蛇──という怪人11
こんなのばっかか!!
横合いからの乱入者の手によって脇腹に激烈な一撃をお見舞いされた僕は空中を舞いながら内心で吐き捨てた。腹は斬られてないけどかなり衝撃が貫通している、二重で吐きそうだし何なら受けた部分の『鱗装』の構成物質がほぼほぼ死んでしまい崩壊し掛けてる。
ていうかどうやって近付かれた?僕は油断しているつもり無かったんだけど。
いや、考えるのは後だ。
一撃で斬れずに吹き飛んだ...いや、元から覆い被さっていた僕を吹き飛ばすのが目的で斬るつもりが無かったのだろう僕に、追い討ちを掛けるようにしてフードをかぶってなお赤い髪をちらつかせる女が既に懐に入り込んできている。
超加速でただの二歩程度で地面と平行になりながら飛んでる僕に追い付いた彼女は肩口から両断するように振り下ろし、それをなりふり構わず不完全な『蛇鱗』で強化した膜を使い正面から撃ち合う。
強化された鱗装の膜は、表面に鱗状の強固な鎧を形成しその耐久能力を飛躍的に向上させる。
前の僕ほどの深度は出ないけれどそれでも5から6近い性能として発揮されているけど、さっきの感じ的にこれでギリギリか?
「ぶった斬ってあげる」
それは遠慮願いたいな。
空中で体の捻りを使いながらの右抜き手は斬り払いで打ち払われ、左足刀は軽くパリィされる、返しの切り上げを回転しながらの裏拳で何とか横合いから打ち弾く、がフェイントだったのだろう体勢を崩さず弾かれた勢いをも利用した回転斬りをvisを限界まで注ぎ込んで強化した『鱗』で勢いに逆らわず右から左へと受け流す...失敗した、使った右腕を浅く斬られた。
ここでようやく僕の足が地に付き、その硬直を狙い済ました首狙いの払いが迫る。想定内だったので着地と同時に膝の力を抜き、更に下へと落下することで致死の斬撃を掠めながらも回避し、背中から着地、衝撃に息を止めながらも体を左右にくねらし蛇行する事で瞬時に距離を取り足裏を地面につけて何事も無かったかのように起き上がる。
しかし、ここまでのやり取りだけでもうわかる......これ勝てねぇや。
ていうか見覚えのある太刀筋なんだけど...さっきの赤い羽根といい。
「死ね全身真っ黒変態タイツマン!」
試してみるか、もしそうなら...半殺しで許してくれるといいなぁ。
これでもかという殺意を込められた床が抜けると錯覚するような踏み込みと同時に振り下ろされた斬り下ろしを人差し指と中指を立てて、間に挟み込む様にして受け止めクッションとしながらそのまま腕、二の腕、肩、背中と衝撃を分散させながら受け止め、順番に剣の刃の部分を受け止めていく。
よく知っている剣筋だからこそ出来た曲芸で、見た目だけは無傷に見えるだろうけど実は中までうっすらと貫通しており腕から背中に掛けて綺麗な一本線が通っている、血を流してしまえば格好が付かないので全部『鱗装』に喰わせてダメージの修復と情報を与えている。
「なぁ!?嘘でしょっ!?」
そして、これが出来たってことはつまり......Ⅰそういうこと《知り合い》だよなぁ。
聞き覚えのある声も確信に至ってしまった。
「アンタ...顔を見せなさい」
こっちが気付いたってことは、向こうもほら。
一応剣を構えているが殺意はなく、明らかな怒りだけの感情を伴ってそのフードに隠れた顔が歪んでいくのがわかる。
優勢だったのに剣を止めて顔見せろとかいうから後ろにいるフードの女性も戸惑っているじゃないか。
嫌だなぁ、隠しておけないかなぁ。
「さっきの変態技が出来るって事とその気持ち悪い体術って時点でもうバレバレなんだから諦めなさい、そんでもってあの子に襲い掛かった理由を話しなさい。理由によっては一撃で勘弁して上げるからね?真蛇」
僕をその名前で呼ぶのは『蛇』の一族を覗けば二人しかいない、一人は『鉄』の怪人であり僕の武術の師であるギンという怪人。そしてもう一人が僕の前でメキメキと青筋を立てている『鳥』の怪人。
まともにやって勝てないのは知っている、僕だと確信を持っている彼女相手に今の装備で逃走も不可能、というかしてはいけない。
つまりは、詰みだ。僕の詰みで負け。だから諦めて顔の部分の同化を解いて素顔を露にする。
「止めてくれよ、僕は君なんかの怪力で殴られたら死んでしまう。今は特に、ね。だから怒りを抑えておくれ、今回のはただの不幸な行き違いなんだよ...アンナ」
