客がやって来たようだった。


「ノックの音か? 今度は誰だ」


 イザークも立ち上がり、念のため警戒しつつドアに近づく。


「受付のヒルダです。王立騎士団のセレーナ・アストリー様から、イルザさんにお電話がきておりますので、お知らせに参りました」


「私に? 何があったのかしら……」


 まさに、イルザから連絡するところ、相手から先に電話がかかってきたようだ。

 ともあれ、イルザは部屋を出て受付へ向かったのであった。


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