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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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猫みたい

 屋敷に入ると、外の喧騒がウソかのように静かになった。


「まだ暴れたりないって顔してるわね」


「正直、拍子抜けでした。もう少し骨のある方々かと思っていたのですが。あれくらいなら、もう百人追加してもストレス発散にはなりません」


「冗談に聞こえないのが怖いわ。まあ、今まで散々な目に遭ってきたんだから、とことんやり返していいとは思うけど。まだまだざまあする機会はあるわよ。今回はこれくらいで我慢しときなさい」


 これ以上暴れたら、きっとクレマン様が困るだろう。それに、国王軍相手に大暴れしたと変な噂がたてば、また極悪令嬢なんて言われかねない。国王軍全滅させました、なんて、まさに国王への謀反じゃんか。私はただ、国王陛下と話をしたいだけなのに。


 うーん、と考え込む。そこではたと気付いた。ロゼッタがついてきてない。


「どうしたの、ロゼッタ。まさかさっきのでどこか痛めた?」


「いいえ。あなた様も見ておられたでしょう? 私はそんなヘマはいたしません」


「じゃあ、なんでそこに突っ立ってんのよ」


 そう問いかけると、ロゼッタは一度俯いた。


「私、頑張りましたよね?」


「は?」


「国王軍も蹴散らしましたし、ラインハルト殿下も黙らせました。十分褒められる働きかと」


 そう真顔で私に聞いてくる。


 彼女は何が言いたいのだろう。わからなくて首を傾げていると、ロゼッタは諦めたようにため息をついた。そして、私の前をドシドシと歩いていく。


「もういいです」


「え、何よ。気になんじゃん」


「べつに何でもありません」


「何でもないわけないでしょ。珍しくそんなに拗ねてるんだから」


「拗ねてなどいません」


「ウソつけ。いいから、何が言いたかったのか教えてみ?」


「必要ありません。……べつに褒め言葉が欲しかったわけではありませんから」


 そこでやっとわかった。ロゼッタが私に何を求めていたのか。


「あ! わかった、ロゼッタちょっと待って」


「嫌です。お腹が空いたので台所へ急ぎます」


 うわ、マジで拗ねてる。ひねくれ者相手だとこういう時厄介だ。こうなったら。


「ロゼッタ、ちょっと待ってって……いたっ」


 右肩が痛んで、思わずうずくまる。すると、ロゼッタが素早く反応した。


「大丈夫ですか?」


 そう言って、心配そうにしゃがみ込む。そうやって近くにきたロゼッタの頭を、私は優しく撫でであげた。


「よく頑張ったわね、ロゼッタ。おかげで、私のストレスも解消したわ。褒めてあげる。ありがとう」


 よしよし、と子どもにするように撫でる。相変わらず滑らかな髪は、触っていて気持ち良かった。


「……まさか、この私が同じ手に引っかかるなんて。屈辱です」


「ほんとはわざとなんじゃないの? こうして欲しくて」


「まさか」


 そう否定はしてるけど、嫌がる素振りはないし、なんなら私が撫でやすいように頭の高さを調整している気がする。でも、あえてそのことは口にしない。


「ロゼッタは優しいからね。たぶん、私がわざとやってるってわかってても、心配してきてくれると思うな」


「そうかもしれませんね。私はどうにもアンジェリーク様に甘いようなので」


 なんだか猫みたいだ。普段はツンツンしてるくせに、急にかまって欲しくて甘えてくる。そんな彼女がとても愛おしい。


「褒められるって嬉しいよね。ダークウルフ倒して、ロゼッタによく頑張ったって頭ポンポンされた時、頑張りを認めてもらえたみたいですごく嬉しかった」


「私も、こんなに嬉しいものだとは知りませんでした。父や祖父には、一度も褒められたことがありませんでしたから」


「そっか。子どもの時なんか特に褒められたいのにね、よく我慢したねロゼッタ。でも、もう我慢しなくていいから。私はいつでもあなたを褒めてあげる。その頑張りを認めてあげる。あなたがそうしてくれたように」


 少しでも、私がそばにいることが彼女の心の支えになれれば。甘えてもいいんだと、心安らげる存在になれれば。これ以上嬉しいことはない。


「……クセになったらどう責任とってくれるのですか?」


「なんで上から目線で責めるのよ。そしたらその都度褒めてあげるわよ。その代わり、私もちゃんと褒めなさい。一方通行だなんて不公平だわ」


「褒められるような働きをしたら考えます」


「なんか厳しいっ」


 大声を出したら刺激を受けたのか、お腹の虫が再び鳴った。それが合図かのように、ロゼッタはフッと笑うと立ち上がる。


「さあ、昼食を取りに行きましょう。そのために仕事を早く終わらせたのですから」


「うん、そうだね。早く食べよう」


 そして私達は、二人並んで台所を目指した。


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