第7話 語られる過去
次の日。
私はベッドの中で、ゆっくりと目を覚ました。
ふと枕元のスマホに目をやる。
14:29。
今日は日曜日。店休日だ。
「いつもより寝ちゃった…」
やっぱ疲れてたのかも…。
黒須の存在が大きいのかな…。
ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。
窓の外は気持ちのいい晴天だった。
差し込んでくる日差しを浴びながら、大きく深呼吸をする。
休みの日もお客さんとの連絡はあるけど、仕事のプレッシャーから少しだけ解放された気分になれる。
軽く部屋の掃除を済ませ、近所のスーパーに買い出しに行く。
夜はご飯を食べながら、ドラマやアニメを一気見。
私は、こんななんでもない一日が好き。
また一週間がんばろ。
そう思える。
そして月曜日。
いつも通り出勤した。
平日は週末より少し気持ちに余裕を持てる。
その日もいつも通り仕事をこなしていた。
営業も終わりに差しかかった頃、神崎がお店にやって来た。
神崎は黒須に近づく。
神崎
「おー黒須!本店はどうだ?」
黒須
「…うっす」
神崎
「週末顔出せなくて悪かったな!
会食とか色々あってな!」
黒須
「…別に大丈夫っす」
この人…オーナーにもこんな感じなんだ…。
神崎
「相変わらず具合悪そうな顔してんなー!
ちゃんと飯食ってんのかー?(笑)」
黒須
「…うっす」
神崎
「まぁ、お前なら心配ないか!(笑)」
神崎は終始、笑顔で黒須に話しかけていた。
そこへ相沢もやって来た。
相沢
「神崎さん、お疲れッス!」
神崎
「おー相沢!
お前のわがままのせいでアネモネの人事大変だったぞー!(笑)
まぁ、お前も異動したいって言うだろと予想はしてたけどな!(笑)」
相沢
「申し訳ないッス…!
でもその分仕事で返すッスよー!」
相沢は肩をブンブンと回す。
この人も変わらないのね…。
そうして営業が終わった。
私はいつも通り涼風と話していた。
すると、神崎が三田に声をかけた。
神崎
「三田!
副店長になる件聞いたぞ!」
三田
「あ、ありがとうございます。
がんばります…」
神崎
「この後、何か予定あるのか?」
三田
「いえ、特に無いですが…」
神崎
「軽く飲み行くか?
昇進祝いだ!
あいつらの歓迎会も兼ねてな!」
三田
「あ、ありがとうございます!」
神崎
「黒須!相沢!
お前らもこの後大丈夫かー?」
相沢
「もちろんッス!」
黒須
「……自分は結構です」
神崎
「お前は相変わらずつれねーなー!
主役が来なくてどうするんだよ!」
相沢
「そうッスよ!先輩!行きましょうよ!」
黒須
「…………はぁ」
黒須はだるそうにため息をついた。
神崎
「よーし決まりだな!
三田、いつもの店に連絡しといてくれ!」
三田
「わかりました」
そんなやり取りを、涼風はポカーンとした表情で眺めていた。
すると、神崎と目が合った。
神崎
「なんだ?二人も行きたいのか?」
えっ?全然そんなことないけど…
そもそも私たちには関係な…
涼風
「いくー!」
涼風が満面の笑みで手を上げた。
リン
「え…ちょ、涼風?」
涼風
「いーじゃん!楽しそうだし!
リン子も行くでしょー?」
リン
「いや、私は…」
神崎
「二人もいつも頑張ってくれてるしな!
一緒に行くかー!
おーい!三田!二人追加だ!」
リン
「あ、はい…」
まぁ、黒須を知るいいきっかけになるかもしれない。
こうして、三田の昇進祝いを兼ねた黒須と相沢の歓迎会に、私と涼風も行くことになった。
ここはご飯が美味しくて少しお高い居酒屋。
みんな同伴などでも使う、ちょっといいお店だ。
席に着くと、神崎がみんなに声をかけた。
神崎
「おーし!みんな!
好きなものじゃんじゃん頼めよー!」
それぞれがメニューを見ながら、食べたい料理を選び始めた。
涼風
「あ、私これ好きー!」
神崎
「お、涼風ちゃんわかってるねー!
ここのは新鮮だからな!」
相沢
「うわー!どれも美味そうッスねー!
あ、先輩の好きなやつあるッスよ!」
黒須
「……じゃあ、それ。あと焼鳥、ナンコツ。」
みんな自由だな…。
三田がみんなの注文をまとめて、店員さんに伝えている。
この人はいつもこんな役回りだな…。
注文を済ませ、しばらくすると料理や飲み物が運ばれてきた。
神崎がグラスを手に取り、音頭を取る。
神崎
「じゃあ、黒須と相沢の本店異動と三田の副店長昇進を祝って」
一同
「カンパーイ!」
それぞれグラスを合わせ、宴会が始まった。
相沢は早速ビールを口に運ぶ。
相沢
「ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ…
パァー!やっぱ仕事終わりのビールは最高ッスね!」
三田
「ずいぶん美味しそうに飲むね相沢くん。
お酒は好きなの?」
相沢
「好きッスよ!
それに、神崎さんや先輩とこうして飲むのも久しぶりで嬉しいッス!」
この子はほんと可愛げがあるな…。
そんな相沢を見ていると、神崎が私たちに話を振ってきた。
神崎
「リンちゃん、涼風ちゃん!