そうして、フードを脱いだ彼女は『活火不滅鳥』の証である燃えるような紅い瞳と赤い髪をたなびかせながら不機嫌そうに鼻をならした。
「どういう行き違いかキリキリ説明してもらおうかしら。『響鳴雀』ごめんね、もう大丈夫だから。こいつは敵じゃないわ、むしろ探してた奴よ」
「私は怪我もなく大丈夫ですが...この、真っ黒な怪人が探していた『蛇』の怪人ですか...?」
大丈夫だって言っているのにじりじりと距離を空けようとする『響鳴雀』という怪人。
かなり怯えさせてしまったようだ、あんなに優しくしたというのに。だって殺すんじゃなくて拉致監禁尋問で収めようとしたんだよ?侵入者なのに。
他の一般怪人なら既に手足の一本や二本は折るやら切り落とすやらした上で拉致遊び監禁遊び拷問のフルコースだっていうのに。
「幾らなんでも荒事慣れしなさすぎじゃないかな?その子」
「んん゛?」
おおっと、思考が漏れてしまった、早く喋らないとまた斬られてしまう。気になる単語がいくつか出ていたが今は置いておいて此方の事情を説明するとしよう。
「説明、とはいっても、何から説明したものか...その子を襲った理由からかい?それとも僕がこんなところに居る理由からかい?その話ならまず、君達がここに居る理由を知りたいものだけど」
話の主題は何処かのすり合わせから始める。アンナも溜め息をつきながら付き合ってくれる。何だかんだ言って話し出すとそれに付き合ってくれるの僕は好きだよ。
「勿論この子を襲っていた理由──じゃなかった、ここに居る理由...というよりもあの日、あなたの...『蛇』の怪人達の本拠地、あそこが消滅したあの日あの時、何があったのか。何故あぁなったのか、怪神はどうなったのか......それを調べるのが今のあたしの任務よ」
一瞬妙な脱線をしかけるも直ぐ様に軌道修正をして聞いていないけど聞きたかったことを話してくれる。
「同盟を組んでいた『蛇』の怪人があたし達のアジトに情報提供するから調べてくれって、そうしてもたらしてくれた情報を元に生き残りが居ないか探してたのよ」
「あぁ、それでこの場所、と。確かに、統率を失った古参が逃げ込むとしたらここで間違いないだろうね。実際僕もここを選んだわけだし」
なるほどなるほど、それで場所は分かったのはいいけど中に入る方法が分からなくてわざわざアジトに連絡して入る方法を聞きに行っていたのか。
でもなぁ、中から開けるのは誰でも出来るけど...
「で、あれでしょ?聞いても分からなかったでしょ?ここの入り方は幹部でも一部しか知らないから」
「......そうよ。あたし達の所に逃げ込んできた一番高い幹部補佐の怪人でも『作ったのあの変態だから検討もつかない』とかいう有り難いお話をいただけたわ」
「誰だそんな事を言ったやつ、後で教えてね」
アンナから否定の言葉を聞きながら居間を一周ぐるりと回る。うん、誰かが入った形跡は無いね。でも半分くらいは仕掛けを突破されているか。
「そこの子、『響鳴雀』だっけ?」
「は、はい!」
「君、戦闘能力はかなり低いと思ったけど...こっち特化だったのか、と思ってね」
「あーその事ね。確かにこの子はねぇ、一応冷静にやれれば強いんだけど総合的に見て..."見習い"卒業レベルかしら。連れてきたのは仕掛けとかを看破するのに丁度良いと思ったからだけど...いきなりどうしたのよ?」
「後で詳しく話すけど...僕が襲い掛かった理由の半分くらいがそれが原因だからねぇ...さて、続きは下で話そう。こんな埃ぽいところ、長居したくないだろ?」
居間の外側の壁が不自然に浮き上がり、開く。
二人とも目を見開いているけど僕が何をしたかは分からないだろう。ただ、どうしてそこにと疑問に浮かべることしか出来ないはずだ。
「下なら怪人レベルのvisを放出してもバレることはないし、外目を気にしてその暑苦しいフードを被ることもない。それが好きっていうなら仕方無いけど...個人的に僕は空気は清潔な方が好きなんだよね」
『怪人省が定めた怪人の驚異度の階級』
評価は最大でA+
A+からEまでありその緊急性はその怪人の定められた評価項目によって変動する。
Aなら天災と同等、Bなら休日返上出勤、Cで常在が出動。
「推定二級怪人、驚異度Cが出現~付近に準三級が~」みたいな感じでアナウンスされる。
基本的に三級以下は戦闘員扱いなので省略されるが基本的にE~Dとされ、単独の場合見習いヒーローが出撃することになっている。




