第21話 誤解
いやいや、去勢ってちょっと待て。
「そういえば近所の病院に野良猫を持って来たら無料でするって張り紙がでてましたね」
どんな良心的な病院だ。その前に首輪にきづいてくれ!
「あら? 嫌そうですね。 もしかして言葉がわかる賢い子なのですかね?」
リスクとミッションの葛藤の中、俺は判断に迫られる。最悪病院へ連れ込まれそうになったら暴れて逃げようと考え、様子を見る。猫での甘えライフを送ろうとしていただけにこのリスクは予想外だった。
すると先に行っていたロミとカズキがいるのが見えた。これはチャンスだ、どちらかにバラす事が出来れば上手く回避出来るかもしれない。
「サキ、猫なんか連れて何してんだ?」
「カズキくん、たまたま寄って来ただけだよ。ロミオと一緒なんて珍しいね」
清水さんはロミとカズキの関係は知っている。だからこそ、ロミオの状態で二人でいる事を不思議に思ったのだろう。
「うん……丁度会ったんだよ」
少しの間、アイコンタクトをしている様に感じた。多分、その状態で会っても大丈夫? とでも確認しているのだろう。
「ところでサキ、その猫どうするつもりなんだよ」
「うーん、野良猫みたいだから病院に連れていこうかなって」
「病院って……まさか」
「だって野良猫が増えるのはよく無いでしょ?」
俺は必死にカズキを見て訴えかける。彼なら多少は引き延ばしてくれると信じていた。
「お前なぁ。この猫分かってんじゃねぇか? なんか切ない顔してるぞ?」
「だけど……野良猫の今後を考えるとね」
「いや、その前に野良猫じゃねぇだろ。どう見ても高そうな首輪してるじゃねーか」
「あっ、本当だね。そしたら飼い主さんの所に届けないといけないね」
「まぁ、ほっといても猫は勝手に帰るだろうけどなぁ」
ちょっと変わった所はあるが、彼女は本質的には優しい子なのだろう。しかし本題はそこじゃ無い、カズキは珍しく周りをキョロキョロと見渡しているのがわかる。きっとロミオと打ち合わせしていただろうけど、彼女の家に行く口実を探しているに違いない。
するとロミオは急に俺を抱え上げた。
「意外と大きな猫ですね」
「魔人も猫が好きなの?」
「まぁ、使役している方もいますし、食べたりはしないですよ」
所々怖いんだよ!
カズキは清水さんに話しかけ、口実を作ろうとし始めると、ロミオが小さく囁いた。
「長嶺さん、何やっているんですか?」
「なんだよ、気づいてたのかよ」
「まぁ、普通の人には分からないと思いますが貴方の匂いがしましたので。あと、あのぬいぐるみにも気づいてましたよ?」
「今言う事じゃないだろ……」
あっさりバレてしまったものの、それはそれで好都合だ。目的は同じ事もあり、ロミオを上手く誘導して彼女の家に入れば箱を取り上げるチャンスが作れる。
「上手いこと家まで行けないか?」
「そうですね、マモ様が送り込んだと思いますので僕なりに少しやってみます」
「おう、頼んだ!」
ロミオは俺を抱えたまま歩き出す。ちょっと不自然すぎやしないかとも思うが、彼なりに考えた結果なのだろう。
「ロミオも猫が好きだったの?」
「これは……僕に懐いてくれているみたいなので」
「飼い猫みたいだから、ほどほどにね」
不信感は抱かれてはいないものの、家に持って来るなと釘を刺されている。家に入れないとなると、折角ここまで来た意味がなくなってしまう。
さりげなく入る為にも、存在感は消しておいた方がいいだろう。
「猫はともかく、サキは今日なにしてる?」
「別に、家に帰るだけだけど……」
「久しぶりに家に行っていいか?」
「……えっ、なんで?」
「いや、お前の家ってロミオの家でもあるだろ?」
「カズキくん、ロミオと仲良かったの?」
「ちょっと打ち解けてな!」
何気ない会話。だけど俺はやっぱり彼女の事をよくわかっていると感じた。押しに弱いところや、自分以外の事が絡むと清水さんは断れない。
「そう……なんだ。別にいいけど」
「なんだよ。ちょっと嫌そうだな?」
「そんな事ないよ。ロミオと仲良くなってくれるのは嬉しいし」
もしかしたら、ロミの事でカズキに対して罪悪感があるのかもしれない。彼女は何度もロミオの事をチラチラと見ている事からなんとなくそんな気がしていた。
カズキの戦略は功を奏し、清水さんの家に行ける事となる。問題は俺がこのまま入れるのだろうかという所なのだが、案の定家の前でその話題になってしまった。
「ロミオ、猫を入れるつもりなの?」
「だ、だめかな?」
「その子、飼い猫みたいだし離してあげた方がいいんじゃない?」
「でも、大人しくしてるよ?」
こっちは逆に、清水さんに言いくるめられてしまいそうだ。確かに家に猫を連れていきたいなんて話はハードルが高すぎる。ぬいぐるみだと動いたり出来ないと思ったのだが、中に入れなければ意味がない。
「もう……ちょっとだけだからね。カズキくんが帰る時に一緒に出してあげるんだよ?」
「……うん」
だけど、彼女はなんだかんだでロミオには甘かった。おかげで俺は潜入する事が出来る様になったのだけど、目的は潜入ではなくオルゴールを手に入れなければならない。
カズキもそれは分かっているのか、部屋にはいるなりキョロキョロと見渡している。一歩間違えたら不審者と言われてもおかしくはない。
「あんまり散策しないでよね」
「いいだろ? 昔からの仲じゃねぇか」
「そうだけど……最近また話す様になったよね」
そう言うと清水さんは、顔を赤くして「お茶をいれてくる」といい部屋から出ていった。
俺は二人が幼馴染だというのは聞いていたが、それまでの二人を知らない。同じ地元で育ってきた二人にはそれぞれの時期に色々な事があったのだろうとは思う。
俺はこのチャンスにカズキに話しかけてみる。
「カズキ、とりあえず先に言っておこうかと」
「うわあああ、猫? なんなんだ!」
思っていた以上の反応に、俺の方も驚いてしまう。その瞬間、ロミオはカズキの口を押さえ、押し倒すと耳元で囁いた。
「この猫、長嶺さんだよ」
「は? まひかほ」
カズキが落ち着いたのは良かったのだが、丁度ロミオが襲いかかった様なタイミングで清水さんが帰って来てしまった。
「えっ、ちょっと……そういう事?」
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