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サウンドレスガーデン~あたしと子猫の世界旅行~  作者: 瑠璃色唐辛子
リニアガウス横断編 マンクスハット
48/231

死神牡鹿3

2015年8月13日改稿。


改稿作業を続けています。

以前の話を3分割にした上で、加筆修正ののち上書きしています。

ご了承くださいませ。

***


 まぁ、街人さん達よりも、今後生命の危険が迫っているあたし達の方が気をつけるべきだ。出来れば、こうして足止め出来ているうちに逃げて欲しいが、そもそも逃げたとしても、どこに逃げれば助かるのだろう。


 絶望的な観測でしかないものの、今は自分達の事で精一杯である。


 考え事をしながらも、呼びかける声は掛け続けている。


 あまり頭を揺すらないようにはしているが、果たして脳震盪以外に外傷は無いだろうか。あたしから見ていても結構派手にぶっ飛ばされていたのは分かっているし、鎧があるとはいえ『ドグマ』の柄とあの『アクタイオーン』の巨体の跳ね上げ攻撃で吹っ飛ばされて無事とは思えない。

 先日着込んだばかりの鎧が、見るからにぼこぼこになっているのが良い証拠。


 一応目立った外傷が無いか確認しながら、気を失っているダグラスに呼びかけ続けるとやっと彼が薄っすらと瞼を開いた。


「キーリさん…?」

「うん、そう。あたし。大丈夫?」

「…だ、大丈夫…だと思う」


 ぱちり、と眼を瞬かせたダグラスが、見開いた眼の中にあたしを映した。


 その瞬間、ダグラスの頬が瞬時に真っ赤に沸騰してしまったため、彼の碧眼の中に映っていたあたしもも一瞬眼を瞬いたが。


「頭打ってるみたいだから、無理しないで聞いてな?動けそう?」

「…ああ、大丈夫だ…」


 何故突然真っ赤になってしまったのか気になるが、この場で問答をする時間は残念ながら無い。


 簡潔に、ダグラスへと自発的な移動が可能かどうかを聞いていた。その瞬間、ダグラスは何故自分が意識を失いかけていたのかを思い出す。


「吹き飛ばされた…後、オレはどうなって…?」

「ザエルが今、あのデカブツ相手にしてる。早く行かないと、街がぺしゃんこにされちゃうよ」


 街がぺしゃんこ、とは大袈裟な事だが、間違ってはいないだろう。


「ザエルが…!?」

「アイツ、ああ見えて弓の名手だよ?武器も弓持ってたでしょ?」

「…ああ、そういえば、」


 驚いていたダグラスだったが、旅の道中でもザエルが何度か弓を構えていたのを思い出したらしい。


 だが、弓だけではあのデカブツ魔物『アクタイオーン』相手に、長く続かないと言う事は眼に見えている。それはデカブツと称したあたしでも、分かっている。


 まぁ、先ほどから少し離れた場所で『アクタイオーン』が悲鳴を上げながら、大暴れしているのを見ると、ザエルに任せていてもしばらくは大丈夫そうな気がするのではあるが。


「大丈夫?」

「ああ、意識もしっかりしてきた」


 頭を打った衝撃は割と軽度だったのか、ダグラスはすぐに起き上がる事が出来た。多少頭痛を感じているようだが、意識の混濁も無い。


 そうやら運が良い事に、どこかに飛んでいってしまった兜が衝撃を緩和してくれたようだ。少し頭を振ってそれを確認したダグラスに、あたしもほっと一安心。


 しかし、背後で暴れている『アクタイオーン』の、地鳴りのような振動には安心できない。


 あのサイズでさえ無ければ、すぐにでも狩り取ってやれるのにと歯噛みする。そのサイズがあるからこその『ギガ』級なのであるが、そこは言わぬが花だろう。


 ただし、少しあたしには気になる所があった。


「あのデカブツも、美味しいレバー詰まってるだろうに…」

「ぶふっ!!」


 あまりにも不躾な疑問だっただろう。つい、ダグラスは噴出してしまった。腹の底からわきあがる笑いを堪える事は出来たが、ダグラスは信じられないものを見るような目を隠すことが出来ないようだ。


 そう、レバー。


 あれだけ巨体であれば、さぞかしレバーも大きいに違いない、と考えたのである。


 言うなれば『アクタイオーン』は、以前ダグラスが仕留め、あたしが捌いた事のあるベニソンの亜種である。要は巨大化しているだけ。


 特に何か、特殊な魔物のように自然発生した可笑しな力を持っている訳では無い。たまに、火を噴いたり、毒を吐き出したりする魔物がいるのだが、そう言った特殊能力が無いのは『ノーマル』系亜種で巨大とはいえラッキーだ。


 その巨大だからこそ厄介な魔物をどうするか問題ではあるが。

 とはいっても、既にあたしの目的はどうやって捌くか、に切り替わっている。


「問題はあれだけの巨体をどうやって料理するか、だが…」

「キーリさん、本気で言っているのか?まさか、アレを本気で調理しようとしているのか?」

「やだな、ダグラス。料理は揶揄だよ」


 揶揄と聞いて、ダグラスもいささか安心したようだが、実は本気でレバーを狙っていると言ったらさすがに怒られるだろうか。ちょっとだけ後ろめたい気持ちで眼を逸らしておいた。


