全員クビ
「意外に慕われていらっしゃるのですね」
「うる、さい……っ」
「あなた様の無鉄砲と、アンジェリーク様の無鉄砲は、その立場上意味合いが違います。アンジェリーク様の場合は、無茶をしてこのように敵に捕まったとしても、被害を被るのは私やクレマン様といった最小限です。対してあなた様の場合、このように捕まってしまうと、誰も動けなくなって、みな敵兵に蹂躙されます」
「蹂躙……」
「それだけではありません。下手をすれば、全国民や国王陛下や家族などたくさんの命を脅かしかねない。少なくとも、レインハルト殿下はあなた様のために命を差し出し兼ねないでしょう。それは先ほどの戦場で確認済みです」
「それは……っ」
ラインハルト殿下がレインハルト殿下を見る。レインハルト殿下は小さく頷いていた。
「自分の弱さを認められず、ただがむしゃらに強がるのは構いませんが、そのせいで犠牲になるかもしれない命があるということを、あなた様は理解すべきです。少なくとも、アンジェリーク様は自分の弱さを認め、その上で自分にできる範囲で強くなろうと頑張っておられます。そんなアンジェリーク様に、今のあなた様がかなうはずがありません。お子様という表現はピッタリです」
ラインハルト殿下は黙ってしまった。ロゼッタの言葉をちゃんと理解できたのかどうかはわからない。それでも、もう反撃する気は無いようだった。
それを確認して、ロゼッタが首を絞めている腕を解こうとする。そんな彼女に、私は慌てて待ったをかけた。
「ロゼッタ、まだ解かないで。もうちょっと首絞めてて」
「は?」
「いいから、早く」
私にそう言われ、ロゼッタはわけもわからないまま再び殿下の首を絞め始める。「んげっ」という殿下のうめき声が聞こえた。
その様子を確認して、私はレインハルト殿下に微笑みかける。
「殿下、私と取引しませんか?」
「取引?」
「ええ。ラインハルト殿下を解放する代わりに、こちらの要求を二つのんでいただきたいのです」
「ほう。その要求とは?」
「一つ、私達が食べたいタイミングで食事を提供すること。二つ、監視付きでいいのである程度自由を与えること」
指二本立てながらニコニコと交渉する私を見て、レインハルト殿下はその透き通った目をぱちくりさせた。
「それは構わないが……。正直、もっとすごい要求がくるのかと思っていた」
「それはまた次の機会にします。ロゼッタを使えば、殿下達を襲うことなど赤子の手を捻るより簡単だと証明できましたから」
嫌味を込めて笑うと、レインハルト殿下だけでなく、兵士達までもぐっと言葉を飲み込んだ。本当のことだから何も言い返せないだろう。そんな姿を見るのはちょっと楽しい。少し性格悪くなったかな。
「殿下、二つの条件のんでいただけますね?」
「……先ほど言った通りだ。条件をのもう」
「聞いた? ロゼッタ」
「はい」
「じゃあ、手を離してあげて」
ロゼッタがラインハルト殿下の首から腕を離す。彼女が戻る途中、殿下が悔しそうに叫んだ。
「くそ、くそおぉぉ!」
地面を拳で叩いて悔しがる。そんな姿を、ここにいる全員が何も言えずただ見つめていた。
「ロゼッタ、お疲れ様。ストレス発散できた?」
「まあ、それなりには」
戻ってきたロゼッタは、まだ不機嫌そうだった。そんな彼女に、クレマン様が声をかける。
「すまない、本来この役目は私が果たすべきものだった。君に押し付けたようになってしまって申し訳ない」
「いいえ、クレマン様が謝ることはありません。これはクレマン様がやるより、負けたくない相手に打ち負かされる方がより効果があるかと。ですので、この場合私の方が適任でした。あとは、これをバネにできるか、このまま腐るのかはあの方次第です」
「へえ、意外。ロゼッタが私以外の人のために動くなんて」
「勘違いしないでください。私はただ、これまで受けた仕打ちの一割程度を返しただけです。あの方のためにしたことではありません」
「なーんて言ってるので、クレマン様が気にする必要はありませんよ」
「まったく、君達は」
クレマン様が苦笑する。その後で、兵士達を見回して厳しい顔つきになった。
「もし、クレマン様が軍の指揮官だったら、ここにいる兵士達をどう評価なされますか?」
「そうだな、私が指揮官なら……全員クビだ」
「クビっ?」
「そんな……っ」
クレマン様の厳しい評価に、兵士達がどよめきだす。
「レインハルト殿下。やはり国王軍の件は私から国王陛下に直訴してみます。これは早い方がいい」
「……わかった。クレマンのいいようにしてくれ」
もう誰も反論しなかった。ラインハルト殿下でさえ、子犬のような目をクレマン様に向けるだけで、何も言い返してこない。
よし、もう終わったかな。そう思いロゼッタを見る。目が合うと小さく頷いてくれた。
「では、私達は部屋に戻って遅めの昼食をいただきますね」
クレマン様とレインハルト殿下に、会釈をして屋敷へと向かう。その途中で、私はわざわざ踵を返した。
「だから言ったじゃないですか。誰も私を止められないって」
ここにいる全員に向かって、嫌味ったらしく不敵に笑ってみせる。ロゼッタが小さな声で、「極悪令嬢」と呟いたのが聞こえた気がした。
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