沽券2
「アンタどっかで見た顔だけど、同じ中学? アタシ波倉未来って言うんだけど」
荒神実依也にとってこの一言から始まった偶然の出会いは、彼の環境を大きく変えた。
少々馬は合わないが、似たもの同士で一緒にバカをやれる高月ツミキ。
不器用でまっすぐで、さまざまな共通点から意気投合出来た末村弾希。
そして何より誰より、自分の悩みを解決しようとしてくれた波倉未来。
得難い親友を荒神実依也は得た。
それが実依也を変えた。
剣道の団体戦で、彼が初めての勝利を噛みしめた夜、霧雨の中で素振りをしていると、父がやってきて言った。
「天下五剣を知っているな」
知っていると実依也は再び告げた。霧雨に濡れた木刀が月光を浴び、銀色の尾を引いて夜を走る。
天下五剣とは日本刀の中で特に大業物として称えられた五振りの事である。
どの五振りも美しく素晴らしく、まさに匠の業の結実と言える逸品だ。
「では、天下五剣はなぜ天下五剣となりえたのか」
実依也は少し考えた。頭をよぎるのは、今日までに高月や末村とともにした鍛錬の風景だった。
一緒に体を鍛え、技を磨き、話し合い笑い合い喧嘩もして、そうして得た勝利。
実依也はなんともなしに答えた。
『他の四振りの剣があったからだ』
木刀が、銀色に光る雨を切り裂いた。
「それが分かったならば、お前は剣道をやめようとはしないだろう」
父は笑って言った。
「よい友達とは、切磋琢磨し合い、試合うもの。お前はそれを得た」
父は、笑っていた。
そうして、彼はその後も剣道を続ける事にした。
そこで出会ったのは斎木祭を始めとする、愛すべき友人たちで――
「ま、んな事口が裂けても言ってやらねぇけどな」
とある病院のベットの上で、とある少年はそう呟いていた。
感想・批評などお待ちしております。




