ひきつけ
「うーっ! うーっ!!」
その日、璃音はまた頭を掻きむしって唸りだした。そんな彼女をそっと抱き上げて、麗亜は「どうしたの?」と優しく問い掛けていた。
でもそれは、答えを引き出す為の詰問じゃなく、ただ『あなたのことを心配しているの』という麗亜の気持ちを伝える為のものだった。答えてもらえなくても構わない。ただ自分が見守っているということを伝えたいだけ。
いつもはそうしてしばらくすると治まるのに、この時の璃音はそうではなかった。
「うぅぅ… うぅぅ……」と唸って、頭をぶんぶんと振った。そして、
「ママ! ママぁ!!」と、まるで助けを呼ぶかのように麗亜を見詰めながら叫んだ。その目からは涙が溢れていた。
さすがにこれはただ事じゃないと感じ、麗亜も落ち着いてはいられなかった。
「どうしたの? 大丈夫? 璃音……!」
さっきのそれとは違い、今度は明らかに答えを求めて問い掛けているそれになっていた。何か異常があり、でもそれを上手く伝えられなくてパニックを起こしているのかと思った。
「どうしよう…!」
自分だけでは対処しきれないと感じた麗亜は、真尋に助けを求めるべく咄嗟にスマホを取り出していた。
だがその時、
「うぅ―――――っ!!」
と璃音が声を上げ、グーッと体をのけぞらせて固まってしまった。
『ひきつけ…!?』
麗亜の頭にそんな単語がよぎる。そう言えば小さい子は熱を出した時なんかにこうやって<ひきつけ>を起こすことがあると聞いたことがあった。自分も赤ん坊の頃、熱を出して何度かひきつけを起こしたことがあると両親から聞いた。
こういう時は、変に騒がず、声を掛けたりせず、ゆすったりせず、落ち着くのを待つのがいいとも聞いたけれど、実際にそれを目の当たりにすると冷静ではいられなかった。
「璃音! 璃音…!」
つい、彼女の名前を何度も呼んで、ゆすってしまった。麗亜の両親も言っていた。『そっとしておくのが一番って言われても、やっぱりそれを目の前で見るとパニックになるよね』と。この時の麗亜もまさにそれだった。
だからといってどうしていいかも分からず、麗亜の頭は真っ白になっていた。
でも、その時、突っ張るようにのけぞっていた璃音の体から突然力が抜けてだらんとなり、焦点の合わない目を中空に向けて茫然としてしまったのだった。
「璃音……!」
泣きそうな目で彼女を見詰めそう声を掛けた麗亜の耳に、微かに何かの音が届く。
「……」
「え!? 何!? なんて言ったの? 璃音!」
璃音の口が微かに動いているのに気付いた麗亜に、今度は確かに言葉が届いたのだった。
「れい…あ……」
と。




