ワークショップ
「もうそろそろいいかしら?」
ひかりさんがにこやかに俺たちへと笑顔を向けている。
相変わらず、周りの近隣住民たちからの視線がSAN値をガリガリと削っていき、俺たちの心はすでに活動限界に陥った。
「田村先生がいいなら、私たちは構いませんよ。ねぇカノン?」
「これくらいで勘弁してあげるっと言うよりそろそろ私たちまで変人扱いされそうだからさっさとやめて」
椿が腕組をしながらカノンに顔を向けると、心底嫌そうな顔で俺たちに嫌悪の感情を向けてくるカノン。
「それじゃぁ、もういいわよ。よく頑張りましたね」
パンと手を叩きお許しを頂いた俺たちはやっとこの地獄から解放された。いやー、今までの人生の中でもトップクラスの消したい記憶TOP10に入ったよ。
俺は、椿にボコられた後、ひかりさんからワークショップを受けていた。俺だけじゃなく、晃と圭吾も一緒にとあるレッスンを受けた。
それは、ダンスの基本でもある、腰と体を柔らかく動かすトレーニング法だ。
文面で紹介すると、至って普通のように聞こえるだろうが、ことこれを男子がやると、すごくシュールな光景になる。はっきりいってキモイのだ。
想像してみてほしい。ベリーダンスのような腰使いをスローモーションでやっている男の姿を。
想像してほしい。その腰使いを男3人横一列でユニゾンしている姿を。
想像してほしい。その3人組が両手を頭の後ろで組んでいる姿を。
想像できたならわかるはずだ。つまりそうゆうことだ。
「京介君。一見罰ゲームのような今の動きだけど、これって“踊る”という点においてはとても重要な練習なのよ」
そうだったのか。只の腹いせだと思ってたけど、そうじゃなかったんだな。
「まぁ、手を後ろで組んだりし、必要以上に腰を回さなくてもよかったんだけどね」
って、やっぱり根に持っていらっしゃいますね。
「あなたがいけないのよ。私を詐欺師と勘違いするんだから。まったく、今時壺なんてだれも売らないし買わないわよ」
ひかりさんは“ねぇ?”と椿に同意を求めた。
「そうですよね。こいつの頭の中一体どんな思考回路になってんだか」
「京介。わたしのあなたに対する好感度は下がる一方です。これじゃあ、わたしを攻略できませんよ」
「いや、全くこれっぽっちも攻略なんてしませんからねカノンさん」
カノンはちっと舌打ちしたが、それで少し場が和んだような気がする。こういう配慮ってカノンのすごいところだと俺は思うんだ。
「それじゃぁ、改めて、ワークショップはじめましょうか」
ひかりさんの号令に俺たちはお互いがぶつからないように間隔を開けて立ち並んだ。
「まず、そこのおバカな男子の為にワークショップについて説明するわね。私たち振付をする指導者、俗に言う振付師は、自身の練習法やレッスンを不特定多数を集めて公開することをワークショップって呼んでるの。有名な振付師のレッスンを受けたいっていう人は、ダンスであれよさこいであれ、みんな同じなのよね。だから、そういった人たち向けに私たちが定期的に開催しているレッスンがワークショップて言うのよ。理解してくれたかしら?」
なるほどね。簡単に言えば、入会や会員で無くても不定期でレッスンが受けられるってことか。
「わかりました。俺ってば、まったく違う方向に考えてました。どうもすいません」
俺はひかりさんに頭を下げ謝罪すると晃と圭吾も一緒に頭を下げた。
「わかってもらえたらいいのよ。それにおもしろいものも見れたしね。っほら」
そういってスマホの画面を見せてるくひかりさん。
そこには先ほどの羞恥プレイの動画が写されていた。
「ちょ、いつの間にそんな動画撮ったんですか!!?今すぐ消してくださいよ」
慌ててひかりさんのスマホを奪い取ろうとした俺たちだったが、ひかりさんは踊るようにそれをスルスルと躱していく。くそっ、これがプロの動きなのか!
「あっ、ごめんなさい。これ面白かったから、私のオフィシャルサイトにアップロードしちゃったわ」
「「「な、なんだってー!!!」」」
「あっ、ほんとだ、アップされてるわ。しかもコミカルなBGM付きで。京介喜びなさい。あんたたちの腰振りダンス再生回数もう1万回超えてるわよ」
椿の爆弾発言にいち早く反応した圭吾は、自分のスマホを操作し件の動画を再生した。
そこにその動画は今だに再生回数が鰻登りであり、腰振りダンスとBGMの絶妙なマッチングに対してのコメントが多々寄せられている。
「ひかりさん、あんたメチャクチャ根に持ってるじゃないですか!」
「そんなことないわよ。わたしを詐欺師呼ばわりしてこれだけですんだのよ。普通は、名誉棄損で訴えた上に嘘の証言で塗り固めてあることないことでっち上げたうえに、金銭を要求してもいいくらいなんだからね」
「「「ど、どーもすいませんでしたーー!!!」」」
この人、清純潔白そうにみえたけど、中身は椿と同格だ。絶対に怒らせたらダメな人だわ。
「それじゃぁ、私の気もすんだことだし、レッスン始めましょうか」
椿たちは“はい、お願いします”と元気一杯返事を返し、俺たち男子は、これ以上怒らせることのないように怯えたチワワのように、ビクつきながら返事をかえしたのだった。




