第39話 鳥兜の街 鳴動
第39話。
2015年8月13日改稿。
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マンクスハットの街は、森を分断するような形の外壁で守られた商業都市だ。
旅人や『旅商人』の、玄関口ともされているその街は、観光客も多く、またリニアガウス方面から来た旅人や商人達にとっては最後の補給口。
その為、時期など関係なく毎日が大いに賑わっていた。
森に面しているだけあって草木や花の栽培は盛んであり、この街の名物とも言える。
街の中には生産した花を売り捌く店舗が軒を連ね、客引き合戦に水面下で激戦を繰り広げていた。
街の名前となっている『マンクスハット』の花を街花とし、花言葉の『美しい輝き』と『栄光』をそれぞれ街のスローガンとしても掲げている。
街をぐるりと囲まれた形で群生する森は、アクティブ系の魔物の多い狩場としても知られている為、リニアガウスの『ハンター』達にとっては登竜門とされている場所。
「ソロ狩りを出来て半人前、マンクスハットで狩りを出来て一人前」
と、言われるのは、昔から通常の『ハンター』の通過儀礼がこの地となっている所為でもある。なので、この森は謂わば自然に出来た『ハンター』達の試験場ともなっているのである。
ただし、その試験場で命を落す『見習いハンター』も少なくないのが現状である為、徐々にその『ハンター』一人前への儀礼は風化してきていると言える。
夕暮れ時を過ぎれば森は鬱蒼として暗くなり、ある種のじめじめとした不気味な雰囲気を強める。
しかし、この森の多くの魔物がアクティブとはいえ昼行性なので、たとえ夜になった所で魔物に襲われる心配は少ない。一部を除いて、という注釈がつくが。
一部の例外とは、魔物が警戒して起き出してしまう事である。
主に、キーリ達のように旅をしている者達が、魔物達のテリトリーで火を起こしたり、魔物の嫌う香を焚いたりした時に起こる。
ダグラスが襲われたのは偶然ではあるが、旅人が襲われる例も少なくは無い。
だが、もう一つの例外がある。
それが、魔物達にとって、脅威が迫っている時だ。
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時刻は月が中天に差し掛かろうとしていた。
久しぶりのベッドでの安眠に、キーリ達が幸せそうな寝息を立てている頃。
空気を微かに奮わせる、森に木霊するような鳴き声が響いた。
ほーん、ともおーん、とも聞こえる遠吠えのような鳴き声は、ベニソンという鹿のような魔物の鳴き声だった。
薄茶色の体毛をした円らな瞳をしているが、それでも成人男性を二人か三人以上の体躯を誇る。
その体躯から繰り出されるベニソンの突進は、一列に並べた男達10人をまとめて吹き飛ばせるとも言われていた。
頭から大きく盛り上がったへらのような形をした枝角が加わり、殺傷能力まで付いている。
ちなみに、この枝角は皮膚が盛り上がって作られるものなので毎年生え替わるようになっているらしい。更に言えば、枝角は雄にはあるが雌には無い。
なので、枝角を保有している雄のみが狩りの対象となることが多い。雌も食肉としては程よく油が乗っていて適しているので、それを求める『ハンター』も多い。
運良くその生え変わった枝角を見つけられれば万歳、と森に踏み入って二度と帰ってこない強欲な『ブローカー』までいる程だ。
ベニソンの枝角には、おおよそ通常の生活では考えられないような大金を手にする事が出来る金銭価値がある、一種のブランドと化していた。
前回、ザエルやダグラスの会話にもあったように、角だけで20万Ttrは固い上に、状態が綺麗なものに関しては30万、40万と値が吊りあがる。
『ハンター』達がたまに持ち帰って枝角の大きさを比較して自慢大会なんてことをするぐらいには、希少価値が高い代物となっているのだ。
そんな枝角を持ったベニソンの鳴き声が、森の中に響く。
一頭だけではなく、二頭、三頭、と連鎖するように続く鳴き声。
その鳴き声に追われるようにして、森の中の穴倉で安眠していたであろうプレーリー(ネズミみたいなま魔物)やミニマム(ウサギのような魔物)が森の中を一斉に駆け出していく。
その駆け出したプレーリー達を追いかけるようにして、今度はフルフル(狐のような魔物)が巣穴を飛び出して、思い思いの方向へと走り去ろうとしていた。
その時だった。
森全体に響く、太くそして大きな地響き。
めきめきとひび割れる甲高い音をさせながら、森の巨木が倒された。
それも一本だけではなくその後も二本、三本、あるいはまとめて、へし折れては倒れ、森の中にその大きな地響きを繰り返し響かせていた。まるで薙ぎ倒されるかのようなそれ。
そして、その地響きと並行して響くのは、地面を叩き付けるような、何かの足音だった。
森で逃げ出したのは、何もプレーリーやミニマム達だけではない。
プビック(豚のような魔物)やボルボア(猪のような魔物)、プレーリーウーシー(牛のような魔物)、更には嘴を持った卵生のフォルスラ(鳥のような魔物)などが逃げ出しており、その列に紛れるようにして、ベニソンですらも駆け出していた。
この森に生息している魔物や動物は、ほとんどと言って良い。
おーん、と響く大きな鳴き声。
太く、重なり合ったようにも思えたベニソンの鳴き声は、森に太く地を這うように木霊した。
泊り掛けで狩りを行っていた『ハンター』達が、その鳴き声に跳ね起きた。
何事か、と森に眼を凝らすも、見えるのは闇ばかり。しかし、ただ事ではない気配に、急いで帰り支度を始めたのは妥当な判断であっただろう。
森で眠って身体を休めていた鳥たちも一斉に飛び立った。森が悲鳴を上げるような巨木の倒れる地響きも、未だ続いている。
そんな混乱に満ちた森の中をひた走る、一頭のベニソン。
背後まで迫った森の木々が薙ぎ倒される音に、半狂乱になって走っていた。
動物的な本能のままに逃げ出したようにも見える動物や、魔物達。それは、この一頭のベニソンですら同じだったというのに、無情にもそのベニソンの逃走がそれ以上続く事は無かった。
巨影が、この一頭のベニソンの頭上に差し掛かる。
月の光すら遮り、巨大な森の木々を薙ぎ倒してもまだ足りない。
ずしり、とベニソンの頭に乗せられた巨影の、ほんの一部分。
コンマ数秒の間に、このベニソンの殺傷能力を高めている大きく盛り上がった枝角を粉々に粉砕し、頭蓋を割り砕き、一瞬にして頭から身体を押し潰すようにしてそれは振り下ろされた。
ベニソンの悲鳴のような鳴き声すら、響く事はなく。
身体の一部を除いて、巨大な脚のようなものの下敷きとされ、血溜まりの中に消えた肉片は埋没した。
その巨影は、そのまま木々を薙ぎ倒す事をやめず、破壊音と地響きのような嘶きを響かせながら、リニアガウスの東南の森、普段であれば絶好の狩場でもある森へと出現した。
リニアガウスやその他傘下国の国境であったのは幸いではあったが、確かにその魔物はリニアガウスの国境内で、その屈強で巨大な身体を揺らしながら森を進んでいたのである。
まるで横断するかのようなそれは、奇しくもやや北西に向かって進んでいた。
おそらく、二日と掛からずに到着するであろう。
リニアガウスの西に城門を構える旅人や商人達の玄関口でもある商業都市、『マンクスハット』へと。
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誤字脱字乱文等失礼いたします。




