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サウンドレスガーデン~あたしと子猫の世界旅行~  作者: 瑠璃色唐辛子
リニアガウス横断編 マンクスハット
49/231

死神牡鹿4

2015年8月13日改稿。


改稿作業を続けています。

以前の話を3分割にした上で、加筆修正ののち上書きしています。

ご了承くださいませ。

***


 あたしと一緒になってそのショップに飛び込んだダグラスは、すぐさま必要なものを引っ掴む。


 どすんどすん、と暴れまくっている『アクタイオーン』の解体をするためには、まず何をしなければいけないかも理解をした上で。


 あたしはそんな彼の回転の速い頭脳に嘆息。


 そして、ふと目に入ったものを引っ掴んだ。柄にはただ無骨な皮が巻かれているだけの簡素なものだが、この柄の先に飾られた紐細工には見覚えがあった。あまり流通していない上に、結構な値段の張る一点ものだった筈である。


 しかし、他の道具と一緒に重ねられていたせいか、なかなか抜けない。うぬぅ、あたしだってお金を貯めて買いたいと思った時期があったものだというのに、なんだこのぞんざいな扱いは。マスターが見たら果てしなく激怒すると思われる。そんなマスターは戦斧(バトルアックス)等の武器に関しては、とてつもない知識と愛着を見せていたのだから。


 と、そんな事を考えながら引っ張り出そうと格闘していると、頭にぽすり、と何かが乗っかった気がして思わず振り仰いだ。

 ダグラスが、あたしの頭に兜を被せてくれていたのである。


「せめて、これだけでも…」


 先ほど自分も、これのおかげで軽度の頭痛で済んでいるのだから、と苦笑している彼。


 うん、頭が回る上に心配してくれるとは、なんと優しい『元』大隊長だろう。


「うん、ありがとう!」


 あたしの礼に対し、ダグラスも微笑んでいたように見えた。


 まぁ、その次の瞬間にはあたしが引っ張り出した獲物が可愛くなくて、その笑顔もすぐに引っ込んで青白い顔になってしまったのだが。


 なんだか、まったりとした雰囲気が流れた気がしたが、外から響いている足音に我に返った。あたし達には、そもそも余裕が無い。


 生きるか死ぬかの瀬戸際にいるというのは分かっているのだが、ここまで来るとどちらかと言えば死への恐怖よりもやるからにはやってやるという意地が強くなっている。あたしも『ハンター』の端くれだ。せめて、シャロンはザエルが逃がしてくれよ、とささやかな希望的観測のまま、あたしは再度覚悟を決めた。


 引っ張り出した獲物を肩に担いで、ショップを飛び出した。


「まずはあたしが行くからダグラスは右をお願い!!」

「了解!!」


 そのまま転がるようにして走り出せば、『アクタイオーン』はすぐ目の前で大暴れしていた。


 ずんずんと響き渡る蹄の音はちょっとした恐怖だ。いつ目の前に振り落とされるか分かったものじゃないので気が気じゃない。


 すぐさま、跳ね回っている、あるいは角をぶんぶんと振り回している『アクタイオーン』の脚を回避するする為に、キーリは左へと走り出し、同時にダグラスは右手へと回り込んだ。


 幸い、奴はこちらに尾を向けている。巨大な体に見合うだけの巨大なへら型の枝角を不規則に振り回しているし、ふらふらとよろめいている。

 おそらく目が見えなくなっているのだろうと判断できた。


 さすがは、ザエルだ、とキーリが不適に笑う。


 彼はこうした攻撃面でもそうなのだが、人の弱点をチクチクと付くのがとても上手いのだ。今回もその戦法を口八丁から、魔物相手の手八丁に置き換えたのである。


 その他に目立った傷は無いように見えるが、一つだけ先ほどと大きく変わった点が一つ。


「あのデカブツ、いつからツクツク(ハリネズミのような魔物)に鞍替えしたんだろうね…」

「フっ…」


 あ、今ダグラスが笑った。


 あたし達からして見てもかわいそうなほど『アクタイオーン』が頭をツクツクのようにしながら跳ね回っていたのである。哀れ、目を潰されてからは格好のザエルの的となったのだろう。


 額の傷口にも鉄の矢を射られているように見えて、やっぱり少し可哀想に思えるのだが、そんな同情をしている間にこちらが踏み潰されてしまっては迷惑極まりない。


「遅い!!」


 その前足をなんとか回避しながら動き回っていれば、『アクタイオーン』をツクツクにしたであろう張本人に怒鳴られてしまった。


 気持ちは分かるが、今は回避に専念したいのでもうちょっと待ってくれ。


「ゴメン!!武器の調達してきたから、勘弁してくれ!!」

「オレの武器も調達してきて欲しかった!!ダグラスの旦那は大丈夫!?」

「問題ない!!」


 ダグラスと戦線復帰は完了した。彼も先ほどの指示を守って、あたしの反対側に回ろうとしている。

 

 途中、間一髪で目の前に振り下ろされた脚が石畳を叩いた瞬間は背筋を凍らせた。


 しかし、それに怯んでいるわけにもいかない。あたしの目の前には、言うまでも無くご馳走があるのだから。そんなもしかしたら手に入るかもしれない御馳走『生レバー』の為に、怯みもせずにデカブツの左後ろ脚に向けて、本日の『獲物』を叩き付けた。


