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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第4章「人はイイトリ」
39/54

第38話「贖罪」

 *


「おはよう」


「おはようございます」


「今日は起きてたんだ」


「一夏さんが捕まるかもしれないのに、ゆっくり寝てるわけにいかないじゃないですか」


「そんなこと気にしてたんだ。別にいいのに」


「好きな人をみすみす犯罪者にしろと?」


 朝食を持ってきた彼女が、いつもの如くベッドに置く。見慣れた洋食に手を合わせ食べ始めると、彼女は再び話し始めた。


「静かなの」


「え?」


「おかしいよね。いつもなら会社に行く人が行ってないし車が一台も動いてない。

 意味、分かる?」


「強行突破してくるってことですか?」


「そう。今は七時四六分。突入は八時ピッタリかな」


「そこまで分かってて何もしなかったんですか?」


「逃げる意味があると思う?」


 その問いには否と答えるしかない。目を伏せて食べる手を止めてれば「早く食べちゃって」と催促された。


「伊澄の携帯あるよね?」


「え、はい」


「伊澄に届けてくれる? きっとそれがないと困ると思うから。この家に置いておいたら押収されちゃうし」


「分かりました」


「ありがとう」


「一夏さん」


「何?」


「この監禁に意味ってあったんですか?」


「あったに決まってるでしょ? 浅沼の蒼い顏が見れただけで、もう十分。協力してくれてありがとう、隼君」


「俺の告白覚えてますか?」


「勿論」


「答えは貰えないんですか?」


「うん。警察が入ってきたらこの関係はお終い。私達は他人になるんだから」


「他人なんかじゃないです。一緒に過ごした時間は絶対消えない。だから、はぐらかさないでください」


「そうね。他人じゃない。私達は被害者と加害者だ」


「俺は、そんな風に思ってません……!」


「加害者ってね、被害者に近付かないように念書を書かされるんだって。ホントかな?」


「なん、ですかそれ」


「つまり、もう終わりってこと」


 言葉を紡ごうとした唇を塞がれる。吃驚に目を瞑る余裕すらなく、俺の視界は侵された。しっとりとした唇は柔らかく、啄むように口唇をなぞる。緩慢に離れたかと思えば、妖艶に笑む彼女が居た。


「これ、お礼ね?」


「な、に」


「冴島一夏! 誘拐、監禁罪の現行犯で逮捕する!」


 俺の言葉を遮る男の声に目を瞠る。けたたましい足音に囲まれながら、俺は混乱する脳漿を諫めることが出来なかった。


「一夏さん?」


 大人しく捕まった彼女を粗暴に扱う警官が許せない。けれども乾いた口が紡いだのは、彼女に対する問い掛けだった。


「俺、言葉が欲しかったんですよ……?」


「隼君、落ち着ていてね。もう大丈夫だから」


 女性警官が優しく問い掛けてくるが、言葉の意味を咀嚼出来ない。何も大丈夫なんかじゃない、と叫びそうになるのを俺は必死に堪えた。


「一夏さん」


「……元気でね」


 泣きそうに笑った彼女が複数の警官に連れて行かれる。それを追い掛けようとしていれば警官に阻止された。


「落ち着いてください」


「嫌です……!」


「もう大丈夫ですから」


 俺の前に立ちはだかった男性警官が、また「大丈夫」と口にする。そのうち大人に囲まれた俺は、呪文のように繰り返される「大丈夫」に吐き気を催した。

 姿を見れば分かるだろう。俺の衣服は清潔に保たれ、身体から悪臭もしない筈だ。肌の色艶だっていい、隈だってない。なのに警官達は、俺を可哀想な子供でも扱うように囲っていた。


「大丈夫じゃないです。一夏さんと話をさせてください……!」


 ――まだ告白の返事を貰ってないんだ。


 その一言を告げられぬまま泣き崩れる。誰も俺を理解などしてくれず、やたら丁重に扱われるものだから怒りが湧いた。

 俺が欲しいのはこの手じゃないのに、と。

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