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第6話:戻ったように見えて、戻っていなかった
夜、ふと昔のことを思い出した。
理由は分からない。
特別な出来事があったわけでもない。
ただ、少し静かすぎたのかもしれない。
あの頃は、
もっと必死だった気がする。
何かを掴もうとして、
何も掴めなくて、
それでも手を伸ばし続けていた。
今は、伸ばしていない。
それが正解なのか、
それとも逃げなのか。
考え始めると、少しだけ胸が重くなった。
「このままでいいのかな」
久しぶりに、そんな言葉が浮かぶ。
けれど、不思議と
答えを急ぐ気にはならなかった。
考えても、
考えなくても、
夜は同じように更けていく。
布団に入って、目を閉じる。
不安は、確かにあった。
それでも――
以前みたいに、
自分を責める声は聞こえなかった。
ただ、
「ああ、こういう日もあるな」
そう思っただけだった。
そして、眠れた。




