幻獣の森 月夜の泉で
気が付いた私は、水の上に浮かび、空を見上げていた。
大きな月が上がる、エルフの里国の明るい夜空だ。
相変わらず、大きな月に照らされる。
私を照らす月明かりを遮る様に、月明かりの中から影が現れた。
天女?
夜空から降りるザーララは、音も無く、足先から私の浮かぶ水に入った。
どうやら水底は浅く、水面はザーララの腰辺りまでは、届かない。
ザーララは水に浮かぶ、私の肩に手を掛けて来た。
「どうした、トキヒコ」
「フオコォが、、、」
「フオコォ?あのネズミか」
「、、、フオコォが、、、燃えちゃった、、、」
私は水に浮かびながら、泣いた。
オレは何も出来なかった。
ただその場にいるだけで、燃える友を見ているだけだった、、、。
フオコォ、、、何でオレの前に、現れたんだよ、、、
「、、、ザーララ、、、運命って、、、使命って、、、何だ、、、」
「運命は、変えられる。自身によって、周囲によって。だが、使命からは逃げてはならない」
「使命、、、何故」
「使命とは、己が自身に課せられた事。己が自身でのみ、行える事」
「では、、、使命を放棄したら、、、」
「己の存在意義が揺らぐ。使命とは対峙し、果すべき事」
「ザーララは、使命って有るの?」
「そんなモノ、持ちたく無い。だから無い」
「無いのか~」
「だがなトキヒコ。自身が望み無くとも、気付かぬとも、使命を持つ者、持たされている者は居ようぞ」
「オレは、、、嫌だなぁ、、、」
少し落ち着いた。
私は水底に立ち、歩いて岸へ向かう。
どうやら到着した場所は、まだ見れていなかったドゥブリーザチョッドレウンの里の山頂の泉のようだ。
確か入っちゃいけなかったんだが。
水から上がり岸辺に腰を降ろすと、泉を見た。
月明かりが反射して、美しい光景である。
「しかしあのネズミ、なかなか粋な事をする」
隣に座ったザーララが口を開いた。
「粋な事~?」
「ああ。トキヒコ、魔力とはエゴぞ。自己主張以外の何物でも無い」
魔力がエゴって、、、。
「トキヒコに掛けた結界が修復されている。あのネズミとわたしの魔力は反していた。あやつは、わたしの魔力に同調した。エゴを相手に合わす事なぞ、自己主張を放棄するに同意。あのネズミ、相当にトキヒコと一緒に居たかったのか、守りたかったのだな」
そんな事を聞かされたら、また泣けて来る。
あー、ダメだ。
「ザーララ、いいか?」
「何だ?」
「泣かせてくれ」
「ああ」
私はザーララを抱きしめ、ザーララの胸を濡らしながら、しくしくと泣いた。
もう40半ばのオッサンだけど、、、いや、年を取って、涙脆くなったのかな。
「ザーララ、何でここに来てくれたの」
山岳城から出て来ちゃって大丈夫なのか?
「トキヒコには、私の印を付けている。お前が未知為る世界に居た時も、辿っていたぞ」
ザーララ、オレを見守ってくれていたのか。
「、、、ありがとう」
「ああ」
「ザーララ、お願いがある」
「何だトキヒコ、何でも言え。この前の頼み事の代わりか?」
「いや、それならさっき、ザーララの胸を濡らしちゃったから。それとは別の事だ」
「何でも良い。トキヒコの望みを言え」
「ああ、さくらの『枷』を取ろうと思う。だから力を貸して欲しい」
「取るのか」
「取る」
遅かれ早かれ取らなくてはならない。
今回フオコォが現れて、さくらは“力”を現した。ちょっと遅かったのかも知れないが、さくらは二十歳となり、もうそれも一年が過ぎようとしている。
もうしっかりとした大人だ。自分の道を決めていい歳だ。
だけど自分が何者か分からなければ、道も決めれない。
さくらが何か“運命”を持つのであれば、立ち向かい、切り開く力を持たねばなるまい。
ただ、フオコォやザーララの持つ様な“力”をさくらが持っていたとしたら、何が起こるのか分からない。
頼れる相手はザーララしか居ない。
「トキヒコ、わたしも頼んでいいか?」
え~、ザーララさんの頼みって、何?
「何でしょう?私が出来る事は知れてますが」
まあ、いつも頼みっ放しだからなぁ。
「、、、トキヒコ、、、抱いてくれ、、、わたし達の運命だ」
大きな月が2人を照らす。




