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よろこんで。  作者: A
9/10

9

「ずっと、この噴水から外の世界を見てた。ずっと、けーくんの声……聞こえてたよ」



 幻なのだろうか。また、幻覚を見ているのだろうか。だとしたら、玲奈の頬を撫でている腕の説明がつかない。この腕は、斬り飛ばされてしまったはずだ。



「ここは……?」


「ここは、行き先を決められる場所。光か、闇か。ね、お散歩しようよ。昔みたいに」



 無理矢理立たされた。どうやら噴水の淵に座っていたらしい。噴水の中を見ると、闇の世界で動かなくなっている啓介の姿が、雪に包まれていた。


 狐につままれた気分だった。こんなに安らかな気分になれたのは、産まれて初めてかもしれない。環境だけで、ここまで変わるとは。



「玲奈、お前……ここにずっといたのか?」


「うん、ずっといたよ。私が死んでからずっとね。ほら、大人びたでしょー」


「あぁ」



 優しく髪を撫でると、あの時のままの笑顔が返ってくる。顔は大人びたが、性格は変わってないようだ。



「あ、あ……」


「――? あ?」


「あっ、あぁーえと、そうだ。ここは、うん、そうだな。三途の川か」



 あの言葉が出てこない。カチンコチンに緊張しながら、不自然にスイミングアイさせる啓介。喧嘩なら得意中の得意だが、こういう事は素人同然だ。



「川なんてどこにもないよ……?」



 苦笑しながら、玲奈は背中に飛び乗ってきた。



「初めて会った時の事、覚えてる?」


「……あぁ。お前、足骨折して動けなくなってたもんな」


「うん。あの時も、こうやっておんぶしてくれたよね」



 忘れもしない。玲奈がユイと同じ年齢の頃だった。飛行機が墜落して、たった一人、玲奈だけ助かっていた。金目の物を漁りに行った時、まさかそんな出会い方をするなんて。


 背負ったまま、あてもなく花畑を彷徨い歩き続ける。


「重くなったな。太ったんじゃないか?」


「はぁぁ? ないすばでーだけど、太っちゃいないよ! けーくんこそ、ハゲたんじゃない?」


「あぁん!? ハゲてはいるけど、ヅラじゃねーぞ!」


「それ、結局認めてるじゃん。まだけーくん十代でしょ?」



 こんな風に、玲奈と互いに笑い合う日々をどんなに夢見てきた事か。



「けーくん、大好き」



 後ろから、身体をキュッと包んでくる。



「俺も、あ、あ……」



 ……言えない。そんな時、巨大な鏡が眼前にぼんやりと浮かび上がった。背丈は倍以上、幅は大人が五人くらい入りそうだ。

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