第18話 悩める子羊
「おっはよー! 昨日はエンジョイしたかな?」
「まぁ、いいホテルだったよな?」
「うん……❤︎」
おい、昨晩あの後何があった?
何があったとしても問題はない。俺自身も添い寝以上は何も無かったものの一晩中清水さんを堪能出来たのだ。
しかし、朝になると彼女はまたぬいぐるみに戻っていた。昨晩の出来事は、カズキもロミも知らない。もしかしたらマモは何かがあったのだと気づいているかもしれないが、口にはしないでおこうと思っていた。
♦︎
休みが明けると、普段通りの学校生活が始まった。願いを使う事も無く、ただただ普通の学校。少しだけ変わった事といえば、以前より俺たちの仲は良くなっているのだと思う。
「タカシ、課題はできたのか?」
「なんだよ、急に」
「いや、俺もちゃんと参加しようと思ってな」
あれだけ嫌がっていたカズキは、ロミと上手く行っているのか最近は上機嫌だったりする。だが、まだロミがロミオだという事はバレてはいない。
俺はというと、清水さんとは仲良くはなっている気はするものの、恋愛面ではあれ以来も大した変化はない様に思える。
「宮田くんの方が先に彼女できちゃうかもね」
「それは別にいいだろ」
「なんで? 男の子の友達とられちゃうよ?」
「それより、お前は大丈夫なのかよ?」
「何が?」
「願い事。もう学校に溶け込んじゃってるけどさ」
「あー! 忘れてた!」
普段の生活で願いを使う事なんて特にはない様に思う。それだけ俺の生活は充実してきている。
「そういえばさ、あの子……ぬいぐるみにした清水さんだっけ?」
「清水さんがどうかしたのかよ?」
「最近なんかそっけないんだよね」
「マモの事がめんどくさくなったんじゃない?」
「何それヒドイ! やっぱりぬいぐるみにしたのを根に持っているのかなぁ?」
「いや、彼女はむしろそういう事で悦びを感じるタイプだよ」
「アンタ本当に彼女の事好きなの?」
「そういう所も含めて大好きさ!」
しかし、マモが言っている事も一理ある。ぬいぐるみにした事では無いとは思うが、清水さんはどこかマモを避けている様に感じてはいた。
まぁ、ちょっと様子をみてみるか……。
彼女は相変わらずロミオとは仲が良さそうな事もあり、彼に聞いてみるのがいいだろうと考えた。
「ロミオ、ちょっといいか?」
「はい、僕になにか用ですか?」
俺はロミオを呼び出すと、とりあえず当たり障りの無い話から始める。
「最近どう?」
「カズキさんとですか? 充実してますよ?」
「お、おう。 だけどまだロミオだってバレてはないんだよな?」
「そこなんですよね、こっちの見た目でも結構話す様になっていつ打ち明けようかと」
「なるほどなぁ……」
確かにバレた時、カズキがどう思うのかは想像もつかない。恋愛相談なんかをロミオにする様になってしまったとしたら、それこそ打ち明けにくくなるだろう。
「清水さんはどう思っているんだろう?」
「サキちゃんは、いつも通りですよ。 なんならロミオとしても付き合えばいいみたいな感じで」
「確かに通常運転だな!」
「だけど……」
「だけど何だよ?」
「最近ちょっと悩みがあるみたいで」
やはりマモの事だろうか。俺はそれ以上踏み込むべきなのか少し考えてしまう。
「マモの事は何か言ったりしていなかったか?」
「長嶺さんもそう思います?」
この反応、ロミオも何か思う所があると言う事か。やはり彼女はマモを……。
「まぁ、これ以上はロミオに聞く話でもないな」
「そうですね。あまり憶測を進めるのは僕もよく無いと思います」
「悪いな。 ちょっと本人に聞いてみるよ」
「はい! 僕に出来る事が有れば言って下さい!」
彼女の魔人であるロミオが細かくは聞いていないとなると、マモをどうこうしようというつもりはないだろう。
そもそも清水さんはマモの事が好きだったはずだ。それがなぜこんな形になってしまったのだろうか、少し頭を抱えたくなりながらも俺は一度聞いてみるしか無いのだと思った。
「タカシ、どこに行く気なんだ?」
「いや、ちょっと清水さんに……」
「お前らも仲良くなったよな」
「カズキはロミちゃんと上手くやっているのか?」
「まぁ……それなりにな。俺はもっと彼女の事を知りたいと思っているんだけどなぁ」
「何かあったのかよ?」
「いや。相手は魔人だ、少しずつ理解していくしかないんだろうな」
ロミへの気持ちは、多分恋愛感情なんだろう。カズキが真摯に向き合った結果ならロミオの事がバレても大丈夫なんじゃ無いかという気がした。
「まぁ、サキはちょっと変わった所があるからな。お前も色々大変だろうけど頑張れよ」
「おう」
一歩づつ進む彼らと違い、俺の方は足踏みしている様な感覚だ。だけど、もしかしたらカズキも進みにくい環境に同じ様な気持ちを抱いているのかもしれない。
結局、探しては見たものの清水さんを見つける事が出来なかった。無理もない彼女は日常的に隠れている事もあり、探そうと思っても簡単に見つけられる場所にはいないのだ。
「はぁ……教室には居るんだけどなぁ」
二人で話すタイミングを作る難しさに俺は心が折れそうになっていた。
「タカシ、何かなやんでるの?」
「いや、別に……」
この事はマモにだけは相談できない。ただでさえ気になっている分、余計な感情が生まれかねない。
「別に悩んでないならいいのだけど?」
「お前はいいよな。何にも考えてなさそうで」
「何それ酷くない? 私だって色々悩みはあったりするんだからね!」
「……例えば?」
「うーん、晩御飯とか最近味噌煮込んでないなぁとか……」
「はいはい、何も考えてないのはよくわかりましたよっ!」
スネるマモに、午後の授業の涼しい風が当たる。銀色の髪がふわりと広がり、なんだかノスタルジックな気分になる。
「タカシ、ちょっといい?」
「どうしたんだよ?」
「あれ……見て?」
そう言うのマモは清水さんの方に横目でチラッと視線を送った。
「清水さんがどうかしたのかよ」
「彼女じゃ無くて、持っているアレよ!」
よく見ると、清水さんが装飾された古めかしい箱を持っているのがわかる。
「なんだろう。 アレがどうかしたのか?」
「アレ……神器だよ」
そう言ったマモは、それまで見た事がない位に真剣な顔をしていた。
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