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  #05 温実

 内部に侵入した十人が捜索している間にも、屋敷を燃やす火の勢いは止まらない。

 温実は、門の内側に待機させた残りの十人で邸を包囲し、火によって誘き出された人間の、各個撃破に掛かっていた。

「子供は殺さないでよ」

 温実が念入りに指示を飛ばす。顔は分かっているとはいえ、遠目からでは判別できない。斉明と雅以外の子供に追求者の才能は無いらしいが、無差別に子供を殺すのは上層部に白い目で見られる。それに温実個人としても、彼らに、本当に追求者としての才能が無いのか確認しておきたかった。

 そこかしこで、裁定員が活動していた。火箭(かせん)が弧を描き、槍が串刺し、短杖(ワンド)(ふる)われる。

 変わったものでは、三日月形の刃が飛翔する。

 解創そのものはシンプルだ。『投飛』の解創。だが道具は五キロはありそうな金属の塊だ。飛ばした後に敵の追求者に再利用されるのを防ぐための工夫だった。

 だが刃には、妙な(ぬめ)りがある。それは――。

 金属が割れる音と共に、火花が散って引火する――火柱が上がる。火勢を見れば『発火』ではなく『燃焼』の解創だと容易に想像がつく。発火の仕組み自体は理屈で作っておき、伴う燃焼を強化している。

 男も女も老人も、子供以外であれば問答無用に殺害の対象となる。火箭に晒された者は火達磨に、刺された者は刃から発された火に内側から燃やされ、短杖の前にいる者は、突如として発火する。

 そこかしこで火が上がる。だが道具は人によって違う。なのに同じ結果を出している。

「同じ解創を全ての裁定員に伝授し、実戦に活かせるレベルに育て上げるとは……驚きですね、鶴野課長。あなたの采配と指導力は」

 温実の隣で、副課長が目の前の光景に瞠目していた。温実の実力を知っていてなお、現実として直視すると、やはり違うらしい。まだ初々しいなと、温実は笑った。

「解創はシンプルよ。願えば叶う、それだけだから。ただ願わせればいい。一人一人の主観が違うのは当然なんだから、それをうまい事に道具で現実と噛み合わせてやればいい。出る杭は適度に打って、打ちすぎの杭は少々抜けば、大体高さは揃うのよ。時間があれば、徹底的に教育できるから、道具まで同じ物に揃えられるけどね」

「ですが、どうして解創を揃える必要性があったんですか?」

 うーん、と温実は後ろ頭を掻く。あまり楽しい記憶では無い。

「人事の奴らが煩くてね。追求者を増やすためのテストケースがどうとかって。ようは、どういう教育をしたら追求者に出来るか試しておきたいんでしょ。……舐められた物ね。こんな事が出来るのは、私の力の賜物なのに」

 傲岸不遜な物言いは自覚していたが、温実は当然と言い切った。一人一人に見合った解創を、十人もの人間に……それも短期間に選定できるのは、自分にしかできないという自信があった。創設当初から逆算して、半年程度で、ここまで仕上げる事が出来たのは、他でもない、自分だからだ。

 鶴野温実一人が天才でも、今後の解創社会への影響は微々たるものだ。よって追求者の力を伝授できる必要がある。彼女の力と比較すれば、確かに、指導によって(もたら)させる力は卑小だが、永続性があることに意味がある。

「テストケースなら、それが課長の才能に依存したものであっては、意味が無いのでは?」

 副課長の言い分に、温実は鼻を鳴らして答える。

「ふん。指導に突出した追求者を教育中よ。その指導者も指導する才能が伸びるわけだから、『選定して指導する』ことにおいて、私と大差無いレベルの者が仕上がる」

 教育における温実のコピーを作り上げることが出来れば、そのコピーが、同じようにコピーを作ることが出来る。そしてコピーの実力を推し量る際、今回の作戦が『コピー元』の実績として、参考資料となり得るのだ。

「ってか、まだ掛かるのかしら……」

 潜入した十人からの報告がまだだ。上宮斉明の捜索に、それほど時間が掛かっているということか。

「ぎゃぁあぁぁああ!!」

 やかましい。鼓膜に響いた金切り声に対する第一印象が、それだった。声の聞こえた方向に視線を向けると、割とすごい速度で、こちらに駆けてくる老婆がいた。驚いた裁定員たちが火矢や飛翔する刃を放つが、老婆とは思えない、予想外の速度で移動するため、掠りはすれど、致命傷は避けていた。背中と後頭部が燃え上がっているので、軽くホラー染みている。

「うるさいって、ババア」

 いずれ彼らに任せておけば仕留めるだろうが――温実にとって、それはあまりに不快な……視界に映るだけで網膜が穢れそうな……品位の欠片も無い、下賎極まる人間の集大(醜態)成とでもいうべきものだった。

 キャリーバッグの蓋がひとりでに開く。ばがん、と。弾かれるようにして飛び出した透明の液体『我が命をそのままに』は、老婆の目玉を、腹を、串刺しにして燃やし尽くした。慣性に従って、駆けていた勢いのまま、燃え上がったヒトガタは温実を通り過ぎて、倒れた。燃える老婆の肘が、ボクサーのファイティングポーズよろしく収縮される。炎の熱によって、たんぱく質が凝固し筋肉が収縮しているのだ。

 ここで燃えていては不自然だ。透明な下僕に命じて、死体を火の屋敷の中に投げ込む。

「死体は全部、屋敷に入れなさい! まとめて燃やすから!」

 他にも庭に転がっている死体を見かけ、温実は声を張り上げた。燃えている死体を抱えて運ばせるわけにはいかない。『突貫』の破城槌を持った男に指示して、打撃によって燃えている死体を、屋敷に向かって、ゴルフボールよろしく殴り飛ばさせる。

 さて、これでほとんど対処できただろうか――一度、部下に集合をかけ、仕留めた数をカウントしようかと思った矢先、屋敷の一部が爆発したように吹き飛んだ。

 まるで近代兵器のバックブラストのような火炎と閃光――近くにいた裁定員が、不意打ちを喰らって飛ばされる。

 温実は『我が命をそのままに』を自分の周りに展開する。常時防御と自在攻撃、その両方を兼ね備えた透明の(しもべ)を従えて、温実は吹き飛んだ場所から出て来る、二人の人影を凝視する。

 人影は羽織を揺らめかせ、華麗に庭へと降り立った。

「裁定員――これだけの仕打ちをしておいて、よもや、この上宮邸から逃げられるなどと思ってはおるまいな?」

「まったくひどい事しよるなぁ、裁定員のお嬢ちゃん」

 二人の老人が、一人は厳しく、一人は飄々と、鶴野温実を睨め付ける。

 上宮孝治と上宮卓造。現上宮の上位二人――温実は口元を歪めてみせた。

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