ダブルピース
「……やってしまったわ」
鼻にティッシュを詰めた俺の横では椿が、蹲り、顔を隠していた。
「ま、まぁまぁ気を落とさないで椿ちゃん」
ハタさんが、蹲っている椿の肩をポンポンと叩きながら慰めている。
「気にするなよ山城。やっちまったもんは仕方ない。素直に現実を受け止めるんだな」
同じく鼻にティッシュを詰めた晃の言葉に、う~~と涙目で唸る椿。
「椿さんのファンサービスには脱帽です。マジ真似できない」
カノンが口元を隠しプップっと漏らし笑いをしながら椿にとどめをさす。
さっきまで総踊りを楽しんでいた俺たちは、意気揚々と戻ってきたのだが、ある出来事により椿は活動限界に陥いり、俺と晃は地面に自分の血を吸わせるというハプニングを創り上げてしまった。
とりあえず、数分前からプレイバックしてみよう。
「みんなお疲れ。楽しかったみたいだね。いい笑顔が撮れたよ。ほら」
「ほんとだわ。見てみなさいよ京介に圭吾くん。いい感じよ」
「どれどれ。へぇ~俺ってこんな感じで踊ってたんだ。てか口開けすぎだろこれ」
「うわ~。僕なんてすごい変なポーズで映ってますよ」
俺と圭吾は自分の映った姿に苦笑した。
俺は多分ソーラン節の合の手を入れた時だろう。めっちゃ叫んでるのがわかる。
圭吾は、ポーズはまあまあかっこいいのだが、横の人を必死な表情で観ている顔がおもしろい。首から下はカッコいいのに首から上はテスト中、必死にカンニングしている高校生のような表情だ。俺もよくやったものだが、こんな表情だったんだろうな。
「二人とも良い記念になったんじゃない?この写真の京介なんて、へばってるのに我慢しながら踊ってる表情がウケるわ。ソーランをあんな必死に踊るからよ」
「だって晃がやたらと低く踊るから対抗意識に燃えちまったんだよ」
「やれやれだぜ。俺の脚力に勝てると思ったのかよ。全くとんだチェリーボーイだぜ」
「今の話の流れにチェリー関係ないよね!?ってか、チェリーにチェリーと言われたくないし」
「いや、俺チェリーじゃないから」
とんだ裏切り者だ!
俺との友情は嘘だったのか。くそ~、晃に先を越されるとかないわ~。
「圭吾くん圭吾くん聞いてくださいよ。晃ったら、親友の俺を裏切って内緒で大人の階段シャトルランしたみたいなんですよ。もうこれからは晃の親友やめて、圭吾くんの親友になろうかな」
悲しみと悔しさのあまり、圭吾に肩組みしながら耳元で囁く。
「あっ、すいません。僕、結構前に経験済みです」
「「このリア充ヤローが!!」」
「やだわ。この子、一体どれだけの女を毒牙にかけたのかしら」
「きっと何も知らずにあの甘い顔に引き寄せられた蝶たちをハエトリグサの如くパクッと頂いているに違いないわ」
「「や~~ね~~」」
圭吾のリア充発言に俺と晃は団地妻トークでディスってやった。圭吾は“勝手につくらないでください”と抗議してくるが、そんなのは知らんリア充は敵だ。
ん??ってか、晃なんでそんなに悔しがるんだ。こいつも状況的にはリア充の部類に入るはずなのに。
「くそー!彼女とか羨ましぜチクショー!」
急に晃が片膝を付き地面を殴りつけた。しかもちょっと涙目である。
「なんでおまえがそこまで落ち込むんだよ。いるんだろ彼女?」
「この落ち込み様をみていると思うか京介」
「でもさっき、チェーリーじゃないって言ってただろ?」
「そ、そうだったそうだった。な、何やってんだろうな俺ってば」
ハハハと笑いながら、後頭部の後ろを掻く晃。目がマグロ並みに泳いでいる。
「………おまえ、もしかして、素人どうて―」
「それ以上言うな!!!」
あ~。そういうことね。まぁ、お年頃なのだ仕方がないのだろう。誘惑に負けた晃君を俺は責めたりしないよ。
「欲望に忠実なのは人間としてリアルだ。気に病むことはない」
そう言いながら晃の肩を叩いてやった。
「最低な会話ね」
「そうですね」
女子組はそんな俺たちに残念な視線を送っている。
「まぁまぁ、そんなに落ち込まない落ち込まない。そんな幸薄な正木君たちにとっておきおきを見せてあげるよ。ほらこれなんてどうだい?」
そう言いながら俺たちにカメラの画像を見せてくれるハタさん。
「こ、これは!!?」
「ハ、ハタさん、あんたって人は!!」
俺たちは無我夢中でスライドショーした。
「何が映ってるんですか?」
そんな俺たちに興味を引かれた圭吾が肩越しに覗き込んでくる。
しかし、リア充な圭吾には見る権利など無い。
俺たちは鉄壁のディフェンスで圭吾をガードした。どうにか見ようと頻りにディフェンスを打ち破ろうとする圭吾に俺たちは全身全霊を込めて妨害してやった。
そして、圭吾に意識を集中しすぎた俺たちは、両サイドから覗き込んでいた椿とカノンに全く気付いていなかったのである。
「「「あっ」」」
椿とカノンは、俺たちの手からカメラを取り上げると、これでもかというスピードで画像を消去している。
カメラの中に納められた数々の秘蔵映像がデリートされていく。
男の夢とロマンが詰まった画像の数々が……。
しかし、無表情にポチポチと消去をクリックしている椿は、いきなりピタっとその作業を止めた。
「ハタさん。こ、これって……」
「み、見てしまったのか。い、いやついね。あまりにも完璧なシルエットだから思わず押してしまったんだ。そう。これは偶然だったんだ。ふ、不慮の事故だったんだ。ねらったわけじゃないんだよ。いや、ほんとに」
「椿。あなた、なんてとんでもない奥義を繰り出しているの。しかも無意識にだなんて……」
どれどれと俺と晃はすばやく椿の後ろからカメラの画像を覗き込んだ。
そして、見てしまったのだ。
それは、あまりにも完璧なダブルピースであった。
それは、赤と白のストライブが印象的な逆三角形だった。
それは、満面の笑みで“私を撮って”と言わんばかりにカメラ目線な女の子の写真だった。
それは、………椿のパンチラショットだった。
「椿。おまえ、これはやばいだろ。リアルでダブルピースの、おねだりポーズとは、おまえってやつは………男のロマンがわかるやつだったのか!!!」
「これぞまさに、究極のパンチラだ!椿。俺は今猛烈に感激している!!!」
俺と晃は、バシバシと椿の背中を叩きながら称賛の言葉を椿に送った。
そして二人揃って、裏拳を鼻に叩き込まれ、見事な鼻血を炸裂させたのであった。
「………やってしまったわ」