黒須はどうだー?
やりにくいだろ?(笑)」
はい。とっても。
なんて、言えるはずもなく…
リン
「そ、そんなことないですよー!
仕事きっちりしてるし、頼りになるって思ってますよー!」
咄嗟にぎこちない笑顔が出てしまった。
神崎
「ははは!
まぁ、最初はみんなそんな感じだ!(笑)
そのうちわかるよ!(笑)」
まるで私の本音を見透かしているようだった。
それに、何か含みのある言い方も気になる。
涼風
「えー!くろすけめっちゃ優しいよー!
私のお客さん達もくろすけのこと褒めてたしー!」
神崎
「コイツお客さんの前じゃ怖いくらい愛想いいからなー!(笑)
普段のコイツ見たら驚くだろうなー!(笑)」
神崎は黒須の背中をバンバンと叩く。
黒須
「……」
黒須は無視して料理を食べている。
神崎はそんな黒須を気にする様子もなく、ふと思い出したように声をかけた。
神崎
「そういえば、引越しは昨日で終わったか?
バタバタだっただろ?」
黒須と相沢に声をかける。
相沢
「なんとか終わったッス!
まだダンボールだらけッスけど!(笑)」
黒須
「……まぁ」
相沢
「でもマジ助かったッスよー!
マンションも引越し業者も用意してくれて!」
神崎
「まぁ、たまたまあのマンションのオーナーが知り合いだったからな!
無理言って二部屋用意してもらったよ!(笑)
引越し業者も後輩だしな!」
二人とも同じマンションに引っ越したんだ…。
相沢
「やっぱ神崎さん顔広いッスねー!
さすがッス!」
三田
「最近できた、大通り沿いのあのマンションですよね? すごいですね。オーナーさんが知り合いだなんて……」
えっ?それ私の住んでるマンションの近くじゃない…?
相沢
「そうなんスよ三田さん!めっちゃ綺麗なんスよ!
しかも今までワンルームだったんで、1LDKってめっちゃ快適ッスねー!
エレベーターもめちゃ早いんスよ!シュンって!
まぁ自分3階ッスけど!(笑)」
相沢の顔はすっかり赤くなっていた。
いつもより口数も多いし、結構お酒弱いのかな?
神崎
「まぁ、急だったから黒須なんて最上階の4LDKだからな!(笑)」
神崎は大笑いしている。
黒須
「……別に部屋はなんでも」
え、4LDK…? 家庭持ってるの…?
涼風
「えー!くろすけすごーい!成功者って感じじゃーん!」
相沢
「先輩の部屋めちゃくちゃ広かったッスよ!
あんな広い部屋に一人で住むなんてもったいないッスよね!
自分も一緒に住んでも良かったんじゃないスか?」
黒須
「……いや、それは無理」
あ、一人なんだ…。
神崎
「ペット可で空いてたのがその部屋しかなくてなー!(笑)」
ゲホッゲホッ!
私は飲んでいたお酒でむせた。
ぺ…ペット…?
え、黒須、ペット飼ってるの…?
何にも興味なさそうなのに…
意外すぎる…
涼風
「えー!くろすけペット飼ってるのー?
めっちゃイメージ通りー!(笑)」
……この子はどんな世界が見えてるの…?
神崎
「まぁ新しい環境でも頑張ってくれよ!
って、お前等なら大丈夫だな!」
相沢
「任せてくださいッス!」
黒須
「……うっす」
その後も、他愛もない話で盛り上がり、楽しい時間が続いた。
神崎
「そしたら、そろそろ帰るか!
明日は朝からゴルフでな!」
相沢
「えー!もう解散ッスかー?
まだ飲みたいッスよー!」
涼風
「いいねー!ざわっち!飲みべ高いじゃん!
まだまだ飲もうよー!」
神崎
「お、そしたら残って飲んでてもいいぞ!
黒須に金預けとくから!」
黒須
「……いや、自分も帰ります」
相沢
「えー!センパーイ!帰っちゃうんスかー?」
相沢は結構酔ってるな。
涼風
「えー!くろすけ飲みベひくーい!」
涼風はいつも通りだ。
息ぴったりだな…この二人は。
黒須
「……」
神崎
「そしたら三田、これ」
神崎は三田にお金を預けた。
神崎
「多めに渡しとくから、みんなのタクシー代も頼むな!」
三田
「はい、わかりました」
神崎
「三田、いつもすまんな!
助かるよ!」
神崎
「じゃあ、またな!
あんま飲み過ぎんなよー!
特に相沢!」
黒須
「……お疲れした」
そう言って、神崎と黒須は帰って行った。
結局黒須のことはあまりわからなかったな…。
そして四人で飲んでいると、涼風が唐突に口を開いた。
涼風
「ねぇねぇ!ざわっちとくろすけってどんな関係なのー?」
ナーイスッ!涼風ッ!
リン
「私もめっちゃ気になる…!」
三田
「確かに…黒須くんのこと何も知らないから僕も聞きたいな!
本人にはなんか聞きづらいし…」
相沢
「えー?自分と先輩ッスかー?
そんな聞きたいッスかー?
もー、しょーがないッスねー!」
酔った相沢は嬉しそうに話し始めた。