 先ほど『ハンターズ』用品店から拝借してきた、戦斧(バトルアックス)である。


 先端から持ち手まで岩のような鉱物を削り出して作られたであろう一点もの。


 日頃お世話になっているマスターにプレゼントしようと画策してお金を貯めていたのに、いつの間にか彼は、自身で購入してしまったこの武器を持って、意気揚々と食材を狩りに出掛けていたという経緯がある。そんなしょっぱい理由から、あの紐飾りに見覚えもあろうものである。


「うらああああっ!!」


 その時のしょっぱい気持ちと少しの苛立ちを吹き飛ばすように、叫ぶ。

 掛け声と共に、腰を限界まで落として振り抜いた『ローリングアッシュ』は、以前貴族の用心棒をぶっ飛ばした時にも使っている。


 だが、この技は元々アックス用の技である。


 本来なら大刀使いの技『ペリッシュブレイク』をアックス用に改良したというものであるが、この『ローリングアッシュ』は『斬る』必要が無い『叩く』動作に重点を置いている。


 武器の一番良い場所に当てる、という訓練と地道な修行を必要とされるが、その真髄は『叩き折る』という目的の為の攻撃手段。男人口の多い『ハンター』では大刀に並んでアックス使いが多く、習得必須である。


 しかし何故、大刀使いであるあたしがこの『ローリングアッシュ』を知っているかといえば、何を隠そう『アイアン』のマスター直伝である。


 8年前、父さんが亡くなってからというもの、その意思を引き継いで『ハンター』になろうと決意したあたしはマスターに師事を受けていた。


 そのマスターから直伝の『ローリングアッシュ』は文字通り、一味違う。


 あたしの男性にも負けず劣らずの力の源である、筋力。細い腕をしていながら、あたしはマスターやザエル曰くとんでも無い腕力を持っている。怪力などと称されるのは、決して揶揄でもなんでもない。


 その腕力を最大限活かすため、マスターが重点的にあたしに鍛えさせたのは、下半身である。あたしの下半身が普通の女性よりも、多少肉厚的なのはそのせいだ。


 筋肉量を増やす場所を、マスターがしっかりと決めてトレーニングをさせたおかげで、あたしの体幹は並みの男性をはるかに超え、『ハンター』端くれの男性をも凌駕する。

 これは何度かマスターにお願いされて『ハンター』端くれの青年達の調子に乗った鼻っ柱を圧し折る為に実験、もといしごいた事があったので実証済み。


 『アクタイオーン』にとっては、悪夢としか言いようが無い勢いと破壊力。あたしは、これまでの修行の成果である下半身をしっかりと使ってアックスを振り抜いた。


 結果、どうなるか。


「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 悲痛な遠吠えが、まるで雷鳴のように轟いた。


 ばきゃ!!と、砕けた音が響いたと同時。


 『アクタイオーン』の脚が叩き折られただけではなく、千切れ吹き飛んだのである。


 これには、さすがにあたしも驚いて、眼を瞬かせてしまった。右側に回り込もうとしていたであろう、ダグラスですら信じられないものを見るような目をしていた。ちょっとだけ傷付いた。


 先述したが、脚の太さと高さは成人男性と同じだけあったのだが、おそらくその固さともなれば、人間とは比較できないだろう。木こりが斧で木を叩くのと同じだろうと、考えて良いかもしれない。


 その脚が、一撃で半ばからへし折れた。おおよそ信じたくないが、木こりが何度も斧を叩き付けて倒す木を、もしかしたらあたしは一撃の元切り崩してしまえるかも知れないと言う事である。


 実際、『アクタイオーン』は、左後ろ足を切り崩されてしまい、地響きと共に左側へと転倒した。


 転倒したと同時に、鍛冶屋か工房の一部を枝角で破壊したようだが、その枝角も衝撃によってへし折れたらしい。ご自慢の枝角は、今後この工房を建て直す費用とも使われるのではないだろうか。


 何故か、その光景を宿屋の窓から見下ろしていたザエルは、きゅっと縮こまってしまった。おそらく自分に置き換えてしまったうだが、安心したまえ。これを人間相手に放つつもりは、もう無くなったから。


 これからは気を付けよう、と半ば呆然としてしまっていた。しかし、今は呆然としている暇は無い。


「次は右!!ダグラス!!」

「ええええいっ!!」


 あたしの合図から、瞬時に先ほどショップから拝借した大刀を振り上げて、気迫の篭もった声を上げてダグラスは地を蹴った。


 左側に転倒した事で、この厄介な巨体で動き回る事はなくなった。次は、右足を叩き折るか切り落とすかで、この『アクタイオーン』の機動力を確実に削いでしまわないとならない。


 ダグラスが振り上げた大刀が、そのまま地面に倒れた衝撃から立ち直っていなかった『アクタイオーン』の脚へと振り落とされる。


 太腿あたりに直撃した大刀技『崩砕ミョルニル』が、今度こそ必中の威力を持って半ばからへし折った。


 ひしゃげる様に折れた脚が、異様な方向に折れ曲がる。木っ端のように飛び散った血と、割れた骨の欠片がダグラスの頬を赤で汚す。(※本来ならダグラスはキーリに習って叩き切るつもりで振り落としたのだが、残念ながら圧し折るだけとなった結果に、内心肩を落としていたそうな。)


 それと同時に、またしても悲鳴のような鳴き声が響いた。その悲鳴は、到底、今まで猛威を振るっていた『死神牡鹿』とは思えない悲鳴だった。



***

誤字脱字乱文等失礼致します。

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