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引きこもり冒険者のおバカな英雄譚  第一部 暴れまくって王国を救う?   作者: 牟川
第1章 冒険者大会の狂った前夜祭
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第20話 市警のボブ警部


 俺は上司と別れた後、王都ムーク市警察の本部にやって来た。ハンターに関する捜査を担当する刑事に会うためである。


「来たか」


 市警の本部に入って早々、がたいの良い男が声をかけて来た。俺と面識がある人物なのだが、どうやら俺が来るのを待っていたようだ。


「ボブ警部……俺が来るのを待っていたのか? 」


「ああ。市警本部長から直々に指名を受けたんでな。直ぐにお前が絡んでいると思ったぜ」


 なるほど。

 つまり、ハンターに関する捜査の担当になったのはボブ警部のようだ。別に咎めるつもりは無いが、まさかよりにもよってこの汚職刑事が担当になるとはな。


「別に俺が市警に捜査を頼んだわけじゃないぞ? まあ、これからよろしく頼むよ」


「全く。ここ最近は分署の窓際でのんびりやっていたというのに、こんな事件性が有るのか無いのか分からない案件で呼び出されるなんて、たまったもんじゃないよ。しかもこの件に割り当てられた人員は俺だけなんだぞ? 」


 可哀想に。

 1人で立ち向かうには、厳しい案件になりそうだというのにね。


「いや、事件性は大いにある。俺たちもいずれ正式に捜査を行うことになるだろう」


「お前がそこまで言うのなら、少しは真面目に取り組んでやる。とは言っても、何から手を付ければ良いんだ? 冒険者関係については既にお前が動いているんだろ? 」


「ああ。一般の冒険者に対する聞き込みは、引き続き俺のほうでやろうと思う。そこでなんだが、今現在この件で正式に捜査を行っている公的機関は市警……もといボブ警部だけだよな? 」


「そうだ。とんだ貧乏くじを引いてしまったよ」


「ならば、とりあえず市警として正式に捜査を行っているという事実を、あえてアピールして欲しい」


 これで、冒険者ギルドや『遊撃騎士団』を揺さぶれる。それに、ハンターと呼べるべき者が本当に存在するなら、そいつを誘き寄せることも出来るかもしれない。ボブ警部を餌にすることでな。


 もちろん、餌はボブ警部だけではない。

 既に俺自身や、あの私立探偵も餌として使っている。餌の種類は多い方が良いだろう。


「そんでもって、犯人の出方を窺うつもりか? 汚ねぇ野郎だね」


「ああ、そのとおりだよ。聞いた話ではハンターに絡もうとすると殺されるらしい。ボブ警部もしばらくは気を付けた方が良いかもな。まあ、この俺も危ないわけだが」


「精々、ピストルの手入れだけはしっかりやっておくか」


「それが良い」


 ここまで聞いた話では、ハンター相手にピストル如きでは太刀打ちできそうにないがな。


「で、他に何かして欲しいことは無いのか? 」


「そうだな……。まずは受付嬢のヒルダにでも聞き込みをすると良い。大した情報は手に入らないと思うが、受付嬢なだけあって彼女たちは周囲の目がある場所で仕事をしている。目につくという意味ではアピールにはなるだろう」


「受付嬢への聞き込みか。それだけで良いのか? 」


「可能なら冒険者ギルドの支部長や、『遊撃騎士団』にも聞き込みを行って欲しい。俺よりかは、市警としての身分を明かして捜査することになるボブ警部の方が応じてくれそうだしな。後は、冒険者の中で直近数年の行方不明者をリストアップも頼みたい」


「支部長に『遊撃騎士団』か。俺も市警本部長から聞いたが、『遊撃騎士団』はこの件に関して非公式に調査を行っているらしいな? 」


 非公式の調査については、俺が然るべき相手に伝えている。市警本部長やボブ警部が知っていてもおかしくはない。


「ああ。複数の調査担当が行方不明や、不審死に遭っているらしい」


「なるほど。なら、事件性はあると改めた方が良いな。俺も本気で取り掛かるとしよう。少々、暴れても良いんだよな? 」


 ボブ警部の言う「少々暴れる」とは、大雑把に言えば嫌がらせのようなものだ。


 もちろんチンピラの嫌がらせとは違う。

 表向きは、何ら職務内容に逸脱した行為にはならないのだが、冷静に観察してみると職権濫用に当りそうな行為なのである。


 要するに、汚いやり方による嫌がらせということだ。


「少々暴れる程度なら良いだろう。そのへんも適度に、よろしく頼むよ。じゃあ、そろそろ失礼する」


「おう」





「以上が、本日の報告となります」


 ロミーナはそう言うと、軽く一礼をした。横にはイザークもいる。まさに、支部長に報告を終えたところだった。


「よりにもよって、イゴル・ボルストがハンターに関する情報収集を行っているとはね。探偵にも依頼したとなると、奴なりに本気なのだろう。困ったことになったな」


 そう言って、支部長は頭を掻く。

 その仕草から、ストレスを感じていることが判る。


「はい。我々は依然として、ハンターに関する有力な情報を掴んでおりませんが、1つだけ言えることがあります」


 と、イザークが言う。


「言ってみろ」


「それは、無用にハンターを刺激すれば犠牲者が出るということです。それだけは確かです。直接見たわけではありませんが、俺の親友はハンターの調査を担当するようになった後、何者かに殺されました。親友以外にもハンター調査の担当になった同僚が立て続けに殺されているのです」


 そのイザークの発言に、ロミーナも頷く。

 間違いなくハンターは危険なのだと、そう2人は考えているのだ。この際ハンターの実在性など、どうでも良かった。

 

 その問題に関わると、とにかく危険……それだけなのである。

 それで身近な人間が、何人も死んだのだから。


 2人の考えに、支部長も同じだった。


「そうだな。優秀な『遊撃騎士団』のメンバーでさえも、何人も殺されている。間違いなくハンターは存在する。いや、ハンターという噂にあやかった奴なのかもしれないが、いずれにしてもこの件は、慎重に調査を進めなければならない。だからこそ、私はあくまでも非公式に調査を依頼したのだ」


 それをイゴル・ボルストという世間を知らぬ引きこもりに搔き乱されては、堪ったもんじゃない。

 支部長はそう感じていた。

 同時に、もはや手遅れとも感じている。


「本当に困ったことになったよ。既に探偵にも依頼しているらしいし、見事に搔き乱されたもんだ」


 火消の案が浮かばないからである。

 しかし、ある程度の冷静さは保っていた。


「とありあえず、他の片づけられる面倒事は今の済ませておこう。イザーク君、明日にでもデニスに確認を取るのだ。キミの報告が事実なら、これも放ってはおけない。私は私で、特にデニスを可愛がっていた副支部長を問い詰める」


 と、支部長はデニスにかけられた疑惑の調査を指示したのであった。



 


 その日の夜。

 デニスは苛立っていた。


 下僕3人が一向に帰ってこないこと、そしてまたもやイゴルを嵌めることに失敗したからである。


「ああああァァァァ、ムカつく! なんで3人は帰ってこないの? ムカつく! あああァァァ」


 自身の思い通りにならないことが、とても苦痛で仕方ないのだった。そんな彼を、女はじっと見つめていた。

 彼女にとっては、この光景も日常の1つなのである。


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