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第8話:気づかないふりをしていたこと
帰り道、
信号待ちでふと空を見上げた。
雲の切れ間から、
ほんの少しだけ月が見える。
綺麗だ、と思った。
その瞬間、
小さな違和感があった。
最近、自分は
「何も期待していない」
と思っていたけれど。
こういう瞬間に、
どこかで
明日も、こんなふうに穏やかであればいいと、
考えている。
それは願いなのかもしれない。
でも、それにしがみついてはいない。
叶わなくても、
世界を責めるほどではない。
ただ、
もし叶ったら、少し嬉しい。
そのくらい。
願いは、
大きくなくてもいいのかもしれない。
信号が青に変わる。
歩き出す。
空を見上げるのをやめても、
月はまだそこにあった。