 しかし、後にあたしの眼が少し本気だったと、彼は語った。


「そもそもあんなデカブツ、どうやって解体しよう?」

「罠で狩るにしても、持ち合わせは無いぞ…」

「そもそも血抜きが出来いんじゃ…」


 ふと、そこであたしが区切った台詞。


 ダグラスも同じように、何かに気付いたのか。


「…血抜き…」


 と、呟いた後に、彼はあたしを見下ろしていた。あたしも同じくダグラスを見上げた。傍から見れば、呆然としながら見つめ合っているような格好で、二人で眼を見合わせて数秒。


「「それだ!!」」


 潔く閃いた作戦は、見事、あたし達二人の脳内で合致したのである。


「勝てるかも知れない!!」

「よし!行くぞ!!」


 以前、ベニソンを仕留めて来た時の事があったのだが、その手順を一から十まで思い出していたあたし。そして、その時に抱いていた感想を「ちょっと怖かったな、あの時」と思い出していたダグラス。


 野生のベニソンやプビック、ボルボアなどの魔物を狩猟して獲得した肉。それを調理して旅の食事に咥えるのは『ハンター』の料理入門でも有名だ。つい一昨日、キーリが披露しているのである。


 偶然手に入った、ベニソンの肉と、レバーをその場で食す為に。


 ダグラスは、その時あたしが狩猟の際の注意点を教えていた筈。そしてあたしは元々、マスターに狩猟から解体までの手順を教えて貰っているので、その注意点を知っている。


 そして、今回の『アクタイオーン』は、そのベニソンが巨大化した亜種だ。まるで、あつらったかのような絶妙なタイミング。

 

「よし、今夜も生レバーだ!パーティーだ!!」


 あたしは、一気にテンションマックスである。ダグラスも、心なしか頬が高揚しているように見えるのは、あのデカブツを料理出来る光明を見出せたからかもしれない。(※はしゃいだキーリが可愛かったという理由だったということは、彼女も知らない)


 しかし、そのまま喜び勇んで駆け出そうとしたあたし達だったが、


「ちょっと待ってくれ!!」


 ここで、突然制止の声を上げたのはダグラスだった。


「ん?何!?早くしないと、内臓に血が溜まっちゃうだろ!?」

「はあっ!?まさか、勝てるかもしれないからって、あの巨体を捌くつもりですか!?」

「あ、あれ!?駄目だった!!?」


 ダグラスは、またしても、『ハンター』の、特にあたしの逞しさを改めて知ったと後に話していた。うむ、すまん。『ハンター』に関してのあたしの知識の元は、師匠でもあるマスター原産である。一般に流通している常識は通用しない。


 話は逸れたが、問題はそこではない。


「武器は…?」

「あ…」


 半ば、呆然として、2人して駆け出そうとした格好のままで固まってしまった。

 二人とも武器が無いのである。


 ダグラスは愛刀『ドグマ』を、あの『アクタイオーン』の額に置き去りにしてきてしまっている。更にあたしの場合は、宿の寝室に『ハイデンクラッシュ』を置き去りにしたまま、文字通り着の身着のままでここまで来てまっている。今更、戻る時間があるだろうか?


 更に、今度はあたしの格好を見て、ダグラスが頭を抱えてしまっている。


「キーリさん…せめて兜を…」

「き、緊急事態だし…?」


 本日のあたしの格好。寝巻き姿のため、ほとんど肌着同然なのである。変装をしていなかったが、上が黒いフィットシャツ一枚。そして、下もスタイルパンツ姿だ。

 寝巻き用のため素材の薄いそのパンツは白で、健康的な腰元と太腿のラインに沿っているばかりか、薄く下着が透けて見えてしまっている。


 つまり、ザエル曰く、あたしの魅惑の巨乳が、体のラインに沿ってこれでもか、と強調されてしまっていた。歩く度に二つの肉の塊が揺れている様はけしからん、とよくよく彼には言われていたような気がする(※奥手なダグラスですら思ったらしい。透けた下着を見て、『今日は、黒ですか、そうですか…!』とダグラスが本気で鼻を押さえ掛けたというのは、やはり彼女は知らない。)


 それに対して、あたしは首を傾げるばかりである。今まで気にならなったそれが、突然気になってしまったせいで、ダグラスもあたしも変に意識してしまったようだが。


 武器を持たずに窓から飛び出してしまった為、装備も無い上に丸腰だ。このままでは、あのデカブツを倒す光明を見出していたとしても、捌き切れない可能性がある。


「急がないと、ザエルがもたない。説教なら、後で受けよう!!」

「仕方ない!!今回だけだが…って、武器は!!?」


 そして、肝心の武器である。(※キーリの格好に眼を奪われて、目的を忘れかけてしまっていたお茶目なダグラスがいたとかいなかったとか。)


「こっち!!」


 ふと、思い出したのはその武器を持ってくるのではなく、調達すれば良いのではないか、ということ。マスターにも教えられていたが、武器は手放すな。しかし、もしも武器を手放さしたのであれば、それに頓着せずに新しいものを使え、もしくは探せと口酸っぱく教えられていた。


 しかも、ここはその調達が難しいであろう草原や荒野ではない。


 珍しく冴え渡ったあたし。思いついたら即行動である。ダグラスの腕を引っ張って先陣を切るように走り出した。


 目指すは、『アクタイオーン』ではなくその数メートル離れた手前のショップである。その瞬間、ダグラスもすぐにあたしの意図を汲み取ったようで、そのまま引っ張られていた体勢を整えて並ぶようにして、そのショップ。


 『ハンターズ用品店』の扉を蹴破った。


 先ほど、あたしが感じたあつらえたような絶妙なタイミングが重なっていた結果だった。



***

誤字脱字乱文等失礼致します。

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